目次 I-4


4 訴訟物の決定と要件事実


Question  訴訟物の決定と要件事実の決定について教えてください。
ポイント

 訴訟物の決定とは、審判の対象を決定することである。
 訴訟物が決定すれば請求原因に係る要件事実と、それ以外の事実との切り分けが決定する。
 要件事実以外の事実には「間接事実」「補助事実」などがある。
 当事者が立証責任を負うのは要件事実であって、「間接事実」「補助事実」については立証責任を負わない。




Answer

1 訴訟物の決定

 民事訴訟においては、まず訴訟物の決定が重要な意味を持ちます。なぜなら、訴状において自分の主張を法律的にまとめていくに当たって、訴訟戦術上「結論部分」とそれを主張するための要件事実との関係をよく考えて整合性のあるものとし、訴訟物を決めなければならないからです。原告の主張が法律的に不明確であれば、原告が望むような判決に結びつけるのは困難とならざるを得ません。

 しかも、訴訟物を最終的に決定するのは原告です。したがって、原告は訴状の作成に当たって自らの主張を整理した上で、何を訴訟物として取り上げるのが正解であるかを決めて訴訟に臨むことになります。


2 訴訟物の決定と要件事実

 訴訟物が確定すると、次に事実関係について要件事実とそれ以外の事実に切り分ける作業が必要になります。すなわち、訴訟物の決定を通じて審判の対象を確定することにより、係争の対象になっている事実関係のうち、何が法律的に意味のある事実で、何が法律的に意味のない事実であるかを切り分けるのです。

 事実については、要件事実に該当する主要事実と間接事実・補助事実などがあります。

 主要事実とは、請求を理由付ける具体的事実であり、本書でいう要件事実を具体化したものです。当事者が主張する要件事実は立証責任の分配の原則に従い、立証責任があります。

 間接事実とは、「請求を理由付ける事実に関連する事実」(民訴規53(1))です。すなわち、要件事実に争いがあり、それを証明する必要がある場合にその要件事実の存在を経験則上推認させる効力を持つ事実なのです。また、間接事実にすら争いがある場合に間接事実の存在を推認する効力を持つ事実を再間接事実といいます。これらの事実は、要件事実の存否を通して間接的に訴訟物の存否の判断に影響を与えます。しかし、主要事実と異なり、その性格上、当事者に主張責任はありません。つまり、主張しなくても、証拠上表れていれば裁判所が取り上げてくれる場合があるわけです。

 補助事実とは、証人の性格や証人と挙証者との特別の利害関係など証拠の証明力に関する事実です。売買契約に基づく代金1,000万円の請求事件を例に取って説明しましょう。この場合における要件事実は、「原告が被告に対し○○年○月○日に、商品○○を代金1,000万円で売った」という事実です。この事実に争いがなければ、裁判所は証拠調べをせずにこの売買契約の成立を認定します。ところが、この事実に争いがあって、しかも売買契約書などの直接的な書証がない場合には、例えば「原告が○○年○月○日の前後に、被告に対し、商品○○の納入に関して1,000万円の見積書を出した」ことや、「商品○○を被告に納品した」ことなどが、間接事実となります。補助事実は、当事者が提出した証拠について納品受領書に押印された印章が偽物であるとか、筆跡が他人のものであるとかいう事実です。

 ただし、事実を切り分けるといっても、要件事実だけが重要でそれ以外の事実は重要でないのかといえばそうではなく、間接事実の存否の判断が要件事実の判断に決定的に影響を与えることもあり得ますので、疎かにしてはいけません。

 

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