目次 I-8


8 課税処分取消訴訟の訴訟物と主張・立証責任


Question  課税処分取消訴訟の訴訟物と主張・立証責任について教えてください。
ポイント

 課税処分取消訴訟の訴訟物は処分の違法性一般となる。すなわち、納税者は、訴状において、課税処分の経緯とそれが違法であることを主張すれば足りる。
 違法事由が複数あっても訴訟物は一つとみることになる。
 課税処分取消訴訟では、課税処分の法律効果を主張する課税庁が、課税処分の根拠になる要件事実についての主張・立証責任を負う。
 課税庁の抗弁となるのが、課税標準を構成する益金の額・損金の額となる。




Answer

1 課税処分取消訴訟の法的性質

 課税処分取消訴訟は、この訴訟によって得られるべき取消判決によって公定力が排除されて、更正・決定等の課税処分の効果が取り消されることを画一的に明確にすることを目的とします。このように、判決の確定により法律関係の変動を生じさせる訴訟を「形成訴訟」といいます。

 処分が取り消されるべきものであるかどうかは、その課税処分に税法の規定する要件があったか否かによって決まることになります。言い換えると、なされた課税処分に処分の要件を欠く違法性がないかどうかを審判するのが課税処分取消訴訟になります。したがって、課税処分取消訴訟の審理の対象となる訴訟物は、処分の違法性ということになります。

 次に問題になるのが、違法性を根拠付ける事由が複数ある場合に、訴訟物は複数になるのか、それとも一つなのかです。

 通常、課税処分は複数の処分要件から構成されます。課税庁はすべての処分要件を審査し、すべての処分要件を満たしていると判断してはじめて課税処分をすることができます。仮に、違法事由ごとに複数の訴訟物があったとした場合には、処分要件ごとに処分を分断して処理しなければならなくなり相当ではありません。

 したがって、取消訴訟の訴訟物は、処分の違法性一般であり、複数の違法事由は単なる攻撃防御方法にすぎないことになります。すなわち、原告としては取消しの対象となる処分を特定し、処分の違法性を主張すれば訴訟物の特定として十分であり、それが特定できれば、裁判所の審理・判断の範囲は、その処分に強制追込関わるすべての実体上及び手続上の処分要件の充足性に及ぶことになります。


2 課税処分取消訴訟の主張・立証責任

 課税処分取消訴訟では、原則としては、租税債権の発生を主張する課税庁が、租税債権の発生の根拠になる実体上及び手続上の適法要件について主張・立証責任を負います。

 課税処分取消訴訟における要件事実の主張・立証の分配は、租税債務不存在確認訴訟におけるものと同様に考えられており、そこでは、訴訟物である権利の発生要件事実については被告に主張・立証責任があるとされています。この場合における課税庁の主張・立証は、納税者の攻撃に対する防御ですので抗弁と位置付けられます。

 法人税についての課税処分取消訴訟においては、法人税更正処分等の違法性を訴訟物とし、課税庁が抗弁として課税標準を構成する益金及び損金の発生原因並びにその額を主張・立証しなければならないことになります。

 もう少し具体的に考えてみると、課税庁が課税処分の適法性に関する抗弁として主張・立証責任を負う事実は、別段の定め及び特別法の定めを除いた収益の額と、原価、費用、損失となります。

 そして、益金・損金についての別段の定め及び特別法である租税特別措置法に基づく課税要件の存否については、その規定が定められた趣旨等を勘案して個別・具体的に判断して位置付けを決めることになります。

 (注)  行政事件訴訟法の改正により、平成17年4月1日以降、被告適格者は、「国又は地方公共団体」とされ、被告は「課税庁」ではなくなりましたが、ここでは「課税庁」と表記しています。

 

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