海外活動をめぐる税務~日本の税制だけでは答えが出ない海外との取引
今やわが国では、中小企業においても、海外との取引が何らかの形で行われるようになってきています。
海外活動をめぐる税務については、その取扱いがわが国の税制だけではおさまらない項目も多いため非常に複雑で、国内外の税制のほか、わが国との間に租税条約がある場合にはその内容も押さえておく必要があります。
一般的に、内国法人の現地国での課税は、恒久的施設(PE)を有するかどうかによって異なり、外国法人が日本国内にPEを有する場合は、そのPEに帰属する所得が国内源泉所得として位置づけられています。(帰属主義)
●恒久的施設(PE=Permanent Establishment)とは
わが国の税法におけるPEの定義は次のとおりです。(所法2①八の四、法法2①十二の十九)
①号PE 事業を行う一定の場所(支店、事務所、工場、倉庫業者の倉庫、鉱山等天然資源採取場所等)*1 ②号PE 建設、据付け、組立て等の作業のための役務の提供で、1年を超えて行うもの*2 ③号PE 国内に置く代理人等(自己のために契約を結ぶ権限のある者で、常にその権限を行使する者や在庫商品を保有しその入出庫管理を代理で行う者、あるいは注文を受けるための代理人等)*3 |
なお、平成31年1月1日以後に開始する事業年度から以下の*1~*3の定義の見直しが行われています。(法令4の4)
*1 保管、展示、引渡し等の活動のみに使用する一定の場所は、準備的又は補助的な機能を有するものに限り、PEに含まれないものとされます。
*2 PEに該当しないように契約を1年以下に分割した場合には期間を合算して判定されます。
*3 非居住者等の資産の所有権の移転等に関する契約を反復して行う者もPEに含まれます。
●海外進出形態の比較
海外への進出の形態には駐在員事務所・現地子会社等いくつか選択肢があり、それぞれメリット・デメリットがあります。自社の戦略に合った形態を選択する必要があるでしょう。
進出形態 |
主たる目的及び課税関係 |
メリット |
デメリット・リスク・留意点等 |
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駐在員事務所 |
・現地国での情報収集や広報活動に限定、販売・製造等の営業行為を行わない。 ・上記の範囲で活動している限り通常はPEに当たらない。 |
・現地の経費を本国の損金にできる。 ・投資規模としては相対的に小さいため状況に応じて撤退は容易である。 |
・営業活動ができない。 ・国によっては非課税となる駐在員事務所の活動範囲を狭く定義し、課税されるケースがある。 |
支店 |
・海外に事務所や工場など一定の恒久的施設を有しそこを足場に営業行為を行う。 ・一般に国外PE帰属所得が生じた場合、現地国で課税される。 |
・自己の名義と責任で取引を行えるため輸出等と比べ迅速な対応が可能 ・支店の損失を本店の利益と通算できる。 ・国外PE帰属所得として現地国で課税された国外源泉所得に対する外国法人税は原則わが国で直接外国税額控除が適用される。 ・発展途上国等との租税条約によりみなし外国税額控除が認められる場合がある。 |
・本支店間の利子や経費の配賦等が適正な計算に基づくものであることが必要。利子が配当とみなされる可能性がある。 ・本支店間取引につき支店の税務調査が本国に及ぶことがある。 ・国により移転価格税制の適用が本支店間取引にも及ぶ可能性があり注意が必要。(本支店間取引も独立第三者間の取引価格で課税所得計算する必要あり。) |
子会社(現地法人) |
・支店を更に発展させて現地法人化したもの ・PEとして現地国で課税される。原則として配当が行われるまでは日本での課税関係は生じない。 |
・現地国で国内法人となることによりその国の法人と同様の待遇(入札資格等)を享受することができる。 ・現地国で独立に課税されるため現地の税率が日本より低い場合には税負担が軽減される。 ・一定の要件のもと子会社からの配当については、その95%が益金不算入となる。 |
・海外子会社との取引価格の設定によっては日本又は現地国で移転価格税制又は国外関連者に対する寄附金の損金不算入の規定が適用される可能性がある。 ・税制改正の影響で過小資本税制・タックスヘイブン税制等が適用され、設立時に見込んだメリットを享受できなくなる可能性がある。 |
●海外活動に関する税務のチェックポイント
海外の会社等と輸出入取引を行ったり、海外に進出したりする場合にも、いろいろな場面で税務
の問題が発生してきます。国内での活動よりその取扱いに複雑な点もあるので十分検討のうえで取
り組むようにしましょう。
このコンテンツの内容は、令和3年6月30日現在の法令等によっています。