目次 II−3


3 敵対的買収者に狙われやすい会社

 敵対的買収者に狙われやすい会社には、以下の特徴があります。

1 資産面からの割安さ
 [1]  資産価値に比べ、時価総額が割安
 [2]  過剰な現預金、有価証券を有する
 [3]  株式、土地等に多額の含み益
2 支配権取得の容易さ
 [1]  時価総額が小さい
 [2]  浮動株の比率が高い
 [3]  経営陣に対立がある
3 事業戦略上のメリットがある
 [1]  キャッシュフローの安定した事業がある
 [2]  将来飛躍的にキャッシュフローを増加させる可能性がある事業を保有している
 [3]  魅力ある顧客リスト
 [4]  魅力あるブランド価値

 また、買収リスクを診断するにあたり、基本となる指標は以下のとおりです。特に、PBR(1株あたり簿価純資産)が1倍以下の場合には、注意が必要です。買収リスクについて何パーセントと計量化できないため、同業他社、過去に敵対的買収にあった企業と比較して相対的なリスクを把握するのが現実的です。

指 標 算   式 算式および内容
PBR 株価/1株あたり簿価純資産 現在の株価が割安かどうかの判断指標
M&Aレシオ (時価総額×50%−手許流動性[現預金])/連結キャッシュフロー(当期利益+減価償却費) 対象企業の経営権を取得するために必要な株式の50%を買収して、手許流動性をすべて払出した後に、連結キャッシュフローの何年で買収資金が回収されるかを示す指標
ネットキャッシュ比率 (金融資産−有利子負債)/時価総額 ネットの金融資産(現預金+短期有価証券)が時価総額に占める割合を示す
EV/EBITDA
倍率
EV(株式時価総額+有利子負債−現預金)/EBITDA(経常利益+支払利息−受取利息+減価償却費) 企業の買収価値が何年分の広義のキャッシュフローにあたるかで投資効率を測るもの。


(事例)過剰な現預金を有している場合

 A社の場合には、有利子負債が2,000に対して、現金および現金等価物が1,000あり、仮に全額有利子負債の返済に充当したとしても、1,000だけの借入金が残ることになり、余剰資金はないことになります。買収者はキャッシュを投資し、当然、キャッシュでのリターンを考えますので、買収者からすれば、A社に投資上の他の魅力がないと買収に名乗り出ないことになります。ケース1の場合には、株主価値3,000に対して、時価総額が5,000となっていますので、安く買収できないことになり、敵対的買収のターゲットにはなりにくいと考えられます。ケース2の場合には、株主価値3,000に対して時価総額が1,000となっていますので、フィナンシャル面では、有利子負債が1,000だけありますが、事業戦略上の提携、有望な技術等事業戦略面でのターゲットとなれば、敵対的買収のターゲットになる可能性があります。


 一方、B社の場合には、財務上、現預金等が3,000に対して、有利子負債が1,000あり、それを全額返済したとしても、2,000だけの余剰資金があることになります。もし、2,000よりも安く支配権を獲得すれば、その余剰金は配当等により買収者である株主に還元し、投下資本の回収ができることになります。


 したがって、ケース3では、余剰資金があるものの、時価が高いため、買収に伴う投下資金が多くなる可能性があるのに対して、ケース4では、資金余剰があることに加え、株主価値4,500に対して時価総額が1,000となっており、仮に1.5倍の1,500で100%買収したとしても、ネット2,000のキャッシュを入手できますので、直ちに投下資本を回収し、500だけのキャッシュを入手できること になります。

 

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