目次 Q4


 2 相続の承認と放棄

Question
 相続放棄の留意点
 債務を承継したくない場合、相続争いに関わりたくない場合など、相続放棄について検討するに当たり、どのような点に留意する必要がありますか。

Answer 相続放棄の手続は、相続開始を知ってから3か月間の熟慮期間内にする必要があります。もっとも、3か月では必要な調査が間に合わない場合もありますので、家庭裁判所に熟慮期間の伸長を申し立てることもできます。ただし、熟慮期間内であっても、遺産の一部でも処分した場合は単純承認したものとみなされ、もはや相続放棄をすることができなくなりますので、注意が必要です。


(1)相続放棄の意義

 相続では、一切の権利義務が包括的に承継されますので、積極財産のみならず、債務などの消極財産も承継されることになります。そこで、被相続人が多額の負債を抱えていた場合など、相続人が相続を望まないことがあります。また、そうでなくても、相続争いに関わりたくないといった理由で、相続人が相続を望まない場合もあります。

 このような場合、相続人は、家庭裁判所に申述することで、相続放棄をすることができます(民938)。相続放棄をした場合は、相続開始時に遡って相続人でなかったことになりますので(民939)、債務を承継することもなく、遺産の管理を引き継いだ後は、それ以上相続の手続に関与することもなくなります。


(2)熟慮期間

 相続の承認又は放棄については、相続開始を知ってから3か月の期間内にする必要があり(民915丸数字1本文)、その期間内に限定承認又は放棄をしなければ単純承認したものとみなされます(民921二)。これを熟慮期間といいます。

 したがって、相続人は、3か月の熟慮期間内に必要な調査をした上で、相続放棄をするかどうかを判断する必要があります。もっとも、遺産の調査に時間がかかる場合など、3か月では判断できない事情がある場合には、家庭裁判所に熟慮期間の伸長を申し立てることができます(民915丸数字1但書)。

 実務上は、他の相続人が遺産の管理をしていて債務の詳細な状況が分からない場合などには、とりあえず伸長の手続をしておくということが考えられます。


(3)法定単純承認

 熟慮期間内であっても、遺産の一部でも処分してしまった場合には、単純承認したものとみなされ、もはや相続放棄や限定承認をすることができないことになります(民921一本文)。これを法定単純承認といいます。

 処分に当たるのは、物件の売却、毀棄、費消などが典型ですが、単なる管理行為は処分には含まれないとされています(民921一但書)。


(4)相続放棄後の手続

 相続放棄をした相続人が遺産の管理をしていた場合は、他の相続人に管理を引き継ぐ必要があります。また、債務超過を理由に相続放棄をする場合は、後順位の相続人についても相続放棄を検討する必要があります。相続放棄によって新たに相続人となった者については、相続放棄の事実を知ってから熟慮期間が進行することになります。

 なお、相続人が全員相続放棄して相続人がいなくなった場合は、被相続人の遺産は相続財産法人として清算されることになり、最終的に残余財産があれば国庫に帰属することになります(民951以下)。


 ワンポイント 税務

〜熟慮期間の伸長と申告期限〜

 熟慮期間の伸長は無制限に認められるものではありませんが、事情によっては相続税の申告期限である10か月を超えて伸長が認められる場合もあり得ます。この場合、熟慮期間が伸長されたとしても、申告期限が延長されるわけではありません。

 もちろん、最終的に相続放棄をすれば、遡って相続人でなかったことになりますので、無申告の状態であっても特段の問題は生じませんが、結局相続を承認した場合には、期限後申告が必要となり、無申告加算税及び延滞税が課されることになります。そこで、熟慮期間が伸長されている間に申告期限が到来した場合には、法定相続分に応じた申告をしておくことも検討する必要があるといえます。

 なお、これに対して、相続開始後4か月を申告期限とする準確定申告については、相続人自身の納税義務を確定させる行為ではなく、遺産に含まれる被相続人の納税義務を確定させる行為であり、処分行為に当たるとして単純承認したものとみなされる可能性がありますので、注意が必要です。

 

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