目次 II−4


4 敵対的買収の手法と規制

 敵対的買収は、対象会社の経営陣が反対する可能性があるなかで実施しますので、M&Aの手法のなかでは、主に株式の買付けが実施されます。

(1) 公開買付け(TOB)

 株式の買付方法としては、市場取引、公開買付、相対取引等があるが、金融商品取引法上、買付者が有価証券報告書の提出会社である会社の経営権の変動につながるような大きな買付け等(「総株主の議決権の3分の1」を超える株式の買付け)を市場外で行う場合は、一部の例外を除いて、原則、公開買付けによらなければならないとされています。

 公開買付け(以下TOBという)とは、不特定かつ多数の人に対して、公告により会社の経営権の取得等を目的として、株券等の買付けの申込みまたは売付けの申込みの勧誘を行い、取引所金融商品市場外で株券等の買付けを行うことをいいます。

 公開買付の対象となる取引と対象外の取引をまとめると、次のようになります。

公開買付の対象となる取引
 市場外で5%を超える買付け等(60日間で10名以下の者からの買付等は除く)
 市場外で3分の1を超える場合
 立会外取引で3分の1を超える場合
 急速な買付等(3カ月以内の市場内外取引の組み合わせで3分の1を超える場合)
 他社が公開買付期間中における買付け等


公開買付の対象外の取引
 取引所金融商品市場内における取引
 取引所金融商品市場外における取引で以下のもの
  [1]  新株予約権の行使による買付け等
  [2]  株式割当てを受ける権利の行使による買付け等
  [3]  証券投資信託の受益証券の交換による買付け等
  [4]  取得請求権付株式の取得・引換えによる買付け等
  [5]  取得条項付株式又は新株予約権の取得・引換えによる買付け等
  [6]  特別関係者からの買付け等
  [7]  兄弟会社からの特定買付け等
  [8]  関係法人等からの特定買付け等
  [9]  25名未満の株主等の同意による特定買付け等
  [10]  子会社の特定買付け等
  [11]  担保権の実行による特定買付け等
  [12]  売出しに応じて行う買付け等
  [13]  従業員持株会等による買付け等
  [14]  非開示会社の株券等の買付け等
  [15]  金融商品取引清算機関に対する買付け等


(2) 5%ルール

 株券等の大量保有の状況に関する開示(いわゆる5%ルール)は、1990年に、市場の公平性・透明性を高め、投資家保護を一層徹底する観点から、株券等の大量の取得、保有、放出に関する情報を迅速に投資家に開示することを目的として導入された制度です。これは、株式の買占めが秘密裏に行われて、特定の者が株式を大量に取得、保有すると、支配関係や株価に大きな影響を与え、一般投資家や対象会社に不測の損害を与える可能性があるためです。

 この制度に基づいて、ある公開会社の発行済株式総数の5%を超えて実質的にその株式を取得した者は、原則として、取得日から5日以内に内閣総理大臣等に対して大量保有報告書等を提出しなければならず、また、大量保有報告書を提出した者は、その保有割合が1%以上変動した場合にも、同様に変更報告 書を提出しなければなりません。

 なお、銀行、証券会社、投資顧問業といった機関投資家については、株式売買の頻度が高く、また通常は、会社の事業への支配を目的としていないため、従来は、原則として3カ月以内となっていましたが、平成18年12月の改正にお いて、おおむね2週間ごとに5営業日以内へと短縮されています。

 ただし、「発行者の事業活動に重大な変更を加え、または重要提案行為等を行う目的」で取得する場合には、特例でなく、原則どおりの扱いとなります。


(3) 公開買付けの手続

 公開買付手続の流れは、以下のとおりです。

  [1] 公開買付開始公告

 公開買付けを開始するには、公開買付者が、その氏名・名称、住所・所在地、公開買付けにより株券の買付けを行う旨、当該公開買付けについて、その目的、買付け等の価格、買付予定の株券等の数、買付期間、買付後における公開買付者の株券等所有割合、対象者・役員との公開買付けに関する合意の有無等を公告しなければなりません(金取法27の3マル数字1)。


