目次 I-1


I. 退職給付会計


1.退職一時金のみの場合の税務申告

 Question1-1

 当社は一時金による退職給付制度を採用しており、退職給付引当金を原則法で計上しています。税務上の取扱いと申告書の具体的な作成方法について説明してください。


デ ー タ
期首(×1年4月1日)の退職給与引当金  1,000(税務上の限度超過額はないものとする)
期首の退職給付債務  1,500
割引率(期首、期末とも×1年以降変化なし)  5.0%を採用
平均残存勤務期間  15年
会計基準変更時差異の処理  定額法(10年)
数理計算上の差異の処理
 
 定率法(10年 0.206)

期末の退職給付債務(×2年3月31日)  1,800
(×3年3月31日)

 1,650

  ×1年目   ×2年目  
当期の退職金支給額 145 450   
退職給付支給額の前期末要支給額 145 400   
当期の退職給付費用
 (内訳)
  (1)勤務費用
  (2)利息費用
  (3)数理計算上の費用処理額
  (4)会計基準変更時差異の費用処理額
525

400
75

50
434

300
90
△6
50
  
期末の税務上の退職給付引当金 1,275 1,225   
当期の繰入限度額 420 350   

退職給付費用を退職給与引当金繰入れとして申告書を作成します。理解を助けるため、ワークシートの作成をお勧めします。


 Answer

 データに示されている数値をもとに期中に正しく会計処理が行われていれば、次のようになされているはずです。通常、税務上の仕訳はあまり意識しませんが、ここでは税務との違いが把握できるよう税務上の取扱いと税務上の訂正仕訳も併せて記載しておきます。

×1年の会計処理
 期首
 退職給与引当金 1,000/退職給付引当金 1,000…表示の変更
 退職給付費用     525/退職給付引当金  525
 上記の仕訳は期首時点で既に金額が確定しているため、期首の仕訳としています(×2年度も同じ)。
 〈税務上の取扱い〉
 退職給与引当金の繰入れとなり、繰入限度超過額105を別表4で加算する。
 〈税務上の訂正仕訳〉
 退職給付引当金  105/退職給付引当金繰入限度超過額105

 退職給付支給時(実際支給額の取崩し)
 退職給付引当金 145/現金 145
 〈税務上の取扱い〉
 退職金支給に伴う目的取崩しとなる。
 〈税務上の訂正仕訳〉
 退職金認容    145/取崩し益計上漏れ 145…別表4、5(1)に影響を与えないため仕訳省略

×2年の会計処理
 期首
 退職給付費用  434/退職給付引当金 434
 退職給付支給時(実際支給額の取崩し)
 退職給付引当金 450/現金      450

 さて、具体的な申告書の記載についてですが、貴社のように退職一時金制度のみの場合には従来と同じように別表11(3)を用いて繰入限度額を計算し、退職給付費用を従来の退職給与引当金繰入れと考えて限度超過額を計算すればよいだけです。後の手続は今までどおりです。このように直接申告書の記載を行っても構いませんが、これをもとに退職給付債務等の増減の内容と申告限度額との関係が把握できるように、ワークシートを作成することをお勧めします。ワークシートを作成することにより、容易に別表11(3)をはじめとする申告書の作成が行えるメリットがあります。

 ワークシートを作成すると次のようになります。

×1年度 (  )は貸方を示す
割引率
平均残存勤務期間
5.00%
  15年
5.00%
15年
    ×1.4.1
実際
 
退職給
付費用

退職給付
支払額
×2.3.31
予測

数理計算
上の差異
×2.3.31
実際
退職給付債務

会計基準変更時差異
未認識過去勤務債務
未認識数理計算上の差異
(1,500)

500

(400)
(75)
(50)
145 (1,830)

450

30



(30)
(1,800)

450

(30)
退職給付引当金 (1,000) (525) 145 (1,380) (1,380)
税務限度額 (1,000) (420) 145 (1,275)    
税務申告調整 105 105    

×2年度
割引率
平均残存勤務期間
5.00%
 15年
5.00%
15年
    ×2.4.1
実際

退職給
付費用

退職給付
支払額
×3.3.31
予測

数理計算
上の差異
×3.3.31
実際
退職給付債務

会計基準変更時差異
未認識過去勤務債務
未認識数理計算上の差異
(1,800)

450

(30)
(300)
(90)
(50)

450 (1,740)

400

(24)
90



(90)
(1,650)

400

(114)
退職給付引当金 (1,380) (434) 450 (1,364) (1,364)
税務限度額 (1,275) (350) 400 (1,225)    
税務申告調整 105 84 (50) 139    

 これをもとに、法人税申告書の別表4と別表5(1)の申告調整事項を抜粋します。

別表4
  ×1年度 ×2年度

 
退職一時金に係る退職給与引当金繰入限度超過額 105 84
適格退職年金に係る退職給与費用否認    
加算合計 105 84

 
退職給与引当金繰入限度超過額戻入益認容   ※50
適格退職年金に係る掛金拠出額認容    
減算合計   50
×2年度の税務上の退職給与引当金の取崩しに当たり、要取崩額である前期末要支給額400を超える部分は50であるが、×1年度より繰り越した退職給与引当金繰入限度超過額の部分を優先して取り崩したものとして処理している。

別表5(1)
×1年度

区  分 期首 当期中の増減 利益処分 翌期首
退職給付引当金    105    105
           
           

×2年度
区  分 期首 当期中の増減 利益処分 翌期首
退職給付引当金 105 50 84    139
           
           

 

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