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3 イタリアの免税芸能法人等に支払う役務提供事業の対価

Question


 内国法人である当社では、イタリアの芸能プロダクションD社を通じて、イタリアの芸能人Eを日本に招へいする予定です。Eの出演報酬400万円は直接Eに支払わず、出演契約締結先のD社にその手数料とともに一括して600万円を支払うこととなっています。

 当社が確認したところでは、D社は国内にPEを有せず、また、ワンマンカンパニーではないということですので、日伊租税条約を適用して、免税扱いにしてよいでしょうか。


Answer


 イタリアとの租税条約により、ワンマンカンパニーに該当しない芸能プロダクションが受取る対価は免税とされていますが、国内法によっていったん課税されることとなっていることから、貴社はその対価を同社に支払う際に所得税の源泉徴収を行う必要があります。


 国内法では、国内において芸能人等の役務提供を主たる内容とする事業を営む外国の芸能プロダクション等(芸能法人等)に対して支払うその対価は、国内源泉所得に該当することから、原則としてその支払の際に20%の税率による所得税の源泉徴収が必要とされています。

 その一方、日伊租税条約では、芸能人等の役務提供事業の対価であっても、その提供事業を行う芸能法人等が国内にPEを有しないか、その対価が国内に有するPEに帰せられない場合、又はワンマンカンパニーでない場合には、我が国における課税が免除されています(免税芸能法人等)。

 しかし、この場合の課税免除の方法は、源泉徴収が免除されるのではなく、免税外国芸能法人等が受けるその対価については、いったんその支払時に20%(「免税芸能法人等に関する届出書」を提出すれば15%)の税率による所得税の源泉徴収が行われます。これは、いわば芸能法人等や芸能人等に対する役務提供地国における課税逃れ防止策の一つとして国内法に定められたものといわれています。この源泉徴収された所得税については、免税芸能法人等が外国の芸能人等に支払った役務提供報酬について源泉徴収をして、その所得税を納付した後に還付請求書を提出することにより、還付されることとなっています。

 ご質問の場合、イタリアの芸能プロダクションD社は、我が国にPEを有せず、しかもワンマンカンパニーに該当しないとのことですので、免税芸能法人等に該当します。したがって、貴社がD社にその対価を支払う際にいったん20%(又は所定の届出により15%)の税率による所得税の源泉徴収を行うこととなりますが、この場合、D社は興業主である貴社から受け取る対価のうちから、イタリアの芸能人Eさんに対して報酬を支払う際に20%の税率で源泉徴収した所得税を納付した後に、所定の還付請求書を貴社の納税地の所轄税務署に提出することにより還付を受けることになります。また、芸能人Eさんに支払う報酬に対する源泉所得税については、その納付に代えて、この還付金の一部を充当することもできます。

 なお、D社は、源泉徴収をした所得税の納付や還付請求書を提出するため、我が国における納税管理人を定めて、貴社の所轄税務署に届け出ることとされています。

 この場合の、芸能人Eさんの国内源泉所得に対する課税は、D社からEさんへ支払う報酬に対する所得税の源泉徴収(税率は20%)が行われることによって終了することから、我が国における所得税の申告は不要となります。

 上記の説明について、本問のケースに当てはめた場合の免税芸能法人等に対する源泉徴収と還付請求等の手順を次のとおり図示します。


 注1  D社(免税芸能法人等)は、「免税芸能法人等に関する届出書」を提出しているものとして、その対価についての源泉徴収税率は、15%として図示しました(手続については門野久雄著『非居住者・外国法人 源泉徴収の実務Q&A』第3章問24を参照)。

 D社(免税芸能法人等)は、上記(2)の源泉所得税額(80万円)の納付に代えて、上記(6)の税務署からの還付金(源泉徴収された所得税90万円)の一部を充当することができます。


参考 措法42〈免税芸能法人等が支払う芸能人等の役務提供報酬等に係る源泉徴収の特例〉、措令27丸数字3〈免税芸能法人等が支払う芸能人等の役務提供報酬等に係る源泉徴収の特例〉、実特法3〈免税芸能法人等の役務提供の対価に係る源泉徴収及び所得税の還付〉

 

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