目次 II-5(3)


(3) 住宅取得資金等の贈与の特例

 住宅を取得等するための資金を、父母又は祖父母から贈与を受けた場合において、次の適用要件を満たすときは、贈与税を軽減できる特例制度があります。

《適用要件》
 (1)  贈与を受ける人の直系に当たる父母又は祖父母から住宅取得資金等(住宅及びその敷地の取得又は増改築等に充てるための資金)として贈与を受けること

 (2)  贈与を受けた日前5年以内に自己又は自己の配偶者の所有する住宅に居住したことがない者及び住宅の買換え・建替えを行う者で贈与を受けた日前5年以内に居住していた自己又は自己の配偶者の所有する住宅及び敷地を贈与の年の翌年3月15日までに売却又は滅失させた者であること((1)、(3)、(6)のすべての要件に該当する人が贈与の年の翌年12月15日までに住宅の売却又は取壊しをする見込みで、その年の合計所得金額が1,200万円以下の場合でも可)

 (3)  贈与を受けた年の合計所得金額(居住用財産の3,000万円特別控除がある場合は控除後の金額)が1,200万円(給与収入だけの場合約1,442万円)以下であること

 (4)   贈与を受けた年の翌年3月15日までに一定の新築住宅又は既存住宅を取得し、居住すること(居住することが確実に見込まれる場合でも可)、又はその者の有する住宅について行う増改築(工事費用が1,000万円以上及びその増改築又は大規模な修繕等により増加した床面積が50平方メートル以上であるものに限る。)であること

 (5)  取得する住宅は、新築・中古を問わず1棟の家屋の床面積の合計が50平方メートル以上で、その床面積の50%以上がその人の居住用であること
  中古住宅の場合はさらに次の条件を満たしていること。
(イ) 耐火建築物の場合
  取得の日以前25年以内に建築されたものであること
(ロ) 耐火建築物以外の場合
  取得の日以前20年以内に建築されたものであること

 (6)  過去にこの特例の適用を受けたことがないこと

 この贈与の特例は、直系血族である父母又は祖父母からの贈与でないと認められません。ですから、例えば、子供の妻(一親等の姻族)に対する贈与は特例贈与になりません。しかし、子供の妻と養子縁組をすれば、縁組後は一親等の(法定)血族となり、この贈与の特例の適用を受けることが可能となります。

 この特例を利用すると贈与された金額のうち、550万円までは贈与税の課税がされません。550万円を超えて1,500万円までは5分5乗方式で課税され、通常の贈与税の計算よりも低い贈与税額となるよう工夫されています。

住宅取得資金等の贈与の特例を適用する場合の贈与税額の計算式

 贈与を受けた財産が住宅取得資金等だけである場合の贈与税額は、次の算式で計算できます。

 (1) 住宅取得資金等の贈与を受けた年分  贈与税額=(A−B)+B×5
   A及びBは、次によります。

    A= 住宅取得資金等のうち
1,500万円までの部分の金額(a)
×

その年中に贈与を受けた
財産の価額の合計額
−(a) −110万円
      ×贈与税の税率

    B= (a)×

−110万円 ×贈与税の税率

 (2)  住宅取得資金等の贈与を受けた年の翌年以後4年内に財産の贈与を受けた場合のその贈与を受けた年分

    贈与税額= その年中に贈与を受けた
財産の価額の合計額
前記(a) ×

−110万円
         ×贈与税の税率−上記B



《1,500万円の贈与を受けた場合の税額》
  一般の贈与の場合は、次のような計算になります。
 (1,500万円−110万円)×50%−190万円=505万円(贈与税額)
 ◎特例を適用した場合の計算式は次のようになります
 (1) (1,500万円×1/5+0−110万円)×15%−7.5万円=21万円
 (2) (1,500万円×1/5−110万円)×15%−7.5万円=21万円
 (3) ((1)−(2))+(2)×5=105万円(贈与税額)

 なお、その年に住宅取得資金等だけの贈与を受けた場合の特例適用後の税額と通常の税額とを比較すると次表のようになります。

贈与を受けた金額 通常の税額 特例適用後の税額 軽 減 額
300万円
550万円
800万円
1,000万円
1,200万円
1,500万円
2,000万円
21万円
84.5万円
176万円
260.5万円
355万円
505万円
774.5万円
万円
25 万円
45 万円
65 万円
105 万円
260 万円
21万円
84.5万円
151万円
215.5万円
290万円
400万円
514.5万円

 設 例
  所有財産   10億円(相続税評価額)
  家族構成   本人、配偶者、子1人 孫2人
  受贈者    子1人 孫2人
  それぞれに住宅取得資金等(1,500万円)を贈与
  10億円−(1,500万円×3人)=9億5,500万円
  ※贈与しない場合…10億円に対する相続税額  20,380万円(配偶者の税額軽減適用後。以下同じ)

  贈与後の税額 贈与前との税差額
3年以内に相続が発生 相続税 19,327.5万円(注1)
贈与税    315  万円(注2)
737.5万円
税額合計    19,642.5万円
3年経過後に相続が発生 相続税 19,030万円
贈与税    315万円
1,035万円
税額合計 19,345万円
 子は相続により財産を取得した。
(注1)  95,500万円+1,500万円(子の生前贈与加算)=97,000万円に対する相続税(贈与税額控除後の金額)
(注2)  子と孫2人に対する贈与税(特例贈与_105万円×3人)

 上記設例の場合、相続又は遺贈により財産を取得した子は、その被相続人から相続開始前3年以内に贈与を受けていますので、生前贈与加算の適用があります。しかし、孫は相続又は遺贈により被相続人から財産を取得していないので、たとえ被相続人から相続開始前3年以内に贈与を受けていても生前贈与加算の適用はありません。

 なお、特例贈与を受けた個人が、適用を受けた年の翌年以後4年以内に贈与により財産を取得した場合には、贈与税の基礎控除額を前倒しで活用していますので、その後に受けた贈与の金額が仮に年間110万円以下であっても、贈与税の課税対象となることがありますので注意が必要です。

〜 コ ラ ム 〜

幼少の孫に対する贈与について

 祖父から幼少である孫に贈与する場合、祖父の贈与の意思表示に対する受贈を承諾する意思表明が困難であり、民法第549条にいう「諾成契約」としての贈与が成立しているとはいい難い状況にあると考えられます。
 しかし、孫の親権者である父母が民法第824条に規定する財産管理権と代理権を行使して、祖父から贈与を受けた財産について管理行為等を行うことで、幼少の孫に対する贈与は成立すると考えられます。

民法第818条(親権者)
成人に達しない子は、父母の親権に服する。
(2) 子が養子であるときは、養親の親権に服する。
(3)  親権は、父母の婚姻中は、父母が共同してこれを行う。但し、父母の一方が親権を行うことができないときは、他の一方が、これを行う。
民法第824条(財産管理権と代理権)
 親権を行うものは、子の財産を管理し、又、その財産に関する法律行為についてその子を代表する。但し、その子の行為を目的とする債務を生ずべき場合には、本人の同意を得なければならない。

 

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