目次 II-5(2)


(2) 配偶者への居住用不動産の贈与の特例

 婚姻期間が20年以上など次に掲げる要件を満たす配偶者に対して、居住用の不動産又はそれを取得するための資金を贈与したときは、贈与税について最高2,000万円の控除規定の適用があります。これは、「贈与税の配偶者控除の特例」といわれるものです。

 この特例の適用を受けて被相続人から贈与された居住用財産等については、相続発生前3年以内の贈与であっても「生前贈与加算」の対象に含めないこととすることができます。つまり2,000万円までの居住用財産が相続税も贈与税も課税されずに移転され、相続財産の減少を図ることができます。

 留意点としては、相続発生年にこの特例贈与を実行した場合、受贈配偶者は贈与を受けた年の翌年に贈与税の配偶者控除の適用を受ける旨の贈与税の申告が必要です。申告をしない場合には、一般の贈与として取り扱われ、相続税の計算上、生前贈与加算の規定の適用を受けてしまうことになります。

《適用要件》

 (1)  婚姻期間が20年以上にわたる配偶者間の贈与であること
 (2)  贈与された財産が居住用不動産又は居住用不動産を取得するための金銭であること
 (3)  贈与された年の翌年の3月15日までに、贈与された居住用不動産又は贈与された金銭で取得した居住用不動産に居住し、かつ、その後も引き続き居住する見込みであること
 (4)  同じ配偶者から過去にこの特例の適用を受けていないこと
 (5)  一定の書類を添付して贈与税の申告をすること

《贈与税の配偶者控除2,000万円を実行した場合の相続税の節税効果》
 (相続税の配偶者の税額軽減をフルに活用するものとします。)
遺産の総額 相続税の軽減額
子1人 子2人 子3人
 5億円→ 4.8億円 500万円 450万円 375万円
10億円→ 9.8億円 600万円 550万円 500万円
20億円→19.8億円 600万円 600万円 550万円

 例えば、夫婦と子供1人の家族構成の場合、妻の固有財産が5,000万円で夫から居住用財産2,000万円を贈与され、贈与税の配偶者控除の特例の適用を受けた後に、その妻が先になくなったときには、妻の財産を子供がすべて相続しても相続税の基礎控除額以下であるため相続税は課されません。したがって、夫の財産は贈与税なしで妻に移転し、さらに子供がその財産を相続することによって夫の財産が相続税なしで子供に移転したという効果が生じます。

<注意点>
 (1)  居住用不動産の評価額は、時価の半分くらいであり、額面評価される現金を贈与するよりも、不動産そのものを贈与した方が有利となります。しかし、居住用不動産を取得した直後に贈与すると不動産の贈与ではなく、その不動産を取得する金銭の贈与とみなされるおそれがあるため、取得年の贈与は避けた方が無難です。
 (2)  この特例は、贈与税の特例であって、不動産の贈与の場合には、登記名義の変更に伴い、登録免許税(原則として、その不動産の価格の25/1000)及び不動産取得税(原則として、その不動産の価格(建物部分については、最高1,200万円を控除した額)の3%)が課税されます。


〜 コ ラ ム 〜

配偶者控除適用後のマイホームの譲渡の特例適用は?

 贈与税の配偶者控除の適用を受けた後に、期せずしてマイホームを譲渡した場合で、一定の要件に該当するときは、譲渡益から3,000万円の特別控除の適用を受けることができます。そして、そのマイホームが夫婦共有となっている場合には、3,000万円の特別控除を夫婦のそれぞれに適用できます。
 ただし、妻に土地だけを贈与していた場合には、夫の特別控除不足分(3,000万円に達しない部分)の範囲内でしか妻は特別控除を受けられません。
 なお、贈与を受けたマイホームは、その後引き続き居住することが贈与税の配偶者控除の適用要件となっていますので、すぐに売るためにする夫婦間贈与では、その適用は否認されることとなります。

設 例
 マイホームの土地建物は夫婦の共有であり、このたび、やむを得ない事由によりこれを売却することとなった。長期譲渡所得の金額(特別控除前)は、夫5,000万円、妻2,500万円である。なお、この物件は15年前に夫が売買により取得し、7年前に夫から妻へ持分で贈与している。
所得税<夫>  5,000万円−3,000万円(特別控除) = 2,000万円
 2,000万円×10%(軽減税率の適用)= 200万円
<妻>  2,500万円−2,500万円(特別控除) =  0

 

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