目次 I-3


3 請求原因


Question  請求原因とは要件事実との関係でどういう意味を持つのか教えてください。
ポイント

 請求原因とは、裁判に当たって原告が求める裁判の結論に相当する「請求の趣旨」に係る理由に相当する部分である。
 原告は、実体法に照らし要件事実を認識する作業を行い、事実の主張を組み立てる。この事実の主張の組み立てが「請求原因」である。
 原告の主張する要件事実と、被告の主張する要件事実とで争いのあるところを「争点」という。
 裁判所は「争点」について必要な証拠調べなどの手続を実施して事実認定を行う。




Answer

1 「請求の趣旨」と「請求原因」


 民事裁判では、原告が被告に対して、実体法の規定に基づき何らかの権利を主張します。例えば、土地の所有権に基づく土地明渡請求権を主張するような訴訟であれば、訴状に書く「被告は原告に土地を明け渡せ」という結論部分が「請求の趣旨」に当たります。要するに請求の趣旨とは、裁判で原告が被告に対して求めている法律上の権利の内容を意味するわけです。

 請求の趣旨には実体法上の根拠が必要です。何ら根拠もないのに土地を明け渡せというのはムシのよすぎる話で、例えば「原告が土地を所有していて、被告が土地を占有している」といった事実があってこそ、原告は被告に土地明渡しを求めることができるのです。この場合の請求の趣旨に当たる土地明渡請求権の根拠になる事実、すなわち「原告が土地を所有していて、被告が土地を占有している」という事実をまとめて「請求原因」といいます。この請求原因を構成する「原告が土地を所有していて、被告が土地を占有している」といった個々の事実が、この請求原因においては要件事実に当たります。


2 争点と事実認定

 原告が主張する事実関係を被告が認めてしまえば、請求の趣旨に書かれている原告の要求どおりの結論が認められてしまうことになります。ところが、原告が主張する事実に対して、被告が異議を唱えるからこそ、訴訟において争いになるのです。後で説明しますが、具体的には原告が主張する請求原因を否定する場合(「否認」といいます。)や、原告の主張する権利を成立後に消滅させる別の法律要件を持ち出す場合(「抗弁」といいます。)があります。また、事実について争いのあるところを「争点」といいます。

 裁判所は、争点について必要な証拠調べをして、原告の主張と被告の主張について一定の事実認定をしなければなりません。そして、証拠調べによって得た事実認定について法律の規定を適用し判決を下すのが、民事訴訟のおおまかな流れです。

 民事訴訟における弁論主義についてはで触れましたが、更に説明すると、の例において原告が土地の所有者であることは、理論的に考えれば前の所有者や前々の所有者などに遡って立証する必要があるのですが、弁論主義により当事者双方に事実について争いがなければそれを立証する必要はなく、「原告は別紙目録記載土地の所有している」と記載するだけで足ります。

 また、弁論主義によれば、当事者双方間において特定の要件事実について争いがなければ、その要件事実に拘束され、裁判所は異なった結論を下すことはできないのです。例えば、の例において被告の抗弁が土地の賃貸借に基づき土地を引き渡したことで、原告が土地の所有者であることは当事者双方で事実認識が共通しているわけです。このような場合には、裁判所は原告が土地の所有者でないことを前提とした判断をしてはいけないことになります。

 

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