目次 III-2


2 税務訴訟の戦い方

1 更正処分の取消しを求める

 1 訴 訟

 審査請求に対する裁決になお不服がある場合、納税者は原処分の取消しを求めて地方裁判所に訴訟を提起することができる。

 出訴期間は、取消訴訟においては裁決があったことを知った日から6か月以内に提起しなければならないとされている(行政事件訴訟法第14条第1項)。

 なお、「処分又は裁決があったことを知った日から」の起算点については、初日を算入せず、知った日の翌日から起算する(行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第95条第1項、民法第140条本文)。

 また、審査請求をした日の翌日から起算して3か月を経過してもなお裁決がない場合は、裁決を待たずに訴訟を提起することができる(通則法第115条第1項第一号)。


2 立証責任の難しさ

 1 立証責任とは

 立証責任とは、訴訟において裁判所がある主要事実(権利の発生・変更・消滅という法律効果を判断するのに直接必要な具体的事実)の存否につき、そのいずれとも確定できない場合(真偽不明)、その結果として、判決において、その事実を要件とする自己に有利な法律効果の発生または不発生が認められないことになる当事者の一方の危険または不利益のことをいう。

 これは、審理の最終段階においてもなお、ある主要事実についての心証が形成できない場合に、裁判所の裁判拒否を防止するためのものである(憲法第32条参照)。

 立証責任は、一つの事実については必ず一方当事者のみが負担するものであり、訴訟の経過によって変動することはない。


 2 課税処分取消訴訟における立証責任の分配

 課税処分取消訴訟においても、法律要件分類説が妥当すると解されている。したがって、課税処分の根拠規定の要件事実については被告たる国に立証責任があり、権利障害規定や消滅規定については、原告たる納税者に立証責任があることになる。


 3 立証責任の難しさ

 上述のとおり、更正処分の取消請求訴訟においては、一般に、課税の根拠となる課税標準である所得の存在および金額等について、被告たる国側が立証責任を負うと解されている。

 しかし、処分の適法性を争い、勝訴を勝ち取るためには、受身の姿勢でいることは許されないのが現実である。一般論としても、立証責任は、裁判所がある主要事実の存否につき、そのいずれとも確定できない真偽不明の場合の概念であるから、原告納税者としては、立証責任の有無を問わず、裁判官に当該処分が違法であるという確信を持ってもらうことを目指すべきである。一般に、裁判官にとって、国を負かせることには勇気がいるものである。加えて、処分がなされている事案である以上、外形上は一応の証拠があると考えておいた方がよい。よって、納税者および納税者に関与する税理士としては、日頃から万が一の場合に備えて、当該申告の適法性を立証できるだけの証拠を準備しておくことが必要である。


3 通達解釈の崩壊

 さらに、訴訟において当該処分の違法性を主張するに当たっては、あくまでも「法律」の解釈という見地からこれを行うことが肝要である。確かに、従来は、通達をなぞるような裁判例も数多く見受けられたが、近時の裁判所は、各当事者に対し、通達の存在およびその内容はさておき、当該処分が「法律」に照らして適法なのかという点から主張・立証をするよう求めてくる。いわば当たり前のことではあるが、通達行政ならぬ通達裁判の時代が長かったことから、ともするとこの事実を忘れがちである。納税者としては、法律に沿って、真正面から当該処分の違法性を争うべきであろう。

 

目次 次ページ