目次 IV-1


IV.相続と事業承継をめぐることしの税制改正

以下の解説は、「平成21年度税制改正大綱」(自由民主党・公明党)と「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律施行規則」をベースに解説していますが、用語の意義や要件等は、今後平成21年度改正の租税特別措置法において明らかにされる予定となっていますのでご留意ください。(編者)


1 非上場株式等に係る相続税の納税猶予制度等の創設

 経営承継相続人が、非上場会社を経営していた被相続人から相続等によりその会社の株式等を取得し、その会社を経営していく場合には、その経営承継相続人が納付すべき相続税額のうち、相続等により取得した議決権株式等(相続開始前から既に保有していた議決権株式等を含めて、その会社の発行済議決権株式等の総数等の3分の2に達するまでの部分に限ります。)に係る課税価格の80%に対応する相続税の納税を猶予することとされます。

経営承継相続人とは
 「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」の規定に基づき経済産業大臣の認定を受ける一定の非上場会社の後継者をいいます。この経営承継相続人は、経済産業大臣の認定の有効期間(5年間)内は毎年、その後は3年毎に継続届出書を税務署長に提出しなければなりません。


【1】猶予税額の計算

(a) 相続税の納税猶予の適用がないものとして、通常の相続税額の計算を行い、経営承継相続人の相続税額を算出します。
(b) 経営承継相続人以外の相続人の取得財産は不変としたうえで、経営承継相続人が、特例適用株式等(100%)のみを相続するものとして計算した場合の経営承継相続人の相続税額と、特例適用株式等(20%)のみを相続するものとして計算した場合の経営承継相続人の相続税額の差額が、経営承継相続人の猶予税額とされます。
(c) (a)により算出した経営承継相続人の相続税額から(b)の猶予税額を控除した額が経営承継相続人の納付税額となります。


【計算例】(便宜上、万円未満の端数は適宜に調整しています。)
子供A 自社株以外の財産 5億円
子供B(経営承継相続人) 自社株以外の財産
自社株(発行済議決権株式等の100%)
5,000万円
4億5,000万円
遺 産 総 額 10億円


(a)  通常の相続税額の計算
以下の数字は便宜上万円未満を調整しています。

10億円−(5,000万円+1,000万円×2人)〔基礎控除額〕=9億3,000万円

{(9億3,000万円×1/2)×50%−4,700万円}×2人=3億7,100万円

◆3億7,100万円× A:5億円/10億円 A:1億8,550万円
B:5億円/10億円 B:1億8,550万円

子供A(経営承継相続人以外の相続人)の相続税額は、1億8,550万円で確定


(b) 猶予税額の計算

(ア)  特例適用株式等  4億5,000万円×2/3=3億円

(イ)  特例適用株式等(100%)のみを相続するとして、子供Bの相続税額を計算

(5億円+3億円)−(5,000万円+1,000万円×2人)=7億3,000万円

{(7億3,000万円×1/2)×50%−4,700万円}×2=2億7,100万円

2億7,100万円×(3億円/8億円)=1億163万円

(ウ)  特例適用株式等(20%)のみを相続するとして、子供Bの相続税額を計算

◆3億円×20%=6,000万円

(5億円+6,000万円)−(5,000万円+1,000万円×2人)=4億9,000万円

{(4億9,000万円×1/2)×40%−1,700万円}×2=1億6,200万円

1億6,200万円×(6,000万円/5億6,000万円)=1,736万円

(エ)  猶予税額

◆1億163万円−1,736万円=8,426万円

子供B(経営承継相続人)の猶予税額は、8,426万円


(c)  経営承継相続人の納付税額

通常の相続税額 1億8,550万円−猶予税額8,426万円=1億124万円

  相続財産 通常の相続税額 猶予税額 納付税額
子供A 5億円 1億8,550万円 1億8,550万円
子供B 5億円 1億8,550万円 8,426万円   1億124万円


【2】猶予税額の免除

  その経営承継相続人が特例適用株式等を死亡の時まで保有し続けた場合は、猶予税額の納付が免除されます。このほか、経済産業大臣の認定の有効期間(5年間)経過後における猶予税額の納付の免除については次によります。

(a)  特例適用株式等に係る会社について、破産手続開始の決定又は特別清算開始の命令があった場合には、猶予税額の全額が免除されます。
(b)  次の後継者へ特例適用株式等を贈与した場合において、その特例適用株式等について贈与税の納税猶予制度(後述)の適用を受けるときは、その適用を受ける特例適用株式等に係る相続税の猶予税額の納付が免除されます。
(c)  同族関係者以外の者へ保有する特例適用株式等を一括して譲渡した場合において、その譲渡対価又は譲渡時の時価(譲渡時の株式評価額)のいずれか高い額が猶予税額を下回るときは、その差額分の猶予税額が免除されます。

