不動産賃貸借におけるインボイス制度対応
リエ「黒田さん、こんにちは。インボイス制度の開始まで半年をきりましたね。そこで少し気になった点がありお聞きしたいのですが、宜しいでしょうか。」
黒田「リエさん、こんにちは。はい、どうぞ。」
リエ「インボイス制度が始まると、適格請求書発行事業者が発行したインボイスが必要になるかと思いますが、家賃の支払いのように口座引落しになっていて請求書の発行がないような取引はどうなるのでしょうか。また、新たに賃貸借契約書を作成して頂く必要がありますか。」
黒田「賃貸借契約書を作成して頂く必要はありません。しかし、家賃の支払いも原則としてインボイスを保存しておく必要があります。家賃の支払いのようにすでに締結された契約書が存在する場合、インボイスとして不足している事項を記載した覚書等を契約書と一緒に保存することによりインボイスとしての要件を満たすことができます。」
リエ「では賃貸借契約書の内容を確認し、インボイスとして不足している記載事項をオーナーさんから頂く必要があるということですね。」
黒田「その通りですが、まずはオーナーさんが適格請求書発行事業者になられているかの確認が必要です。オーナーさん側の立場からすると、ほとんどが居住用のビルの1階だけを店舗として貸していたり、居住用アパートの駐車場を賃貸しているだけといった場合は、非課税売上がほとんどを占めますので、適格請求書発行事業者にならないという選択をすることもあります。また、適格請求書発行事業者になったとしてもオーナーさんによって対応方法が変わってくる場合もありますので、まずはオーナーさんのインボイス制度への対応方法を確認されたほうがいいでしょう。」
リエ「わかりました。先程の契約書と覚書を一緒に保存するというお話ですが、インボイスは1枚でなくて良いのですか。」
黒田「はい。一つの書類で記載事項の全てを満たす必要はなく、複数の書類で記載事項を満たしても良いことになっています。ですので、口座引落や振込の場合など、通帳や振込明細などで取引年月日の確認がとれ、残りの必要な記載事項を契約書で確認できる状態であれば、それらを保存しておくことでインボイスとして認められます。」
リエ「なるほど。そのほか気を付けるべき点はありますでしょうか。」
黒田「そうですね、オーナーさんが適格請求書発行事業者にならないことを選択した場合、基本的には仕入税額控除ができなくなります。令和5年10月1日から3年間は仕入税額相当額の80%、令和8年10月1日から3年間は仕入税額相当額の50%の経過措置はあるものの、令和11年10月1日以後、仕入税額控除はできなくなる予定です。
仕入先などの取引先と同様、適格請求書発行事業者にならないことを選択された事業者への対応を検討する必要が出てきますのでご注意下さい。」
リエ「そうでしたね。家賃は毎月の金額も一定ですし、契約更新という家賃の額を協議できる機会もありますからある意味対応しやすい気がしますね。」
黒田「そうかもしれませんね。それと取引の都度請求書等が交付されない取引について、取引の途中でオーナーさんが適格請求書発行事業者でなくなる場合も想定され、その旨の連絡がない場合にはその事実を把握することは困難となりますので、必要に応じ、国税庁適格請求書発行事業者公表サイトでオーナーさんが適格請求書発行事業者か否かの確認が必要になります。」
リエ「そうですね。一度調べたからといって安心せずに、定期的に確認するようにします。ありがとうございました。」