税理士事務所のSDGsへの取組み
■SDGsの重要性
SDGs:Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)
気候変動による自然災害発生の頻発や新型コロナウイルス禍など、不確実性が高まるこの時代に、企業は経営のパーパスを見直し、社会課題の解決に貢献しつつ、新たな価値を提供し、生き延びていくことが求められています。
2015年9月に国連加盟国の全会一致で採択されたSDGsのゴール達成に向けた世界の大きな潮流は、日本においても大企業等の取組みに表れています。否むしろ大企業はステークホルダーの厳しい視線から取組みを加速せざるを得なく、同様に中小企業もこれに取り組まざるを得ない状況となってきました。カーボンニュートラルの達成に向けたCO2削減の取組みは典型的な例です。大企業からサプライヤーに対して発せられるCO2削減の要請に対して、中小企業が対応しない、あるいはできないとなると、これらの企業と取引ができなくなる時代が迫ってきています。
この状況を座したまま傍観することは、中小企業の生存を脅かすことになりかねません。
■SDGsの認知度の高まり
各種統計にあるように、SDGsの認知度は年々高まってきています。
顧問先の経営者からの質問も、当初は「SDGsって何なの?」「うちの会社にどのように関係があるの?」という興味に過ぎませんでしたが、この大きな潮流によって、中小企業も取り組まざるを得ないという意識に変化してきていると感じます。しかしながら、どう取り組めばよいのか、これによって事業をどのように発展させていけば良いのか、それらに対して明確な答えを持つ経営者は決して多くなく、経営者の身近な相談相手である税理士もそれに答えられないのが現状となっています。
■税理士事務所がSDGsコンサルティングに取組む理由
●税理士事務所の顧問先を守る使命
税務はもちろんのこと、顧問先を守ることが我々税理士事務所の使命であると考えるなら、この中小企業を取り巻く状況に手をこまねいている訳にはいきません。
顧問先である中小企業がSDGsに取り組まないことによって、業績悪化や廃業の危機に陥ることが予想されています。もしそうなると、顧問料の減額や解約などに繋がり、税理士事務所自身の存続も危うくなってきます。
しかし、この潮流を逆手に取って、税理士事務所がSDGsを支援すれば、顧問先はピンチを脱し、長期にわたる持続可能な企業としてステップアップでき、結果として税理士事務所にとってビジネスチャンスになるのではないでしょうか。
●税理士事務所業界での差別化
まだ、多くの税理士事務所がSDGsに取組んでいない状況で、いまこれに取組めば、他の事務所と大きな差別化となり、SDGs取組み事務所としての地歩を築くことは十分可能と考えます。そうなれば、事務所のブランディング力が高まり、選ばれる事務所として認知されるようになります。また、若い世代から選ばれる事務所になります。Z世代(一般に1995年~2010年生まれ)・α世代(2010年以降生まれ)は、「デジタルネイティブ」「SDGsネイティブ」とも言われ、社会問題への意識が高い世代です。就職のときに彼らは給料や環境よりも、「社会に貢献したい」「個人の生活と仕事を両立させたい」など、SDGsに取り組んでいる企業を志望する傾向が高く、その後、起業したり、経理担当者になり、税理士事務所を選ぶときの基準として「SDGsに取り組んでいるか否か」を重視する可能性が高いと言われています。
採用に苦しむ事務所が多い税理士業界にとってSDGsに取り組めば、優秀な人材の確保に結びつき、採用後も事務所へのロイヤリティや社員満足度が高まり、離職率の低下にも繋がることでしょう。
■まずSDGsを理解
SDGsコンサルティングを始めるためには、当然ながら税理士事務所自身がSDGsを理解することが出発点になります。
SDGsの各ゴールやターゲットは、いきなり端から読んでも理解するのが難しいため、まずは5つのPで区分して全体を俯瞰することが早道となります。
①People(人間)
②Prosperity(繁栄)
③Planet(地球)
④Peace(平和)
⑤Partnership(協働)
もう一つの区分は、いわゆるウエディングケーキモデルです。最下層の基盤に地球環境関連、その上に社会関連、さらにその上に経済関連の各ゴールがあり、最上部に目標17のパートナーシップが位置するものです。
土台となる環境が破壊されれば社会は不安定になり、社会が不安定になれば経済成長どころではなくなることを示し、そのためには協働したパートナーシップで社会課題の解決に取り組むことの重要性を示しているものです。
なお、共同著書で『社長のためのSDGs実践経営』(マネジメント社)でSDGsの基本知識から実践的な導入について著していますので、参考にしていただけたら幸いです。