企業価値の向上策 3
今回は、バリュードライバー分析という視点で見てみます。
IV.バリュードライバーの分析
企業価値を向上させるに当たって、できるだけ効率的、効果的に実施したい場合、どこにポイントを置くかを分析する方法に「バリュードライバー分析」というものがあります。
1 バリュードライバーとは
企業価値を算出する際には、決算書の勘定科目によってはほとんど企業価値に影響を与えないものもあれば、影響を与えるものもあります。科目同士の計算による比率で影響を与えるものを「バリュードライバー」と呼び、一般的には次のものを差します。
○売上高伸び率
○売上原価率
○売上高販管費率
○運転資本増減率
○設備投資率
これが企業価値の主な構成要素であり、コントロールすることにより企業価値の向上を図ります。
2 ROICツリーによるバリュードライバーの分析
「ROICツリー」という、バリュードライバーの分析方法があります。 ROICツリーでは、バリュードライバーを体系的に分かりやすく、重点ポイントを絞り込むことができます。
ROICとは「投下資本利益率」のことで、投下された資本に対して、どれくらいのリターンを上げたのかを計るための指標であり、分解してその構成要素を分析するのが「ROICツリー」です。
投下資本: |
運転資本(営業資産)+固定資産 (有利子負債+純資産でも可) |
リターン : |
「税引き後営業利益」(NOPAT) (または「みなし税引き後利益」(NOPLAT)) |
ROIC = |
NOPAT |
= 税引き前ROIC − 税負担率 |
|
投下資本 |
「税引き後営業利益」は、営業利益と営業利益にかかる税金に分解できますので、税引き前ROICを「ROICツリー」で見ていきます。
税引前ROICは「売上高営業利益率」と「投下資本回転率」(売上高÷投下資本)に分解することができます。これにより収益性と効率性に分解されたことになります。
収益性を示す「売上高営業利益率」は、「売上高伸び率」、「売上原価率」、「売上高販管費率」などから構成されています。また「売上高販管費率」は、「減価償却費率」や「研究開発費率」、「人件費率」などから構成されています。
効率性を示す「投下資本回転率」は、「運転資本回転率」と「固定資産回転率」から構成されています。それぞれの回転率が、さらに上図のように分解されていきます。
このように考えていくと、バリュードライバーを詳細に把握することができます。
3 バリュードライバーの優先順位:感応度(影響度)分析
最後に、どのバリュードライバーどれくらい変化すれば、企業価値がどれくらい変化するかを把握する「感応度(影響度)分析」を紹介します。
同じバリュードライバーでも価値の変化が大きい項目を優先的に向上させれば、より効率的に企業価値を高められます。そのために「感応度(影響度)分析」を利用します。
具体的には、他のバリュードライバーを固定し、特定のバリュードライバーを変化させ、企業価値を算出します。同様に他のバリュードライバーについても試します。ひとつずつ全てのバリュードライバーを変化させた結果、企業価値が大きく変化するものが優先順位の高い項目です。
例えば
A社:企業価値300億円の場合
1.売上高伸び率を10%上昇 |
→企業価値が50億円上昇 |
2.売上原価率を10%削減 |
→企業価値が20億円上昇 |
3.売上高販管費率を10%削減 |
→企業価値が100億円上昇 |
4.運転資本増加率を10%削減 |
→企業価値が10億円向上 |
5.設備投資率を10%削減 |
→企業価値が40億円向上 |
であるとすると、どれが重要な項目になるでしょうか。グラフにしてみると分かりやすくなります。
上記の例では、「売上高販管費率」を変化させた場合が、最も企業価値が大きく変化します。
したがって、上記のように10%ずつ変化させた場合は、「売上高販管費率」が最も感応度(影響度)の高い最も重要な項目ということになります。
このように企業価値の向上に最も有効な項目を分析し、その項目を経営計画や事業計画の優先順位の上位とし、企業価値の向上を図ります。