目次 II-4


4.貸家建付地の評価に関する租税判決例の紹介
(相続開始時に賃貸されていない部屋のある新築賃貸用マンションの敷地の評価方法に関する判例)

Question
 前問に関連して、相続開始時に賃貸されていない部屋のある新築賃貸用マンションについては、その賃貸されていない部屋については借家権の支配が及ばないことを理由として、その対応する部分の建物及びその敷地の評価については、それぞれ自用家屋及び自用地により評価すべきであるとされた判決があるとのことですが、その判決の内容について説明してください。

Answer
 ご質問の判決は下記に掲げるもので、最高裁まで訴訟が維持されましたが、三審(地方裁判所、高等裁判所及び最高裁判所)ともに納税者の主張が認められず、すべて課税庁側の勝訴となっています。

 (1) 原 審  横浜地方裁判所(平成7年7月19日判決)
・平成4年(行ウ)第18号『相続税更正処分等取消請求事件』

 (2) 控訴審  東京高等裁判所(平成8年4月18日判決)
・平成7年(行コ)第104号『相続税更正処分等取消請求控訴事件』

 (3) 上告審  最高裁判所(平成10年2月26日判決)
・平成8年(行ツ)第202号『相談税更正処分等取消請求上告事件』

 これらの三審に係る判決の概要及び留意点を挙げると下記のとおりとなります。

(イ)  昭和61年8月25日に相続を開始した被相続人所有の賃貸用マンション及びその敷地の用に供されている宅地に関する評価資料は次のとおりでした。(課税時期現在)

(1)建物    (2)宅地
入居状況及び床面積 入居中 4室( 229.80平方メートル)    敷地面積  936.13平方メートル
 募集中17室( 963.51平方メートル)    自用地評価額 129,732,639円
合 計 21室(1,193.31平方メートル)    (措置法69条の3適用前)
固定資産税評価額 128,602,202円    借地権割合 60%
借 家 権 割 合 30%

(ロ)  上記の被相続人に係る相続財産の申告に当たって、次に掲げるような事由により、課税時期現在において実際に賃貸されていない部分も含めて、その全体が貸家及び貸家建付地に該当するものであるとして評価しました。

(1)  被相続人は本件建物全体を貸家の用に供することを目的とする建築計画を立案し、本件建物については、建築費用を借り受けた住宅金融公庫によりすべて管理され、賃貸目的以外の用に供することはできないこと
(2)  被相続人は不動産業者との間で賃貸人募集の委託契約を締結し、その募集は既に開始されており、相続人においてこれを一方的に解約することはできないこと
(3)  本件建物は、昭和63年3月(課税時期の約1年半後)には、1室を残してすべてが賃貸されていること
(4)  本件建物全体を売買目的のものに変更するには、多額の費用と労力を要し、容易になし得ないこと

(ハ)  これに対して課税庁では、課税時期において実際に入居者のいない建物及びその敷地に対応する部分については、借家権の支配が及ばないことから当該部分に対応する建物及びその敷地については、それぞれ自用家屋及び自用地として評価すべきものであるとして、次の算式によりその評価額を計算しました。(宅地については、措置法69条の3適用前)

(建物) (1) 貸家建物部分
128,602,202円× 229.80平方メートル

1,193.31平方メートル
×(1−30%)
=17,335,772円
(2) 自用建物部分
128,602,202円× 963.51平方メートル

1,193.31平方メートル
=103,836,813円
(3) 合計((1)+(2)) 121,172,585円
(宅地) (1) 貸家建付地部分
129,732,639円× 229.80平方メートル

1,193.31平方メートル
×(1−60%×30%)
=20,486,126円
(2) 自用地部分
129,732,639円× 963.51平方メートル

1,193.31平方メートル
=104,749,557円
(3) 合計((1)+(2)) 125,235,683円

(ニ)  上記(ロ)、(ハ)の争点に対して判決では、次のような判断に基づき課税庁による処分を支持して課税時期現在において賃貸されていない部分に対応する建物及びその敷地については、それぞれ自用家屋及び自用地として評価すべきであるとしています。

(1)  相続財産の評価原則を定めた相続税法第22条の規定では、財産の評価は時価によるものとされており、また、相続開始時の時価とは、相続等により取得したとみなされた財産の取得日において、それぞれの財産の現況に応じて、不特定多数の当事者間において自由な取引がされた場合に通常成立すると認められる価額をいうと解するのが相当であるから、相続開始時点に、いまだ賃貸されていない部屋が存在する場合は、当該部屋の客観的交換価値はそれが借家権の目的となっていないものとして評価するのが相当である。
(2)  (1)の判断は、(ロ)の(1)から(4)に掲げるような、住宅金融公庫又は不動産業者等との契約の内容及び相続開始時点の後に生じた事情等により左右されるものではない。

(ホ)  参考(措置法69条の3の適用関係)
租税特別措置法第69条の3(小規模宅地等についての相続税の課税価格計算の特例)の適用対象となる土地は、相続開始時において、実際に賃貸されていた部分に対応する敷地のみに限られず、当該賃貸マンションの敷地の全部となります。

(注)  措置法69条の3は、平成12年度の税法改正により条文番号が繰り下がり、現行では、措置法69条の4となっています。

 

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