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4 不動産売却時の消費税対策 |
(1)「事業として」行う取引が課税の対象 国内において「事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡等」が課税の対象となります。また、その性質上事業に付随して対価を得て行われる資産の譲渡等も含まれます。 したがって、消費者の立場で行う自宅の売却は課税の対象となりませんが、国内に所在する賃貸用・店舗用の建物の売却などは事業者が事業として行う取引ですので課税の対象になります。 ただし、土地(土地の上に存する権利(※)を含む)の譲渡は、非課税取引とされています。消費に負担を求める税としての性格から課税の対象としてなじまないためです。
(2)免税事業者に該当する課税期間に売却 不動産の売却はその対価が多額になることが多く、消費税の負担への影響も大きくなります。建物の売却を予定している場合には、検討時期においてその法人が免税事業者に該当するか否かをまず確認する必要があります。免税事業者に該当する場合には、その対価の大小にかかわらず、売却に係る消費税の負担(下記(4)に記載の影響を除く)は生じません。一方、課税事業者に該当する場合には、相当な額の消費税の負担が生じることが予想されます。 「免税事業者に該当する課税期間はないか?」 「免税事業者である課税期間に、建物の売却時期を調整できないか?」 などについて事前に十分検討することが重要です。 (3)課税事業者に該当する場合は、簡易課税制度を利用 上記の(2)の検討にかかわらず、「免税事業者になる課税期間がない」、「免税事業者になる課税期間はあるが、売却時期が調整できない」などの事情により、課税事業者に該当する課税期間に売却をせざるを得ないこともあります。この場合、売却に係る消費税の負担が生じることとなりますが、一般課税又は簡易課税制度のいずれの計算方法により消費税額を計算しているかによって消費税の負担額も大きく変わります。
(a)一般課税による税額計算 A:課税売上高(税抜き)×5%若しくは8% 月額120万円×3か月×5%=18万円 (月額120万円×9か月+6,000万円)×8%=566.4万円 合計 18万円+566.4万円=584.4万円 B:課税仕入高(税込み)×5/105若しくは8/108 月額80万円×3か月×1.05×5/105=12万円 月額80万円×9か月×1.08×8/108=57.6万円 合計 12万円+57.6万円=69.6万円 ※課税売上げ割合95%以上のため全額控除 C:消費税の納付税額 A−B=514.8万円 (b)簡易課税制度による税額計算 A:課税売上高(税抜き)×5%若しくは8% 月額120万円×3か月×5%=18万円 (月額120万円×9か月+6,000万円)×8%=566.4万円 合計 18万円+566.4万円=584.4万円 うち、第4種事業(建物売却)に係る消費税額:480万円 うち、第5種事業(賃貸業)に係る消費税額 :104.4万円
480万円×60%+104.4万円×50%=340.2万円 C:消費税の納付税額 A−B=244.2万円 いずれの計算方式でも、課税売上高に係る消費税額は同じですが、控除税額は大きく異なります。建物の売却により一時的に多額の課税売上高が生じますが、その課税期間の実際の課税仕入高はこれに比例しません。そのため、実際の課税仕入高に基づく一般課税による計算では控除税額もあまり大きくなりません。他方、簡易課税制度では、実際の課税仕入高は一切考慮せず、建物の売却に係る消費税額の6割(第4種事業のみなし仕入率:60%)を控除税額とします。 その結果、上記の設例のように、簡易課税制度により消費税額を計算した方が有利となるのです。 簡易課税制度を選択するには、一定の場合を除き、その選択をしようとする課税期間の初日の前日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を納税地の所轄税務署長に提出しなければなりません。なお、売却日の属する年(法人の場合は、事業年度)の初日の前日までに、その届出書を提出できなかった場合でも、課税期間の特例の活用により簡易課税制度を選択できる可能性もあります。 (4)翌年・翌々年の判定へ影響 建物の売却による課税売上高の増加は、売却日の属する課税期間の消費税負担のみならず、翌年以降の消費税にも影響をおよぼします。 ≪翌々年の判定へ影響≫ 基準期間(前々年)の課税売上高が1,000万円を超える場合には、当課税期間は課税事業者となります。さらに、基準期間の課税売上高が5,000万円を超える場合には、消費税簡易課税制度選択届出書を提出している場合であっても、当課税期間については(※)簡易課税制度を適用することはできません。 つまり、建物の売却により基準期間の課税売上高が顕著に増加すれば、その個人事業者の翌々年における、課税事業者の判定や簡易課税制度の適用の可否にも影響をおよぼすことになります。
