目次 I−5


5 取締役の選任

 取締役は株主総会で選任される。
 取締役は株主総会の普通決議で選任される。
 取締役会設置会社の取締役の数は3人以上必要である。
 取締役の氏名は登記事項である。
 取締役の任期は2年を超えることができない(株式譲渡制限会社は、10年に伸長可)。
 取締役の報酬は定款の定めまたは株主総会の決議により上限が決められる。
 社外取締役制度が平成13年商法改正で新たに設置された。
 執行役員は取締役会の形骸化の弊害を解消するため設けられたもので、役員ではなく基本的には会社と雇用関係にある。


1 取締役の選任

 取締役の選任権は株主総会にあります(会329マル数字1)。ただし、株主総会の決議により当然に取締役になるのではなく、株主総会で取締役が選任された後、会社と取締役との委任契約により取締役に就任します(会330)。


2 選任方法

 取締役の選任は株主総会の普通決議により行われます。つまり、総株主の議決権の過半数(定款で引下げ可)を有する株主が出席し、その議決権の過半数(定款で引上げ可)で決議されます(会341)。しかし、定款において定足数を緩和している場合であっても、取締役の選任の場合は総株主の議決権の3分の1以上の株式を有する株主の出席が必要です。


3 取締役の員数
 
 旧商法では株式会社はその規模にかかわらず、3人以上の取締役が必要でした。

 会社法では、取締役会を設置する場合は、3人以上の取締役を置く必要があります(会331マル数字4)が、取締役会を設置しない場合には、1人でかまいません(会326マル数字1)。ただし、会社法の規定に反しない限度で、定款で取締役の員数の最低限度または最高限度、あるいは最低限度および最高限度を定めることはで きます(会29)。


4 就任登記

 会社は取締役を選任したときにその氏名を登記しなければなりません(会911マル数字3)。取締役の就任の日から2週間以内に本店の所在地で、就任登記をする必要があります(会911マル数字1、915マル数字1)。


5 任期

 取締役の任期は原則として選任後2年以内(委員会設置会社は1年以内)に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結のときまでとされています(会332マル数字1)。この法定の任期は定款または株主総会の決議をもって短縮することはできますが、伸長することは原則としてできません。また、委員会設置会社ではない株式譲渡制限会社は、定款によって選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで伸長することができます(会332マル数字2)。さらに委員会設置会社となるための定款の変更、委員会設置会社でなくなるための定款の変更、または公開会社となるための定款の変更(委員会設置会社がするものを除く)をした場合には、取締役の任期は、当該定款の変更の効力が生じた時に満了します(会332マル数字4)。任期到来前に退任した取締役がある場合、その補欠として選任された取締役の任期については、退任取締役の残任期間とする説と他の取締役と同様2年とする説の2説が存在し、実務上は定款によって退任取締役の残任期間と定めている会社が一般的なようです。


6 取締役の報酬

(1) 取締役の報酬規制

 委員会設置会社以外の株式会社は、取締役の報酬等(報酬、賞与その他の職務執行の対価として会社から受ける財産上の利益)について、[1]報酬等のうち額が確定しているものについては、その額、[2]報酬等のうち額が確定していないものについては、その具体的な算定方法、[3]報酬等のうち金銭でないものについては、その具体的な内容について、定款に定めていないときは、株主総会の決議によってそれぞれ定めることになります(会361マル数字1

 取締役の報酬をみずから決定すると不当に高額になる恐れがあるため、お手盛り防止規定として定められているものです。

 株主総会では取締役の報酬総額の上限を定めれば、取締役の個人別報酬の決定については取締役会に委譲することもでき、さらに実務上は取締役会から代表取締役に一任されている場合が多いようです。

 委員会設置会社は、報酬委員会が、取締役の個人別の報酬等の内容に係る決定に関する方針を定め(会409マル数字1)、この方針に従い個人別の報酬等の内容を決定します。この決定に当たっては、[1]額が確定しているものは、個人別の額、[2]額が確定していないものは、個人別の具体的な算定方法、[3]金銭でないものは、個人別の具体的な内容についてそれぞれ決定しなければなりません(会409マル数字3)。
 

(2) 報酬の範囲

 取締役の報酬は職務執行に対して会社から受け取る対価ですから、その名称、支給方法を問わず実質的に判断することとなります。具体的には報酬、賞与、退職慰労金、さらにはストックオプション、現物給付等も含まれます。


(3) 報酬の開示

 [1]  参考書類

 会社法では、株主総会に出席しない株主が書面によって議決権を行使することができることとした会社および電磁的方法によって議決権を行使することができることとした会社や議決権を有する株主が1,000人以上の会社にあっては、株主総会の招集の通知に際しては、議決権の行使について参考となるべき事項として「株主総会参考書類」を交付しなければなりません(会301、302、298マル数字2)。

 会社法施行規則においては、取締役の報酬に関する議案がある場合、報酬額算定の基準または改定の理由を参考書類に記載しなければならないとされています(会規82マル数字1)。また、取締役の報酬に関する議案が、取締役の報酬総額をもって定めるものであるときは、取締役の員数も記載する必要があります。そして、取締役の退職慰労金に関する議案が一定の基準に従い、退職慰労金の額を決定することを取締役に一任するものであるときは、その基準の内容をも記載しなければならないとされています(会規82マル数字2)。なお、公開会社であり、かつ、取締役の一部が社外取締役であるときは、社外取締役に関するものは区別して記載しなければなりません。


7 社外取締役

(1) 社外取締役の定義

 取締役会の監視機能強化のため、平成13年度の商法改正で社外取締役の制度が新設されました。社外取締役とは、株式会社の取締役であって、当該株式会社またはその子会社の業務執行取締役もしくは執行役または支配人その他の使用人でなく、かつ、過去に当該株式会社またはその子会社の業務執行取締役もしくは執行役または支配人その他の使用人となったことがないものをいいます(会2xv)。社外取締役である旨については原則として登記事項にはならず、特別取締役による議決の定めがある場合、委員会設置会社である場合、社外取締役に関する責任限定契約の締結についての定款の定めがある場合にのみ、登記をする必要があります(会911マル数字3)。


(2) 社外取締役の責任

 近時は低いコストで株主代表訴訟を起こしやすくなったため、取締役の責任が重くなり、社外取締役への就任を固辞する人が多くなってきました。そのような弊害をなくすため、平成13年度の旧商法改正において取締役の責任が軽減されました。株主総会の特別決議または定款の規定に基づく取締役会の決議があれば、社外取締役については、責任の上限が報酬の2年分となりました。ただし、故意または重大な過失による場合を除きます(会425マル数字1)。


8 執行役員

 従来、代表取締役の下に業務執行取締役が配置され、その取締役が取締役会の一員として代表取締役の職務を監督するという自己矛盾があり、また、取締役の数が多いため自由に意見交換ができず、取締役会が形骸化しているなどの弊害がありました。そこで、意思決定と業務執行との分離、取締役会の実効性の強化・迅速化などを図るため、執行役員制度を設ける会社が増加してきています。

 なお、執行役員は商法上の取締役ではないため、登記の必要がなく、また、代表訴訟の対象になりません。執行役員と会社との関係は雇用関係である場合が大部分と考えられますが、場合によっては委任契約の場合もあるとされています。

 

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