1.金融円滑化法を利用する事業者規模


 最近、金融円滑化法の期限が来年(2013年)3月末に到来することで金融機関の対応が厳しくなり、これまで支援を受けている企業の倒産が急拡大するのではないかと噂になり始めている。

 しかし、金融円滑化法により金融機関からの借入を「返済猶予」や「条件変更」により支援してもらっている中小企業の数はどれ位なのか明確な数値は公表されていない。

 全国では30〜40万社、その中で業績の回復が厳しく金融機関からの支援を受けられなければ倒産に追い込まれる可能性のある会社は2割から3割、10万社規模になるのではないかという見解を示す専門家もおり、法律の期限が到来すれば社会問題化するのではないかと、ある意味で危機を煽っている感もある。

 因みに平成23年度の全国での倒産企業の累計は約13千社である点を考えればその規模の大きさは計り知れない点は分かるが、実際のところはどうなのか?

 以下、金融機関からのヒアリング実態と金融機関の業務運営の観点から考えてみたい。

 監督官庁である金融庁が3ヶ月毎に公表している「金融機関の金融円滑化法への対応状況(図−1)」を見る限り、2012年3月末時点で条件変更へ対応した取扱件数(=実行件数)は290万件弱となっている。


【図−1】
図−1


 公表数字は、当該法律を利用している実際の企業数を示しているものではなく、条件変更への取組み状況を表しているもので、金融機関が3年間取扱ってきた条件変更への取組み件数の累計である。

 複数の金融機関に確認してみたところ公表数値である取扱い件数の25〜30%程度が支援対象企業という回答があることから、実際に利用されている企業数は3分の1程度、つまり70〜90万社程度ではないかという見方もできる。ただし、企業は複数の金融機関と取引するのが一般的であることを考えると、半数程度の30〜40万社という数字は妥当とも言える。

 また、この1年間は新規に条件変更の申し込みを受けた企業は少なく、大半が2回目、3回目の見直しによるものであるとの回答もあり、対象先企業数を類推する上では30〜40万社程度という数字が参考になるのではないか。

 一方、借入金金額については3分の1程度が対象になると考えた場合、20兆強と膨大な数字となる。2012年3月末時点の主要行と地域銀行118行の融資残高は約426兆円、信用金庫284金庫の融資残高は約64兆円であることから、公表数値(=実行金額)の3分の1の貸出金が対象となっていると仮定すると、総体の貸出金に対する割合は主要行と地域銀行で4%の17兆円、信用金庫で8%強の5兆円となる。

 一方、主要行と地域銀行の平成23年度の業務純益は5兆円、経常利益は4兆円弱であり、信用金庫の業務純益は5500億円、経常利益は2700億円に過ぎない。このような収益環境の状態で、仮に対象とする会社の1割が倒産になり、貸出金の半分が回収できなくなったと想定すると金融機関への影響は計り知れない。特に信用金庫や信用組合にとって影響は多大なものとなるのは必至である。

 金融円滑化法の利用企業の大半は中小・小規模企業が対象になっていることから、とりわけ信用金庫や信用組合の取引先企業への影響が大きいと言われていたが、上記のような事態になったと仮定すれば、金融機関そのものの経営にも甚大な影響がでるであろう。

 よって、巷で懸念されているように、金融円滑化法の期限が到来することで、直ちに、金融機関側が手の掌を返すような対応(=支援を打ち切るようなドラスティックな姿勢)に変化するとは考えにくく、これまでの取引関係を考慮しながら慎重な対応をとると思われる。法律の期限到来とともに資金繰りがつかず、バッタバッタと倒産する企業が多発する可能性は低いのではないかというのが結論である。
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