目次 1.1


1 宗教法人にかかる税金の基礎知識


1 宗教法人はさまざまな税金について納税義務を負う

ポイント
 宗教法人は、国の税金については法律の範囲内で、一方、地方税については条例の範囲内で、納税の義務を果たすように求められます。各種の国税を定める税法や、各種の地方税を具体的に定める各自治体の税条例においては、宗教法人を「原則非課税」にしています。したがって宗教法人は、これら税法や税条例で定められた範囲内で例外的に納税の義務を負うように求められることになります。


◎宗教法人の納税義務

 憲法は、「国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ」(憲法30)と定めています。この規定は、納税の義務はむしろ国民としての当然のものであるとしても、その義務は法律の定めるところによらなければならないものとし、租税法律主義の原則を明らかにしたものです。すなわち、国民は法律の定めによらなければ納税の義務を負うことはないとし、納税義務の限界を示したものです。

 かつて憲法にいう「国民」とは、国家の構成員を指し、その国の国籍をもつ“自然人(個人)”を意味しました。したがって、憲法に定める国民の権利・義務の規定を“法人(団体)”に適用することには消極的な見解が有力でした。しかし今日では、憲法に定める規定を法人に適用することについて、より積極的な見解が支配的になってきています。また、司法府も、「憲法第3章に定める国民の権利および義務の各条項は、性質上可能な限り、内国の法人にも適用されるものと解すべきである」(最(大)判昭45.6.24・民集24巻6号25頁)と、積極的な見解を採っています。

 かくして法人(団体)も、普遍的な国民の納税義務のもとで個人と同様に、国税については法律の範囲内で、一方、地方税については条例の範囲内で、納税の義務を果たすように求められるものと解されます。

 ただ、宗教法人を含む「非営利」「非分配」の公益法人は、そもそも持分主(株主)がおらず、本来的に利益配当を目的としていません。したがって、利益配当を本来の目的とする株式会社のような営利法人課税の理論にストレートになじまないところがあります。また、宗教法人などの公益法人は、保有する非収益事業用実物資産については商業的な利用収益はなく、しかも、課税客体を市場価額で測定することにもなじみにくいところがあります。とりわけ宗教法人は、「世俗的側面」ないし「俗」の面と、「宗教的側面」ないし「聖」の面を持ちあわせた法人です。憲法が保障する政教分離原則(憲法20)のもと、宗教法人の「宗教的側面」・「聖」の面に対する課税権の行使は抑制されなければなりません。

 こうしたことから、各種の国税を定める税法や、各種の地方税を具体的に定める各自治体の税条例においては、宗教法人を「原則非課税」にしています。したがって、宗教法人は、非課税とされない収益事業についてのみ、これら税法や税条例で定められた範囲内で例外的に納税の義務を負うに過ぎないことになります。


◎国税・地方税の一覧

 宗教法人には多くの種類の税金が関係してきます。わが国においては、実に多様な税金が設けられています。これらの税金の中には、宗教法人に関係してくるものと、そうでないものがあるのは当然です。

 税金は、宗教法人との関係の有無についてはさておいて、さまざまな角度から区分することができます。まず課税主体が誰か(国か地方自治体か)という視点からすると、大きく「国税」と「地方税」とに区別できます。また、地方自治体が課す地方税は、さらに「道府県税」と「市町村税」とに分けることができます。

 これら各種の国税や地方税は、税収の使い途が特定されていない「普通税」と、特定されている「目的税」という観点や、税金を納める人(納税義務者)と税金を負担する人が同じくなる「直接税」と、そうでない「間接税」という観点からも分類することができます。また、課税ベースの違いに着目して「所得課税」、「資産課税」および「消費課税」と分けることができます。

 こうした分類方法を織り込んで、国税・地方税の税目を一覧にして図説すると次のとおりです。

●国税・地方税の税目一覧
  国 税 地方税
道府県税 市町村税







法人税
所得税
地方法人特別税
道府県民税(個人均等割・法人均等割・所得割・法人税割・利子割・株式等譲渡所得割)
事業税(個人・法人)
市町村民税(個人均等割・法人均等割・所得割・法人税割)



相続税
贈与税
地価税
不動産取得税
固定資産税(特例分)
固定資産税
特別土地保有税



  自動車税
鉱区税
狩猟者登録税
軽自動車税
鉱産税





一般消費税〜消費税
個別消費税
酒税 たばこ税
たばこ特別税
航空機燃料税 揮発油税
石油石炭税 石油ガス税
とん税 自動車重量税
特別とん税 関税
地方揮発油税
地方消費税

道府県たばこ税
ゴルフ場利用税
軽油引取税


市町村たばこ税



登録免許税
印紙税
   







  水利地益税
狩猟税
事業所税 都市計画税
水利地益税 宅地開発税
共同施設税





電源開発促進税   入湯税
〔注記〕法定外税は除きます。また、目的税には、税法以外で使途を定める特定財源を含めません。資産課税には、資産の権利移転に課す流通税〔不動産取得税、印紙税、自動車取得税、登録免許税〕を含みます。石村耕治編『現代税法入門塾〔第6版〕』(清文社、2012年)19頁から引用。


◎課税ベースからみた宗教法人への課税除外取扱いの概要

 課税ベースは大きく「所得」、「消費」および「資産」に分けられます。それぞれの課税ベースに着眼し、宗教法人に関連する各種租税を挙げて課税除外取扱いを点検してみると次のとおりです。

(1)宗教法人と所得課税

 所得課税の面から、宗教法人に関連する国税としては法人税と所得税があります。まず法人税において、宗教法人は公益法人等の一つとして税務収益事業(現在34業種)を行っている場合を除き非課税となっています(法税法4丸数字1、7、別表第二)。また、収益事業については普通法人よりも低い法人税率で課税されています(法税法66丸数字3など)。さらに所得税においては、宗教法人が受け取る利子や配当は非課税となっています(所税法11丸数字1、別表第一)。

 一方、所得課税の面からの宗教法人に関連する地方税としては、道府県民税、市町村民税および事業税があります。これらの税金についても宗教法人は、税務収益事業を行っている場合を除き非課税となっています(地税法25、296、72の5)。

(2)宗教法人と消費課税

 消費課税の面から、宗教法人に関連する主な国税としては消費税があります。宗教法人の場合、宗教活動に伴う収入は、通常、消費税の対象とはなりません。これは、こうした収入は、宗教活動に対する対価ではないことから、消費税の課税対象となる対価にはあたらないためです。

 一方、宗教法人の法人税法上の税務収益事業にあたるものに係る収入は、原則として消費税の対象となります。ただ、消費税については、土地の譲渡収入や地代などは非課税、公益事業である博物館・美術館などへの入場料は課税といったように、法人税とは課否判定が異なるケースが多々あります。さらに、1年間の課税売上高が1,000万円以下の場合には、原則として消費税の納税義務が免除されます(消税法9)。

 また、国税である関税においても、宗教法人が宗教活動に使用する物品の一部については免税とされます(関定法15丸数字1四)。これは、政教分離原則のもと、宗教法人の「聖」の面に対する課税権の行使が抑制されるためです。

(3)宗教法人と資産課税

 資産課税の面から、宗教法人に関連する主な税金としては、国税である登録免許税、地方税である不動産取得税、固定資産税および都市計画税があります。宗教法人が所有または取得した実物資産のうち境内建物および境内地については、それがもっぱら本来の宗教活動の用に供するものである限り、これらの税金は非課税とされます(登税法4丸数字2、別表第三、地税法73の4丸数字1二、348丸数字2、702の2丸数字2)。

(石村耕治)

 

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