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2 要件事実と弁論主義 |
1 弁論主義とは 弁論主義とは、裁判の当事者が法廷でなした実体法上意味のある主張を基に、裁判官が判決を下すという、裁判上の原則です。したがって、法廷で主張されない限りは訴訟上その事実が存在していたものとして取り扱うことができないこととなります。 裁判では訴えを提起する原告と、原告から訴えられた被告が登場します。そして、弁論主義に基づき原告の主張及び被告の反論を吟味し、裁判官が実体法に照らして判決を下すことになります。 2 訴訟物とは 通常の民事裁判では、原告が実体法に定められている権利の存在を被告に対して主張するわけですが、この場合の原告の主張に属する権利のことを訴訟物といいます。すなわち、訴訟物とは原告が裁判によって主張する実体法に定められている権利なのです。例えば、不法占拠された土地についての土地明渡請求訴訟であれば、訴訟物は「所有権に基づく返還請求権としての土地明渡請求権」となります。 3 訴訟物と要件事実の関係 あらゆる法律関係はその法律関係の成立から始まり、効力が発生し、消滅します。そして、あらゆる法律関係の要件は成立要件、効力要件、消滅要件に分類されます。権利・法律関係は観念的な存在であるので、その権利の存否は直接的に認識することはできず、権利の発生・障害・消滅の組み合わせによって導くこととなります。 原告は、訴訟物を証明するためには権利発生事実を主張・立証する必要があります。そのためには、原告は、訴訟の対象になった具体的事実について、実体法の要件に当てはまるような具体的事実があるかどうかを主張するわけです。この場合における具体的事実を「要件事実」といいます。 したがって原告は、特定の法律上の権利について要件事実があるかどうかを判断して、特定の法律上の権利があるかどうかを判断し、それに基づいて主張することになります。 すなわち、訴訟物の存否の判断はその訴訟物に関係する要件事実から生じる法律効果の組み合わせによって行います。 4 要件事実と民事訴訟の関係 裁判官は、原告の主張する訴訟物たる権利・法律関係の存否を実体法に照らして判断するのですが、その判断のしかたはいわゆる三段論法です。すなわち裁判所は、実体法を前提としてその事案について要件事実に当たる具体的事実を認定して、その結果、実体法の定める法律効果の発生・障害・消滅を具体的に判断することにより、訴訟物である権利・法律関係の存否を判断することになるのです。 したがって、権利の発生・障害・消滅の法律効果が裁判官に認められるか否かというのは、その要件に該当する具体的事実、つまり要件事実が認められるかどうかにかかってきます。このように、民事訴訟において要件事実は、訴訟物たる権利・法律関係の存否を裁判官に認めさせるために、大変重要な位置付けにあるわけです。 |