≪翌年の判定へ影響≫ 平成25年1月1日以後に開始する年については、特定期間(その年の前年の1月1日から6月30日までの期間をいいます。)の課税売上高が1,000万円を超えた場合にも、課税事業者となります。なお、課税売上高に代えて、給与等支払額の合計額により判定することもできます。 つまり、個人事業者が1月1日から6月30日までの期間に建物を売却し、その6か月間の課税売上高が1,000万円を超えた場合には、基準期間の課税売上高が1,000万円以下であっても、翌年から課税事業者とされます。ただし、その6か月間の給与等支払額が1,000万円を超えていなければ免税事業者と判定することができます。 給与等支払額の状況によっては、特定期間を避け、7月以降の建物の売却を検討する必要があります。 ≪建物の売却時期の検討≫ 事業用の建物を譲渡した場合、その譲渡売上げは消費税の課税売上げとなります。 この、建物の譲渡時期の違いにより消費税の納税額に大きな影響を及ぼすこととなりますので、ご注意ください。
(1)同じ年(平成26年)に2棟とも売却した場合 平成26年に建物Aと建物Bを譲渡した場合は、平成28年は基準期間における課税売上高が1,000万円を超えることなり、消費税の課税事業者となり、かつ、簡易課税の適用は受けられないため、消費税の納税額は下記のとおりとなります。 (a)平成26年及び平成27年 建物A及び建物Bの売却に係る消費税については、平成26年は消費税の免税事業者に該当するため、納付する必要はありません。 また、平成27年についても、仮に建物の売却が平成26年の上半期であったとしても、給与支給総額が1,000万円以下であるため、消費税の免税事業者に該当することとなります。 (b)平成28年 A:課税売上高(税抜き)×10% 900万円×10%=90万円 B:課税仕入高(税込み)×10/110 0円 C:消費税の納付税額 A−B=90万円 (c)平成26年〜平成28年合計 (a)+(b)=90万円 このパターンは、建物の売却に係る消費税の納税は生じないため、消費税の納付としては平成28年のみで済むこととなります。 (2)平成26年に建物Aを売却し、平成28年に建物Bを売却した場合 平成26年に建物Aを売却したことに伴い、平成28年は基準期間における課税売上高が1,000万円を超えるため、消費税の課税事業者に該当することとなります。 その状況で、建物Bを売却した場合には建物Bの譲渡に係る消費税の納税を行う必要があり、さらに、基準期間である平成26年における課税売上高が5,000万円を超えているため、簡易課税を適用することもできないということとなります。 また、平成30年についても平成28年に建物Bを売却しているため、一般課税による消費税の申告及び納付義務が生じます。 その結果、消費税の納税額は下記のとおりとなります。 (a)平成26年及び平成27年 建物Aの売却に係る消費税については、平成26年は消費税の免税事業者に該当するため、納付する必要はありません。 また、平成27年についても、仮に建物の売却が平成26年の上半期であったとしても、給与支給総額が1,000万円以下であるため、消費税の免税事業者に該当することとなります。 (b)平成28年 A:課税売上高(税抜き)×10% (10,000万円+900万円)×10%=1,090万円 B:課税仕入高(税込み)×10/110 0円 C:消費税の納付税額 A−B=1,090万円 (c)平成30年 A:課税売上高(税抜き)×10% 900万円×10%=90万円 B:課税仕入高(税込み)×10/110 0円 C:消費税の納付税額 A−B=90万円 (d)合計 (a)+(b)+(c)=1,180万円 このように、建物を2棟売却するという取引を行うにあたり、時期をいつにするかにより消費税の納税額が大きく異なることとなりますので、売却時期の検討は慎重に行う必要があります。 |