目次 I-2


2.適格退職年金のみの場合の税務申告

 Question1-2

 当社は適格退職年金制度(確定給付型)を採用しており、退職給付引当金を原則法で計上しています。税務上の取扱いと申告書の記載方法を説明してください。


デ ー タ
 当期より退職給付債務を原則法で計上。その計算は年金数理人に依頼している。
期首(×1年4月1日)に退職給与引当金はない
期首の退職給付債務 5,000
期首の年金資産   3,500
割引率(期首、期末とも×1年度以降変化なし)5.0%を採用
期首の期待運用収益率 ×1年6.0% ×2年5.0%
平均残存勤務期間 15年
会計基準変更時差異の処理 定額法(15年)
数理計算上の差異の処理   定率法(10年 0.206)
期末の退職給付債務 ×2年3月31日 5,500
×3年3月31日 5,800
期末の年金資産 ×2年3月31日 3,850
×3年3月31日 4,200
  ×1年   ×2年
当期の退職金支給額(年金より支払) 145 160
当期の退職年金掛金拠出額 300 350
退職給付支給額の前期末要支給額 145 160
当期の退職給付費用 740 644
 (内訳)
 (1)勤務費用 600 500
 (2)利息費用 250 275
 (3)数理計算上の費用処理額 △39
 (4)会計基準変更時差異の費用処理額 100 100
 (5)期待運用収益 △210 △192

退職給付費用を全額別表4で加算し、掛金拠出額を減算処理するだけです。理解を助けるためにワークシートの作成をお勧めします。


 Answer

 データに示されている数値をもとに期中に正しく会計処理が行われていれば、次のようになされているはずです。通常、税務上の仕訳はあまり意識しませんが、ここでは税務との違いが把握できるよう税務上の取扱いと税務上の訂正仕訳も併せて記載しておきます。

×1年の会計処理
 期首  退職給付費用   740/退職給付引当金      740
 上記の仕訳は期首時点で既に金額が確定しているため、期首の仕訳としています(×2年度も同じ)。
 〈税務上の訂正仕訳〉
 退職給付引当金  740/退職給付費用損金不算入740
 年金給付時  仕訳なし
(退職給付債務 145/年金資産 145)

 掛金拠出時  退職給付引当金 300/現金 300
  〈税務上の取扱い〉
  適格退職年金の掛金は、拠出時の損金の額に算入する(別表4減算)
  〈税務上の訂正仕訳〉
  適格年金掛金認容  300/取崩益計上漏れ  300
  有税取崩益認容    300/退職給付引当金  300
  紫字は仕訳省略

 貴社のように適格退職年金制度のみの会社の場合、従来は掛金を拠出した時点で費用を認識していましたので申告調整を行う必要がありませんでしたが、新しい退職給付会計のもとでは、退職一時金部分のみでなく企業年金部分からも退職給付引当金を認識することになるため、申告調整が必要となります。

 退職給付債務等の増減の内容と申告限度額との関係が把握できるように、ワークシートを作成してみましょう。ワークシートを作成することにより経営管理目的のほか、容易に申告書の作成が行えるメリットがあります。

 ×1年度のワークシートを作成してみましょう。

×1年度 (  )は貸方を示す


税務限度額    
税務申告調整   740 (300) 440

 ×2年度のワークシートを作成すると、次のとおりです。

×2年度


税務限度額    
税務申告調整   (440) 644 (350) (734)

 上記からもわかるように、適格退職年金・厚生年金基金の掛金は損金経理を要件としていないため、今期の掛金拠出額を別表4で減算し、退職給付費用を全額別表4で加算するだけです。このように、申告調整はいたって簡単に行えると思います。次年度以降も同様です。

 これをもとに、法人税申告書の別表4と別表5(1)の申告調整事項を抜粋してみましょう。

別表4
  ×1年度 ×2年度 税務上の取扱い

 
退職一時金に係る退職給与引当金繰入限度超過額      
適格退職年金に係る退職給与費用否認 740 644 退職給付費用の全額を加算する
加算合計 740 644   

 
退職給与引当金繰入限度超過額戻入益認      
適格退職年金に係る掛金拠出額認容 300 350 掛金拠出額の全額を減算する
減算合計 300 350  

別表5(1)
×1年度
区  分 期首 当期中の増減 利益処分 翌期首
退職給付引当金(一時金分)          
退職給付引当金(適格年金分) 300 740    440
           

×2年度
区  分 期首 当期中の増減 利益処分 翌期首
退職給付引当金(一時金分)          
退職給付引当金(適格年金分) 440 350 644   734
           

 ちなみに、貴社の退職給付制度が連合設立型の厚生年金基金制度であっても、別表の記載の方法は変わりません。ただし、厚生年金基金の掛金は法基通9-3-2で計算対象月の末日に損金算入することとされています。

 

目次 次ページ