帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められるもの
リエ「黒田さんこんにちは、この時期はやることが多くて混乱しますね。」
黒田「こんにちは。そうですね、今年は例年の業務に加えてインボイス制度への対応も準備しないといけませんから。」
リエ「そういえば消費税の仕入税額控除について確認したいことがあるのですが、質問してもよろしいでしょうか。」
黒田「もちろんです。」
リエ「社員へ通勤手当を支給する場合、ほとんどの社員は適格請求書発行事業者ではないですよね。通勤手当は仕入税額控除を受けられないということになるんですか。」
黒田「いえ、通勤に通常必要と認められる部分の金額については、適格請求書が保存されていなくても、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められます。ちなみに『通勤に通常必要と認められる部分の金額』は所得税法施行令第20条の2に規定されている『非課税とされる通勤手当』の額を超えているかどうかとは関係ありません。」
リエ「そうなんですね。では、国内に出張する時の旅費や宿泊費の扱いはどうなりますか。」
黒田「こちらも同様に、その旅行に通常必要であると認められる部分の金額については、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められます。この場合の『その旅行に通常必要であると認められる部分』は所得税基本通達9-3に基づいて判断されますので、所得税が非課税になる範囲と同様になります。」
リエ「ありがとうございます。今まで通り仕入税額控除ができそうで安心しました。その『一定の事項を記載した帳簿』の『一定の事項』とは何でしょうか。」
黒田「通勤手当や出張旅費の場合は、通常必要な記載事項の他に『通勤手当』や『出張旅費』の記載が必要です。これはあくまで記載や保存方法の一例ですが、この通常必要な記載事項の中に『課税仕入れに係る資産又は役務の内容』というものがありますので、出張旅費を後で精算するような場合であれば、①従業員の方からの精算報告書に『実際の利用年月日、利用した交通機関の名称、利用区間や行先、電車代やタクシー代といった具体的な役務の内容、利用金額』を記載して頂きます。②そのうえで、経理のほうでは仕訳を会計ソフトに入力する際、摘要に『出張旅費』と入力します。この①と②を合わせることで記載事項を充足することになりますので、元帳や仕訳帳だけではなく、この精算報告書も帳簿として原則7年間保管する、という方法が考えられます。」
リエ「なるほど、今とそれほど変わらないですね。確かに精算報告書を帳簿として保存すれば、同じ内容を会計ソフトに入力する必要はありませんよね。でもその代わりに保存書類が増えてしまいます。」
黒田「そこで電子帳簿保存制度が適用できる会計ソフトや経費精算システムの利用を検討されてもいいのではないかと思います。」
リエ「分かりました、書類の量を見直して改めて検討してみます。」
黒田「この他にも、請求書等の交付を受けることが困難であるなどの理由により、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められるものがありますが、先程の出張費等の記載事項に加えて『相手方の住所又は所在地』の記載が必要なものがあります。例えば3万円未満の自動販売機又は自動サービス機からの商品の購入の場合は、○○市自販機、××銀行□□支店ATMといった記載が必要になります。」
リエ「それはちょっと面倒になりますね。現在の帳簿は日付と物品名くらいで、購入場所がわかるような記載はしていません。経理担当者以外が立替払いをして後から精算することも多いので、精算方法の見直しや社員への説明をしないといけないですね。」
黒田「そうですね。10月1日に間に合うように準備していきましょう。」