目次 第3章−第1節


第1節 課税売上割合の計算

 課税売上割合とは、その課税期間中に国内において行った資産の譲渡等の対価の額の合計額からその対価の返還等の金額の合計額を控除した残額のうちに、その課税期間中に国内において行った課税資産の譲渡等の対価の額の合計額からその対価の返還等の金額の合計額を控除した残額が占める割合をいいます(消令48丸数字1)。

 課税売上割合は、課税資産の譲渡等の対価の額に含まれる消費税額及び地方消費税額を除いて計算します(消令48丸数字1)。

 対価の返還等の金額も、税抜きにして売上高から控除します。ただし、その対価の返還等に係る課税資産の譲渡等を行った課税期間において免税事業者であった場合には、税抜処理はしません。

課税売上割合

その課税期間中に国内において行った課税資産の譲渡等の対価の額の合計額(税抜き) その課税期間中に国内において行った課税資産の譲渡等に係る対価の返還等の金額の合計額(税抜き)
その課税期間中に国内において行った資産の譲渡等の対価の額の合計額(税抜き) その課税期間中に国内において行った資産の譲渡等に係る対価の返還等の金額の合計額(税抜き)

税抜き課税売上高 免税売上高
(税抜き対価の返還等の金額を控除)
税抜き課税売上高 免税売上高 非課税売上高
(税抜き対価の返還等の金額を控除)


(1)課税売上割合の計算単位
Question課税資産を販売する部門と非課税資産を販売する部門とがある場合、その部門ごとに課税売上割合を算出して、控除対象仕入税額の計算に用いることはできますか。
Answerその課税期間の課税売上割合は、1人の個人事業者、一の法人ごとに計算します(消法30丸数字6)。
 部門ごとに事業内容が異なっており、それぞれ課税資産又は非課税資産を取り扱う場合には、部門ごとに課税売上割合を算出して控除対象仕入税額を計算した方が合理的と考えられるかもしれません。しかし、そのような場合であっても、事業所や支店、事業部門等の単位で課税売上割合を計算することはできません。
 また、個人事業者においては、物品販売業を行う傍ら、不動産賃貸業を行っているなど、所得税において異なる所得区分となる事業を行っている例はよくありますが、その場合でも、これらの所得区分にかかわらず、すべての売上高の総額により、その個人事業者のその課税期間の課税売上割合を計算します。
 なお、個別対応方式による場合において、部門ごとに算出した割合の方が課税売上割合よりも合理的であるときは、その合理的な割合を課税売上割合に準ずる割合として税務署長の承認を受け、控除対象仕入税額の計算に用いることができます(消法30丸数字3)。


(2)非課税又は免税の対価の返還等
Question課税売上割合の計算上、非課税売上げや免税売上げについても、対価の返還等の金額を控除するのですか。
Answer課税売上割合の計算上、対価の返還等を控除するのは、値引きや割戻しを考慮した正味の売上高による計算を行うためです。したがって、課税売上高、免税売上高又は非課税売上高について、対価の返還等がある場合には、課税売上割合の計算上、これを控除します(消令48丸数字1)。


(3)課税売上げの対価の返還等
Question課税売上げに係る対価の返還等については、税抜きの金額を売上高から控除するのですか。
Answer課税売上げについて対価の返還等があった場合には、課税売上割合の計算上、これを税抜きにして課税売上高から控除します。しかし、課税売上げを行った課税期間において免税事業者であった場合には、その課税売上げについて課税されていないためその売上高に消費税等の額は含まれていないことになります。したがって、税抜処理をせず、その対価の返還等をした金額の全額を「資産の譲渡等の対価の額」及び「課税資産の譲渡等の対価の額」から控除します(消基通11−5−2)。
課税売上割合の計算上控除する売上対価の返還等の金額
課税資産の譲渡等を行った課税期間に課税事業者であった場合
…税抜処理をして控除する
課税資産の譲渡等を行った課税期間に免税事業者であった場合
…税抜処理をしないで控除する
 なお、免税事業者であった課税期間において行った課税売上げについては、課税事業者となった後に売上対価の返還等を行っても、売上対価の返還等に係る税額控除の規定は適用されません。


