取引相場のない株式と株価
(1) 株式・株主とは
「株式」とは、株式会社における「出資者」の地位を細分化したもので、その出資者である地位を「株主」といいます。
「株式」には、証券取引所に上場され、日々大量に取引されるような上場株式から、個人企業と変わらないような小規模な会社の株式まであります。
(2) 株式評価の必要性
「株式」は、(原則として)他者に売却することや贈与することができ、また、「株主」としての地位は、相続の対象にもなります。
そのため、売買・贈与・相続があった場合には、
・売買の際の「適正価格(時価)」の目安はどれくらいか
・贈与により移転した価値(時価)はどれくらいか(贈与税はどれくらいかかるのか)
・相続により移転した価値(時価)はどれくらいか(相続税はどれくらいかかるのか)
を知る必要があります。
この「適正価格」や「価値」がどれくらいかを計算することを「株式評価」「株価算定」「自社株評価」などといいます。(本書では、「株式評価」とします。)
(3) 財産評価基本通達
財産の評価(時価の算定)に関しては、「財産評価基本通達」(以下、「評価通達」)が定められています。これは、国税庁が、納税者の便宜及び課税の公平性をはかる目的で定めたものです。株式及び出資の評価に関しても、この評価通達の中に定めがあります。相続税や贈与税の計算をするために定められたものですが、中小企業の株式評価は、この評価通達によって計算をするものと考えて間違いありません。
なお、この評価通達によらない株式評価として、DCF法・収益還元法などがありますが、これらを用いた計算は中小企業の株式評価で用いられることは通常ありません。
(4) 取引相場のない株式
「株式」の価値(時価)は、その株式を発行する会社が上場会社であれば、日経新聞などで日々公表される株価で知ることができます。
一方、大半の会社は上場しておらず、その発行する株式が一定の価格で頻繁に売買されることもありません。したがって、上場株式とは異なり、これらの株式はその株価が公表されることもなく、また、仮にある一定の金額で売買が行われていたとしても、これは特殊な事情のもとで行われた売買(例えば、親と子との間での売買)であることが多いのが実情です。特殊な事情のもとで成立した価格が適正な時価であると考えることはできません。
このように、株価が容易に入手できない株式を「取引相場のない株式」といい、(3)の評
価通達において、その評価方法が詳しく規定されています。
(5) 評価通達の定めによらない場合
「取引相場のない株式」であったとしても、純粋な第三者同士で交渉した結果成立した価格があれば、これは適正な時価として考える余地はあります。例えば、「売手は1 円でも高く売りたい」と考え、「買手は1 円でも安く買いたい」と考えて売買が行われる場面です。こういう場面では、必ずしも説明するような評価方法による必要がありません。
一方、評価通達の定めによって評価した結果、これが著しく不当と認められる場合もあります(過度な節税策を実行した後に計算した場合など)。評価通達の定めは、便宜上一定の計算式によりますので、状況によっては、実態と異なる計算結果が算出されてしまう可能性があります。その場合には、課税庁は、評価通達の定めによらずに評価が行うことができるとされています(評価通達総則第6 項)。
必ずしも評価通達どおりの株価が適正額とはいえないケースもあることにご留意ください。
ポイント
財産評価基本通達に「取引相場のない株式」の評価方法が定められていて、実務はこれに従う。
このコンテンツの内容は、平成30年5月1日現在の法令等によっています。