目次 1-1-Q1


1  赴任前事項


1 海外駐在に対する会社の方針


Question
海外駐在に対する会社の方針
(家族帯同が原則か、単身赴任が原則か)

 海外駐在時の赴任形態について、他社ではどのような方針を持っているのでしょうか。



Answer1.赴任形態に対する会社の考え方

 数十年前は、海外駐在といえば大手企業が中心で「家族帯同が原則」となっていましたが、企業の海外展開が進み、中堅・中小企業の海外進出も一般化してきた現在では、「家族帯同が原則」としている企業は減ってきており、「家族を帯同するもしないも本人の自由」というケースはもちろん、中には「海外駐在は単身が原則」とする企業も増えつつあります。

 図表1−1では海外駐在のメリット・デメリットを図表にまとめました。

図表1−1 単身赴任と家族帯同のメリット、デメリット
  単身赴任 家族帯同



〈会社にとって〉
家族帯同に比べて赴任支度金、引越代、住居費等が安くつく。
〈海外勤務者本人にとって〉
家族と離れていて寂しい反面、自由で気楽。
〈海外勤務者本人にとって〉
外国暮らしを一緒に経験することで家族の絆が深まる。
子女に異文化体験をさせることができ、外国語習得のよい機会を得ることができる。




〈会社にとって〉
単身手当として、国内払手当が必要となる。
女性問題等を引き起こす可能性が家族帯同者に比べて高くなる。
〈海外勤務者本人にとって〉
健康管理をしてくれる家族が身近にいないため、自己管理ができないと、健康を損ねるなど、生活が荒れる可能性がある。
〈会社にとって〉
子女教育費、家族手当といった追加コストがかかる。
〈海外勤務者本人にとって〉
家族の健康、メンタルヘルス面に問題が発生する場合がある。
子女の学力等に対する不安。
海外赴任者が出張等で不在ばかりだと、家族が日本在住時以上に孤独を感じることになる。


2 駐在員からの声

 海外赴任形態に対する駐在員からの声は図表1−2のとおりです。

図表1−2 海外赴任形態に対する駐在員からの声
【家族帯同の理由】
会社が家族帯同を原則としている。
子女に異文化体験をさせることができるチャンスだと思った。
配偶者も海外滞在することを希望している。
【単身赴任者】
単身赴任の方が仕事に専念できる。
家族帯同するより単身赴任の方が経済的な面で有利だと思った。
治安が悪く家族を帯同できる環境ではない。
家族が海外に住むことを嫌がった。
子女の進学を考えると海外勤務に帯同させることがプラスになるとは思えなかった。
家族帯同禁止ではないがコスト面から会社が単身赴任を望んでいることがわかっていたので、家族を連れて行きたいとは言い出せる雰囲気ではなかった。

 このように、家族帯同されるケースは、会社の原則に従ったためという理由もありますが、どちらかというと積極的な理由から家族帯同を選択されていることがわかります。

 一方、単身赴任を選択された人の中には、「業務に専念したい」「経済的に有利」といった理由がある一方、「家族を連れて行ける環境になかった」「家族が嫌がった」「単身赴任しか選択の余地がなかった」等、どちらかというと消極的な理由から単身赴任を選択されていることがわかります。

 一方、選択した赴任形態については、家族帯同、単身赴任のいずれのケースも「自分の選択が正しかった」と納得されている人が多いのですが、図表1−3のとおり、現在の赴任形態に伴う悩みも色々と存在します。

図表1−3 現在の赴任形態で困っていること
【家族帯同で困っていること】
配偶者が赴任地(アジア)の国籍で現在、その国に赴任しているが数年で帰国予定。
今後、欧米赴任も考えられるが、子供の教育をどの方向に導いていくべきか(日系、中華系、インターナショナル)悩んでいる。
配偶者は英語が話せないため、一人では行動できず、結果的に家の中にこもりがちで精神的に不安定な状態が続いている。
日本人学校は中学校までしかなく、会社の教育費負担も中学までのため、中学卒業と同時に日本に帰国させねばならず、今後の教育面に不安を抱いている。
空気が悪く子供が喘息になった。
【単身赴任者が困っていること】
外食中心で、帰宅しても話し相手がおらず、ストレスも多く健康に不安を感じている。
家族のことを気にせず遅くまで仕事ができるなど、気楽な面もあるが、寂しさもある。
子供が幼いため、たまにしか帰国しない現状では、自分になついてくれず、泣かれてしまう。このままだと親子関係が希薄になるのではないかと不安。
単身赴任のため、誰かと出かけるとなると、必然的に同じ職場の日本人赴任者と行動することになる。気が合わない場合、お互いストレスを感じる。


3.家族帯同できるエリアは?
〜日本人コミュニティのある地域、就学年齢に達した子女がいる場合は日本人学校が存在する地域であることが不可欠〜

 いくら「家族帯同で駐在したい(もしくは駐在させたい)」と考えていても、日本人がほとんどいない地域、もしくは就学年齢に達している子女がいるにもかかわらず、日本人学校もしくは日本語補習校がない地域であれば、家族帯同は事実上不可能でしょう。もちろん、アメリカ、カナダ、オーストラリア等の英語圏については現地校に通うという選択肢もあるので、必ずしも「日本人学校がないこと」は家族帯同ができない要因とはなりません。しかし、アジア地域については、日本人学校がない場合、会社が(学校によっては年間200万円以上かかる)インターナショナルスクールの高額な学費の大半を負担しない限り、子女を連れて赴任するのは難しくなります。(もちろん、両親のどちらかが駐在国の国籍を持つ場合、現地校に通うケースもありますが、事例としては多くありません。)

 

目次 次ページ