目次 1-1-Q2


Question
海外駐在用に人材を採用する際の留意点

 このたび、東南アジアに現地法人を設立することが決まりました。そのため、当社から海外に社員を駐在させたいのですが、適切な人材がいないため、他社で赴任経験のある人をヘッドハントするつもりです。海外駐在用に人材を採用する際の留意点を教えてください。



Answer1.採用時のチェックポイント

 社内に海外駐在に適当な人材がいない場合、海外経験のある人を新たに採用し、その人に海外勤務させるケースも少なくありません。その際、ターゲットとなるのは「大手企業等を定年退職した海外経験豊富な60歳前後の人材」もしくは、「他社を中途退社した人材」が考えられるでしょう。

 前者の「定年退職前後の人材」の場合、給与や待遇面よりも、「生きがい」を求めて働くという動機が強く、非常にコストパフォーマンスが高いといえます。

 もう一方の、「他社を中途退社した人材」についても、これまでの経験を生かして新たな職場で働きたいというモチベーションの高い人材が少なくないのではないでしょうか。

 また、海外駐在用に人材を採用する場合、単に「海外経験があるから」という理由で採用するケースもあるようですが、実際、海外での経験といっても、地域によって相当異なっています。また、他社を中途退社している場合(特に数社も日系企業の海外勤務を経験しているような場合)、「なぜ前の会社を辞めたのか」を十分に把握しておく必要があります。(中には、前の海外での勤務先にて、業者との癒着や横領などの問題を起こし、退職に追い込まれたケースもあります。)

 そのため、海外駐在用に人材を採用する際には以下の2点に留意する必要があるでしょう。

図表2−1 海外駐在用に人材を採用する際の留意点
1.「海外経験がある」といってもどの地域・業種でどういった経験があるのかを確認
 海外は広く、地域・業界が違えば、考え方や物事の進め方も異なる点がたくさんある。そのため、可能な限り、自社の事業所が存在する地域付近で働いてきた人材の方が即戦力となりやすい。(貿易現法と製造現法では業務内容が異なる。)
2.前職でも海外勤務だった場合、「なぜ退職したのか」をよく把握しておくこと
 日本企業を含めた海外の企業を数社も渡り歩いている人材の場合、前の職場で不正等を起こしているケースもある。そのため、「なぜ辞めたのか」という理由をある程度把握したうえで採用する必要がある。


2.海外赴任が前提の入社であれば、入社時に海外赴任時の条件をきちんと伝えておく

 図表2−1の留意点も大切なポイントですが、最も重要なのが、「入社時に海外赴任の条件をきちんと伝えておく」ことです。この点があいまいで入社させてしまったため、後から赴任者と揉めたり、何とか条件を飲ませて赴任させても、モチベーションが低いため、結果としてうまくいかないというケースも少なくありません。


3.実 例
〜海外駐在員用人材採用の成功ケース・失敗ケース〜

(1) 成功した事例

 中堅企業A社はこのたび、X国に進出することになりましたが、社内には適当な人材がいないため、X国でのビジネスに精通した人材を海外駐在員用に採用したいと人材紹介会社に依頼をしていました。

 その結果、紹介会社からの斡旋で金融機関C社において海外駐在員として勤務していたB氏を海外駐在員用人材として採用することになりました。

 40代前半のB氏は、長期間X国に赴任していましたが、勤務先のX国からの撤退に伴い、A氏も帰任することになっていました。しかし、A氏は帰国後の自分のポジションや業務内容から判断し、このままC社に残るのではなく、これまでのキャリアを活かすことのできる会社に転職したいと考え、人材紹介会社に登録していたのです。B氏のA社における海外赴任者としての待遇は、C社で受けてきたそれよりも下回っていましたが、仕事内容に魅力を感じ、思い切って転職したようです。オーナー企業であるA社の文化に慣れるまで、B氏なりに苦労はあったようですが、B氏はA社の業務内容はもちろん、社風や従業員の中に溶け込もうと努力した結果、全く異なる業界からの転職でしたが、いまではA社のX国でのビジネスを切り盛りし、社内及び社外からも大変信頼が厚い人材として活躍しているということです。

(2) 上手くいかなかった事例

 中堅企業D社はこのたび初めて海外に進出することになりました。しかし、地方の有名企業である同社には、地元で働きたいがゆえに入社した社員がほとんどであり、海外勤務を希望する社員は存在せず、当然ながら海外経験のある社員も存在しませんでした。そのため、海外勤務用の人材を採用する必要があったため、海外拠点が多数ある大手企業E社に勤務しており、過去に海外経験のあるF氏を採用することになりました。

 採用に当たっては海外勤務が前提だったため、本来は海外勤務時の条件をきちんと決定してから採用するべきだったのですが、現地法人設立まで時間もないことから、「赴任時の処遇は入社してから決定しよう」というあいまいな条件のまま、採用してしまいました。

 しかし、過去にE社で勤務していたF氏は、E社での海外勤務時にかなり良い待遇を受けていたため、「海外勤務すれば、このくらいの処遇は得られるのが当然」という先入観があったため、入社してからD社から提示された条件(帯同する子女に教育費が支給されない、家賃上限が前職に比べてかなり低い等)に納得できず、不本意なまま赴任することになりました。また、当初、D社がF氏に提示した「年間支給額は1,000万円」という金額をD社は税込みで考えていたものの、以前の会社で海外勤務中の給与は手取りで保障されていたF氏は、手取りで1,000万円と認識しており、この点でも入社後、両者の間ですり合わせが必要になりました。

 また、入社してすぐに海外勤務となったため、本社の関係部門との人間関係が構築できていないことから、本社と現地法人間で何かと衝突することも多く、結局数年で同社を退職せざるを得ない状況になりました。

 

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