目次 Q3


Question
 見落としがちな相続人
 相続人を確定させる際に気をつけるべき点(見落としがちな相続人)について教えてください。

Answer 相続人を確定させる際には、次のような点に注意する必要があります。


 (1)過去の戸籍に遡って子の有無を確認すること
 (2)代襲相続人の範囲を間違えないこと
 (3)両親の戸籍も確認すること


(1)子の有無について

 基本的なことですが、相続人を確定させる際には、被相続人の死亡時から出生時(15歳くらい)まで遡って戸籍謄本等を調査して、子の有無を確認することが必要です。

 例えば、被相続人が過去に離婚している場合は、当然、元配偶者には相続権はありませんが、元配偶者との子がいる可能性があります。離婚時に親権が相手方に指定され、その後、長年連絡を取り合っていないような子の場合であっても、血縁関係がなくなるわけではありませんので、その子は依然として相続人になります。これは逆に、子の立場からすれば、両親が離婚して、片方の親とは音信不通であったとしても、その親が亡くなった場合には、相続人となることを意味します。

 また、過去の戸籍をたどれば、被相続人が婚外子を認知(民779)していることが判明する場合もあります。現在の戸籍は項目ごとに整理されて記載されていますので、認知の記載について見落としは少ないと思われますが、過去の戸籍は文書形式で記載されており、特に古いものは手書きで記載されていますので、認知の記載を見落とさないように注意する必要があります。


(2)代襲相続人の範囲について

 子が被相続人よりも先に亡くなっている場合は、孫以下が代襲相続人となります。実子の場合は誤りが少ないと思われますが、養子の場合は注意が必要です。

 すなわち、養子については、養子縁組の日から、養親の嫡出子としての身分を取得することになりますので(民809)、養子縁組後に生まれた養子の子は、孫と同じように取り扱われ、代襲相続人となる資格があります。これに対して、養子縁組前に生まれていた養子の子は、言わば連れ子と同様であり、孫と同じようには取り扱われず、代襲相続人となる資格がないことになります。

 また、兄弟姉妹が被相続人よりも先に亡くなっている場合は、その子ら(甥・姪)が代襲相続人となります。そこで、代襲相続人を見落とさないように、兄弟姉妹の戸籍も調査する必要があります。なお、甥や姪が亡くなっている場合には、それ以上代襲相続は発生しません。

 以上に共通して、相続放棄の場合には代襲相続は発生しませんので、注意が必要です。


(3)両親の戸籍について

 兄弟姉妹が法定相続人になる場合は、半血の兄弟姉妹がいる可能性もありますので、被相続人の両親の戸籍も調査する必要があります。その上で、代襲相続の有無について確認するために、兄弟姉妹の戸籍を調査することになります。

 特に兄弟姉妹が多数いる場合には、相続関係が相当複雑となり、代襲相続人を見落としやすいといえますので、慎重に相続関係図を作成する必要があります。


 ワンポイント 税務

〜相続人調査と相続税申告〜

 税理士が相続税申告のために司法書士に相続人調査を依頼したところ、その司法書士が代襲相続人の範囲を間違えてしまい、本来は代襲相続人とはならない者(養子縁組前に生まれていた養子の子)を相続人に加えて基礎控除額を計算して申告したことで、その後に加算税及び延滞税に相当する損害が発生した事例があります(名古屋地判平成17年12月21日・判タ1221号299頁)。

 この事例では、直接の責任は相続人調査を実施した司法書士にあるものの、結局、それを見落として相続税申告をした税理士にも損害賠償責任が認められています。

 したがって、相続税申告をする際には、他の専門家に相続人調査を依頼した場合であったとしても、それに誤りがないかを確認しておく必要があるといえます。

 

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