[2] 公開買付届出書

 公開買付者は、公開買付けを行った日に、公開買付届出書を内閣総理大臣に提出しなければなりません。この書類には、買付け等の価格、買付予定の株券等の数、買付期間、買付け等に係る受渡しその他の決済公開買付者が買付け等に付した条件、公開買付けの目的、公開買付者に関する事項等が記載されます(金取法27の3マル数字2)。

 なお、その写しは、対象者およびその株券が上場されている金融商品取引所または登録されている許可金融商品取引業協会への送付が必要です(金取法27の3マル数字4)。


[3] 公開買付けの開始

 公開買付開始公告及び公開買付届出書を内閣総理大臣に提出すれば、売付け等の申込みの勧誘等が可能となります(金取法27の3マル数字3


[4] 対象会社の意見表明報告書

 公開買付けの対象会社は、公開買付開始公告が行われた日から10営業日の期間内にその公開買付けに関する意見を記載した意見表明報告書を内閣総理大臣に提出しなければなりません(金取法27の10マル数字1

 なお、その写しは、対象者およびその株券が上場されている金融商品取引所または登録されている許可金融商品取引業協会への送付が必要です(金取法27の10マル数字13


[5] 公開買付説明書

 公開買付者は、公開買付届出書の内容等を記載した「公開買付説明書」を作成し、これを応募株主に対し、買付け等に先立って、または買付け等と同時に交付が必要です(金取法27の9)。


[6] 対質問回答報告書の提出

 公開買付対象者の意見表明報告書に質問が記載されている場合には、公開買付者は、意見表明報告書の写しの送付を受けた日から5営業日の期間内に、その質問に対する回答を記載した対質問回答報告書を内閣総理大臣に提出する必要があります(金取法27の10マル数字11)。

 なお、その写しは、対象者およびその株券等が上場されている金融商品取引所または登録されている許可金融商品取引業協会への送付が必要です(金取法27の10マル数字13)。


[7] 公開買付報告書

 公開買付者は、公開買付期間の末日の翌日に、当該公開買付けに係る応募株券等の数等の結果を公告し、または公表し、「公開買付報告書」を内閣総理大臣に提出しなければなりません(金取法27の13マル数字1マル数字2)。

 なお、その写しは、対象会社およびその株券が上場されている金融商品取引所等に送付しなければなりません(金取法27の13マル数字1マル数字2)。


(4) 公開買付けの規制

  [1] 公開買付期間の制限

 公開買付期間は、公開買付開始公告を行った日から20営業日以上60営業日以内でなければなりません(金取法27の2マル数字2、令8マル数字1)。


[2] 公開買付価格

 買付け等の価格は、全ての応募株主について均一の条件によらなければなりません(金取法27の2マル数字3)。


[3] 買付条件の変更の制限

 公開買付者は、原則として、買付け等の価格の引下げ、買付予定の株券等の数の減少、買付け等の期間の短縮等買付けに応じる株主に不利な変更を実施することはできません(金取法27の6マル数字3)。

 このような条件変更は認められますが、日刊新聞紙への公告および訂正届出書の提出が必要となります(金取法27の6マル数字1、27の8マル数字2)。


[4] 公開買付けの撤回の制限

 公開買付者は、公開買付開始公告をした後においては、公開買付けに係る申込みの撤回および契約の解除を行うことはできません(金取法27の11マル数字1)。ただし、公開買付者が公開買付開始公告および公開買付届出書において公開買付けに係る株券等の発行者の業務もしくは財産に関する重要な変更その他の公開買付けの目的の達成に重大な支障となる事情が生じたときは公開買付けの撤回等をすることがある旨の条件を付した場合または公開買付者に関し破産手続開始の決定その他の政令で定める重要な事情の変更が生じた場合には、撤回が可能です(金取法27の11マル数字1、令14マル数字2)。

 

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