インボイス制度スタートで経理業務の負担が激増!?
※本文は令和4年度税制改正の内容をもとに作成しております。2022年12月16日に発表された、令和5年度税制改正大綱の内容を反映した補足を最後に記載していますので、併せてご確認ください。
1.なぜインボイスで業務負担が増えるのか?
今、経理業務を担当されている方の中で最も関心の高いトピックの一つが、令和5年10月1日から導入されるインボイス制度 (適格請求書等保存方式) ではないでしょうか。制度のスタートまでに、適格請求書発行事業者への登録申請をしたり、自社の請求書をインボイス形式に変更したりと、面倒な手続きが必要となりますが、それ以外にも制度開始後の経理業務において、業務の負担が増える可能性が高いといわれています。今回のコラムでは、この「制度開始後の経理業務の負担」にフォーカスしてみたいと思います。
業務負担が増える理由① 適格請求書等発行事業者の登録番号の確認
定常的に問題となりそうなのは、仕入や経費の請求書や領収書の処理です。適格請求書等には発行事業者の登録番号が記載されているはずですが、当該事業者が間違いなく登録されているかを確認するには国税庁のWebサイトで照合をする必要があります。
国税庁インボイス制度適格請求書発行事業者公表サイト
請求書を受け取ったとき、当該仕入先の事業者が「適格請求書等発行事業者」として登録されていない場合、仕入税額控除できなくなります。このため、会計ソフトへの仕訳の登録を行う際に、税区分などを変更する必要が出てくるわけです。
また、受け取った請求書が適格請求書の要件を満たしていない場合は、正しい請求書を交付してもらうように依頼しなければなりません。
業務の流れを整理すると、今までは請求書に記載されている金額をそのまま仕訳入力すればよかったのですが、インボイス制度開始後は
ⅰ適格請求書等発行事業者の登録番号の確認
ⅱ適格請求書としての要件を満たしているかの確認
ⅲ事業者登録の状況によって、仕訳の税区分を判断して入力
という作業をすべての仕入先で行う必要が出てきます。
もちろん、継続的に取引している事業者が固定されている場合は確認の頻度は少ないでしょうが、営まれている事業によっては頻繁に新たな取引先から仕入が発生する場合も考えられますから、業務量が膨大になる可能性があります。
※「業務負担が増える理由① 適格請求書等発行事業者の登録番号の確認」の事務処理は、本則課税の事業者の場合を想定しています。
業務負担が増える理由② 値引きを受ける場合
別の例として、売り手側として値引きをする場合が挙げられます。課税事業者に返品や値引きを行う場合、インボイス制度では「適格 “返還” 請求書 (返還インボイス) 」を発行することとなっています。請求書を発行したあとに値引きした金額が入金されるような取引がある場合は、買い手側が返還インボイスの要件を満たした支払明細書等を売り手側に交付するか、売り手側が返還インボイスをあらためて買い手側に交付する必要があります。
上記のような解説を見ると「うちは値引きに対応した取引をしていないので大丈夫」と思われる方も多いかもしれません。しかし、これで問題となりそうなのが、買い手側が銀行の振込手数料分を請求額から差し引いて振り込んでいるケースです。
インボイス制度では、3万円未満の取引について、現行のように「帳簿のみ保存」による仕入税額控除は原則として認められないため、この振込手数料についても適格請求書等の保存が必要になります。
では、この振込手数料をどのようにとらえるか?ですが、「買い手が売り手の負担すべき振込手数料を立て替えた」とするのか、「売り手が振込手数料相当額を値引きした」とするのかで、処理の方法が変わってきます。
処理の内容を考慮すると、現実的には値引きと捉えて処理をすることが多くなりそうなのですが、上記した返還インボイスをどのように取り扱うかを1件ずつ確認し、場合によってはこれを交付する必要も出てくるかもしれません。
このような手間を考慮して、事前に振込手数料を買い手側に負担してもらうよう依頼をするケースも増えているようですが、売り手・買い手のパワーバランスや新規取引の多さなどによっては、事前確認ができないケースも出てくるかもしれません。
2.業務負担を減らす方法は?
このような業務負担を減らすためにどのようなことが検討できるでしょうか?
まず確認したいのは自社の使用している会計システムや請求書発行システムです。
会計システムや請求書発行システムは、インボイス制度開始前に適格請求書等を発行・受領するうえで必要な機能が搭載されるはずですから、この際に上記のような問題を解決できる機能がないかを合わせて確認するとよいでしょう。
現時点でも、多くのベンダーがこれらの問題に対応したアシスト機能を搭載することを表明しているので、まずは現在利用中のシステムベンダーに確認することをお勧めします。
また、領収書や請求書の事業者登録番号の確認や、適格請求書としての要件を満たすかの確認については、これら証憑類をアップロードして使用するクラウド形式の経費精算システム、受取請求書データ化サービス、自動記帳サービスなども対応機能を表明しています。
このようなサービスは、インボイス制度による業務負荷を軽減するだけでなく、日常の経理業務のさまざまな部分を効率化できますし、同時期にスタートする改正電子帳簿保存法でも効果を発揮しますので、あわせて導入を検討されることをお勧めします。
補足:令和5年度税制改正大綱を踏まえての追記
2022年12月16日、与党より令和5年度の税制改正大綱が発表されました。こちらの内容の中から上記コラム内容に影響があると思われる部分を追記いたします。
A.中小事業者の少額取引に係る事務負担の軽減措置
コラム内「業務負担が増える理由① 適格請求書等発行事業者の登録番号の確認」で触れられていた部分に関連する内容です。以下に該当する事業者が行う一定の取引について、6年間の経過措置で、一定の事項が記載された帳簿のみの保存を要件として、インボイスの取得・保存不要で仕入税額控除が認められる、とされています。
【以下のいずれかに該当する事業者】
・基準期間(前々年又は前々事業年度)における課税売上高が1億円以下の事業者
・特定期間(前年または前事業年度開始の日以後6か月の期間)における課税売上高が5,000万円以下の事業者
【対象となる取引】
・課税仕入に係る支払対価の額(税込価額)が1万円未満の取引
課税売上高が1億円を超える事業者は対象とならず、さらに1万円未満の少額の支払に限定されるため、経理の負担軽減は限定的ではないかと思われます。
B.少額な返還インボイスの交付義務の見直し
コラム内「業務負担が増える理由② 値引きを受ける場合」で触れられていた返還インボイスに関連する内容です。大綱では、税込価格が1万円未満の売上返還については、返還インボイスの交付義務を免除する、とされています。これによって、コラムで記載されていた、振込手数料を売り手が負担するケースは大幅に事務負担が軽減されるものと思われます。