目次 I-1-Q2


Q2 特別受益の持戻し上の留意点

Question
Q1において、特別受益者が存する場合の相続分の計算方法について確認をしましたが、この特別受益の持戻しを行う場合の留意点について説明してください。



Answer

 特別受益の持戻しについては、次に掲げる4点に留意する必要があります。
 (1)持戻し対象者
 (2)持戻し期間
 (3)持戻し価額(贈与の価額)の意義
 (4)持戻し免除がなされる場合

【解 説】

(1) 持戻し対象者

 特別受益の持戻しの対象とされるのは、相続人(共同相続人)に限られます。これは、特別受益者が存する場合の相続分の算定規定が被相続人に係る遺産分割に際して、共同相続人中に、被相続人から遺贈又は一定の贈与を受けた者が存する場合における各共同相続人間の公平を担保するために設けられた取扱いを定めたものであることに基因するものです。


(2) 持戻し期間

 特別受益のうち持戻しの対象とされる贈与(婚姻、養子縁組のため又は生計の資本としての贈与)については、上記(1)に掲げる遺産分割における共同相続人間の公平を図る趣旨から、当該贈与が今回の相続開始の何年前に実行されたものであるか否かについては、これに何らの期間的な制約を付していないことに留意する必要があります。(すなわち、持戻しの対象とされる贈与には、持戻し期間の制限がないことになります。)


(3) 持戻し価額(贈与の価額)の意義

 上記(2)に掲げる贈与財産について、特別受益として持戻しを行う場合の価額(贈与の価額)は、当該財産に係る相続開始時の価額(時価)によるものとされています。この取扱いに関する留意点は次のとおりです。

不動産 受贈時点における管理状況において、当該不動産が相続開始時点まで現存するものとした場合における相続開始時の価額(時価)を算定します。
現 金 受贈額を相続開始時点における貨幣価値に換算(具体的には、受贈時点と相続開始時点における物価指数を対比させる方法が考えられます。)して、相続開始時の価額(時価)を算定します。

 なお、当該贈与財産について、相続開始時までに滅失し、又はその価格の増減があったときにおける持戻し価額(贈与の価額)の取扱いは、当該滅失等の基因となった行為者が誰であるのかに応じて、それぞれ下表のとおりになります。

滅失等の基因となった行為者 持戻し価額(贈与の価額)
(a) 受贈者(特別受益者)である場合
相続開始の時点で、当該滅失等がなかったものとしてなお現状のままで在るものとみなした場合における相続開始時の価額(時価)〔民法第904条:(注)を参照〕
 (例) 受贈財産である家屋が受贈者の失火により焼失してしまった場合
(b) (a)以外の者である場合
相続開始時までに、当該滅失等があったものとして当該滅失等に基づく価格の増減が実現した場合における相続開始時の価額(時価)
 (例) 受贈財産である家屋が落雷によって焼失してしまった場合
  (注)  民法第904条(特別受益者の相続分)
 前条に掲げる贈与の価額は、受贈者の行為によって、その目的たる財産が滅失し、又はその価格の増減があったときでも、相続開始の当時なお現状のままで在るものとみなしてこれを定める。


(4) 持戻し免除がなされる場合

 Q1に掲げる特別受益の持戻しの取扱いは、民法第903条第3項の規定において、『被相続人が前2項(注:特別受益者に対する相続分の原則的な取扱い)と異なった意思を表示したときは、その意思表示は、遺留分に関する規定に反しない範囲内で、その効力を有する。』とされており、一定の要件のもとに持戻しの免除が認められています。

 

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