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3 賃貸中の消費税対策

 消費税の納付税額は、平成26年中であれば、通常は次のように計算します。

(1)平成26年1月1日から3月31日まで

(a)消費税
 課税売上高(税抜き)×4%※1−課税仕入高(税込み)×

105
 ※2

(b)地方消費税
 消費税の納付税額×

 ※3


(2)平成26年4月1日から12月31日まで

(a)消費税
 課税売上高(税抜き)×6.3%※1−課税仕入高(税込み)× 6.3

108
 ※2

(b)地方消費税
 消費税の納付税額× 1.7

6.3
 ※3

 なお、上記※1※2※3は課税売上げ及び課税仕入れの時期によりそれぞれ下記表のとおりとなります。

  〜平成26年3月31日 平成26年4月1日
〜平成27年9月30日
平成27年10月1日〜
※1 4% 6.3% 7.8%
※2 4/105 6.3/108 7.8/110
※3 1/4 1.7/6.3 2.2/7.8

 しかし、当課税期間の基準期間における課税売上高が5,000万円以下で、「消費税簡易課税制度選択届出書()」を事前に提出している事業者は、実際の課税仕入れ等の税額を計算することなく、課税売上高から仕入控除税額の計算を行うことができる簡易課税制度の適用を受けることができます。

 この制度は、仕入控除税額を課税売上高に対する税額の一定割合とするというものです。この一定割合をみなし仕入率といい、売上げを卸売業、小売業、製造業等、サービス業等及びその他の事業の5つに区分し、それぞれの区分ごとのみなし仕入率を適用します。


(1)簡易課税制度による申告が概ね有利

 簡易課税制度を適用した場合、消費税の納付税額は次のように計算します。

 消費税の納付税額=A−B
  A:課税売上高(税抜き)×5%若しくは8%
  B:A×みなし仕入率(※)
    ※事業区分ごとの「みなし仕入率」
     ・第一種事業(卸売業)     90%
     ・第二種事業(小売業)     80%
     ・第三種事業(製造業等)    70%
     ・第四種事業(その他の事業)  60%
     ・第五種事業(サービス業等)  50% ← 不動産賃貸業・管理業

 不動産賃貸業・管理業は簡易課税制度の第5種事業に該当し、店舗・事務所・倉庫・駐車場等の貸付けや管理料収入が主な課税売上げ(住宅用家屋の貸付けや土地の貸付けは非課税売上げ)です。固定資産税等の租税公課・借入金の利子など消費税の課税対象外又は非課税扱いの支出が多いため、建物の建築や大規模修繕等を行う一定の課税期間を除き、課税仕入れ率が「みなし仕入率(50%)」より低くなるケースが一般的であるため、簡易課税制度を選択した場合には、殆どの事業者においてこの乖離に伴う恩恵(消費税の節税効果)を受ける事ができるものと考えられます。一般課税による納税額と簡易課税制度による納税額とを試算した上で、選択を検討すると良いでしょう。

   「消費税簡易課税制度選択届出書」は、簡易課税制度を選択しようとする場合に提出する届出書です。簡易課税制度の適用を受けようとする課税期間の初日の前日まで(事業を開始した日の属する課税期間である場合には、その課税期間中)に納税地の所轄税務署長に提出します。ただし、調整対象固定資産を購入した場合には、この届出書を提出できない場合があります。
(注)  簡易課税制度を選択した場合でも、基準期間の課税売上高が5,000万円を超える課税期間については、簡易課税制度を適用することはできません。


(2)簡易課税制度の選択は、将来の課税仕入れ等も踏まえて検討

 上記(1)では簡易課税制度による申告が概ね有利としていますが、建物の建築・購入・大規模修繕など多額の課税仕入れ等の発生が見込まれる課税期間については注意が必要です。簡易課税制度を選択している事業者は、実際の課税仕入れ等の税額を計算することなく、仕入控除税額を課税売上高に対する消費税額の一定割合(みなし仕入率)で計算します。一般課税であれば消費税の還付を受けることができる場合でもあっても、簡易課税制度では消費税の還付を受けられず、逆の納税になる可能性もあります。

  「消費税簡易課税制度選択届出書」又は「消費税簡易課税制度選択不適用届出書()」の提出は、設備投資計画や事業計画なども踏まえて検討する必要があります。

   「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」は、簡易課税制度の選択をやめようとする場合に提出する届出書です。簡易課税制度の適用をやめようとする課税期間の初日の前日までに納税地の所轄税務署長に提出します。
 ただし、消費税簡易課税制度の適用を受けた日の属する課税期間の初日から2年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ、この届出書を提出することはできませんので注意が必要です。


【設例】簡易課税制度による申告の有利不利判定

 個人事業主甲は平成26年7月に現在テナントビルとして賃貸している建物の大規模修繕を予定しており、以前より消費税の課税事業者であり簡易課税制度の適用を受けています。

 この場合において、甲は簡易課税を継続した方が有利かどうかどうかについて比較検討してみました。

 <甲の収入・支出状況>
 収入:店舗家賃収入月額250万円(別途消費税)
 支出:経費(課税仕入)月額40万円(別途消費税)
    :修繕費用2,000万円(別途消費税160万円)

(a)一般課税による税額計算
A:課税売上高(税抜き)×5% 若しくは8%
  月額250万円×3か月×5%=37.5万円
  月額250万円×9か月×8%=180万円
  合計 37.5万円+180万円=217.5万円
B:課税仕入高(税込み)×5/105若しくは8/108
  月額40万円×3か月×1.05×5/105=6万円
  (月額40万円×9か月×1.08+2,160万円)×8/108=188.8万円
  合計 6万円+188.8万円=194.8万円
C:消費税の納付税額
  A−B=22.7万円

(b)簡易課税制度による税額計算
A:課税売上高(税抜き)×5%若しくは8%
  月額250万円×3か月×5%=37.5万円
  月額250万円×9か月×8%=180万円
  合計 37.5万円+180万円=217.5万円
B:A×みなし仕入率
  217.5万円×50%=108.75万円
C:消費税の納付税額
  A−B=108.75万円

 この設例では、簡易課税制度により申告するよりも一般課税により申告する方が納税額が少なくなることが予想されます。

 このような場合は、大規模修繕を行う課税期間開始の日の前日(設例の場合には、平成25年12月31日)までに「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」の提出を行う必要があります。

 

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