 なお、租税回避行為に対応するため、上記(a)、(c)の場合において免除するとされる額のうち、過去5年間の経営承継相続人及び生計を一にする者に対して支払われた配当及び過大役員給与等(法人税法第34条及び第36条により損金不算入とされたもの)に相当する額は免除されません。


【3】猶予税額の納付

(a)  経済産業大臣の認定の有効期間(5年間)内に、経営承継相続人が代表者でなくなる等、当該認定の取消事由に該当する事実が生じた場合には、猶予税額の全額を納付します。

事業継続期間内の認定の取消し事由(中小企業経営承継円滑化法施行規則9丸数字2
経営承継相続人が死亡又は代表者を退任したこと
経営承継相続人の代表権に制限を加えたこと
報告基準日において、常時使用する従業員の数が従業員数起算日における常時使用する従業員の数の80%未満になったこと
経営承継相続人とその同族関係者の有する議決権の割合が50%以下となったこと
経営承継相続人が同族関係者内で筆頭株主でなくなったこと
経営承継相続人が相続又は遺贈により取得した株式等の全部又は一部を譲渡したこと   など


(b)  (a)の期間経過後において、特例適用株式等の譲渡等をした場合には、特例適用株式等の総数に対する譲渡等をした特例適用株式等の割合に応じて猶予税額を納付します。


【4】利子税の納付

 上記【3】により、猶予税額の全部又は一部を納付する場合には、相続税の法定申告期限からの利子税(年3.6%)を併せて納付します。


【5】担保の提供

 相続税の納税猶予の適用を受けるためには、原則として、特例適用株式等のすべてを担保に供さなければなりません。

【相続税の納税猶予制度の概要】
(経済産業省・中小企業庁資料より)




【6】その他

(a) 租税回避行為への対応

 資産保有型会社の判定において、過去5年間に経営承継相続人及びその同族関係者に対して支払われた配当や過大役員給与等に相当する額を特定資産及び総資産の額に加算されます。
 相続開始前3年以内に経営承継相続人の同族関係者からの現物出資又は贈与により取得した資産の合計額の総資産に占める割合が70%以上である会社に係る株式等については、本特例が適用されません。
 上記のほか、経営承継相続人等の相続税等の負担を不当に減少させる結果となると認められる行為に対応するための措置が講じられます。


(b) 他の特例との適用関係

 相続税の納税猶予の適用を受ける場合も、小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例の適用が認められます。


(c) 現行の特例の廃止等

  イ  特定同族会社株式等に係る課税価格の計算の特例(以下「10%減額特例」といいます。)は、平成21年3月31日をもって廃止されます。

 なお、平成21年3月31日までに、10%減額特例の適用を受けるため相続時精算課税制度を選択して贈与を受けた株式等については、下記のとおり適用されます。

(イ)  10%減額特例の適用要件を満たしている場合には、相続時に10%減額特例が適用されます。
(ロ)  後継者が平成22年3月31日までに相続税の納税猶予の適用を受ける旨の選択をした場合には、その後継者については、10%減額特例に代えて相続税の納税猶予が適用されます。

  ロ  特定同族株式等に係る贈与税の相続時精算課税制度の特例は、イの(ロ)と同様の経過措置を講じたうえ、廃止されます。

【経過措置】
(1)現行の自社株式に係る相続税の10%減額特例の廃止に伴う措置

 現行の自社株式に係る相続税の10%減額特例は平成21年3月31日で廃止。ただし、既に、当該特例の適用を受けるために、相続時精算課税により贈与された株式については次の経過措置を講じる。
  (a)  相続時に適用要件を満たしている場合には、10%減額特例を適用
  (b)  贈与を受けた者が後継者で、適用要件を満たしている場合には、相続税の80%納税猶予を適用。
 (※)平成22年度末までに届出が必要

《相続時精算課税により生前贈与している場合(経営者が発行済議決権株式総数の60%を保有しているケース)》



《(参考)相続時精算課税制度の課税方法》

(2)現行の中小オーナー経営者に対する相続時精算課税制度の特例の廃止に伴う措置

 現行の中小オーナー経営者に対する相続時精算課税の特例(贈与者の年齢制限を60歳以上に緩和、非課税枠を3,000万円に拡大)を廃止。贈与を受けた後継者が、適用要件を満たしている場合には、相続税の納税猶予を適用。

(中小企業庁資料より)

適用期日 (a)  取引相場のない株式等に係る相続税の納税猶予制度は、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律の施行日(平成20年10月1日)以後の相続等について適用を可能とする措置が講じられます。
(b)  平成20年10月1日から平成21年3月31日までの間に開始した相続に係る被相続人の遺産に非上場会社の株式等が含まれており、かつ、当該被相続人が当該非上場会社の代表者であった場合には、当該被相続人に係る相続税の申告書の提出期限が平成22年2月1日まで延長されます。

 

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