(4)売上割引
Question売上割引は、支払利息に相当するものと認識していますが、課税売上割合の計算に影響しますか。
Answer売掛金がその支払期日前に決済されたことにより得意先に支払う売上割引は、会計上は、利子に準ずる性格があることから営業外費用に計上することとされています。
 しかし、消費税法において、利息に係る非課税取引は「利子を対価とする金銭の貸付け」と定義されており、買掛金等の金銭債務を有する側に非課税売上げとしての利息の受入れが発生するという考え方はなじみません。したがって、売上割引は売上対価の返還等とされ(消基通6−3−4、14−1−4)、課税売上割合の計算上も、課税売上げに係る売上割引は税抜処理を行ったうえ(免税事業者であった課税期間の売上げに係るものは税抜処理しない)で分母及び分子の金額から控除し、非課税売上げに係る売上割引は分母の金額から控除することとされています。


(5)売掛金の支払免除
Question得意先の業績が低迷していることから、長年の取引に対する感謝の意を表し、業績回復を支援する目的で、売掛金の一部につき、その支払を免除しました。この免除は、売上対価の返還等として、課税売上割合の計算から控除することになりますか。
Answer売上対価の返還等は、「国内において行った課税資産の譲渡等につき、返品を受け、又は値引き若しくは割戻しをしたことにより、当該課税資産の譲渡等の税込価額の全部若しくは一部の返還又は当該課税資産の譲渡等の税込価額に係る売掛金その他の債権の額の全部若しくは一部の減額」とされています(消法38丸数字1)。
 また、課税資産の譲渡等に係る債権について更生計画認可の決定により債権の切捨てがあったこと等の事実が生じたため回収不能となったときには、貸倒れの税額控除の適用があるものとされています(消法39丸数字1)。
 ご質問の売掛金の支払免除は、商品についての値引きや割戻しではなく、また、貸倒れの事実も生じておらず、得意先に対する寄附に相当するものと考えられます。したがって、これらの税額控除の規定は適用されません。
 また、売上対価の返還等ではないため、課税売上割合の計算にあたっては、その免除した金額を課税売上高から控除する必要はありません。
 なお、法人税においては、法人が、災害を受けた得意先等の取引先に対してその復旧を支援することを目的として災害発生後相当の期間内に債権の全部又は一部を免除した場合には、その免除したことによる損失の額は、寄附金の額に該当しないものとされています(法基通9−4−6の2)
 これを受け、消費税においても、このような債権の免除については、売上対価の返還等があったものとして処理することが認められるものと考えられます。この場合には、課税売上割合の計算上、その免除した金額を控除します。
 国税庁は、「災害に関する法人税、消費税及び源泉所得税の取扱いFAQ」として次のようなQ&Aを公表しています。
「災害に関する法人税、消費税及び源泉所得税の取扱いFAQ」
【売掛債権の免除】
[Q32] 被災した取引先に対して、その取引先が復旧過程にある期間内に復旧支援を目的として売掛金等の債権の全部又は一部を免除した場合、消費税法上はどのように取り扱われますか。
[A] 消費税の課税取引に係る売掛金等の債権の額の全部又は一部の減額により、売上げに係る対価の返還等を行った場合は、その返還等をした対価に含まれる消費税額を課税標準額に対する消費税額から控除することとされています(消法38丸数字1)。
 したがって、法人が被災した取引先に対して、その取引先が復旧過程にある期間内に復旧支援を目的として売掛金等の債権(課税取引に係る債権に限ります。)の全部又は一部を免除した場合で、その売掛金の免除による損失の額が法人税法上の寄附金及び交際費等以外の費用とされるものについては、当該費用として処理した売掛債権に係る消費税額を、その処理した課税期間の課税標準額に対する消費税額から控除することができます。
(注)  金銭の貸付けは不課税取引ですので、その貸付金の全部又は一部の返済を免除した場合は消費税の課税関係は生じません。


(6)貸倒れと貸倒回収
Question課税売上げについて貸倒れが生じた場合又はその貸倒金額の回収を行った場合には、課税売上割合に影響しますか。
Answer課税売上げにつき貸倒れが生じた場合には、売上対価の返還等があった場合と同様に、貸倒れの税額控除の規定により、納付すべき消費税額から控除することとされています(消法39丸数字1)。
 しかし、課税売上割合の計算においては、売上対価の返還等とは違って、貸倒れの金額は、売上高から控除しません。
 また、貸倒れの税額控除の適用を受けた後に、その債権を回収した場合には、その回収した金額に係る消費税額は、控除過大調整税額として納付することとなりますが、この場合も、課税売上割合の計算には影響しません。


(7)多額の対価の返還等が生じた場合
Question前課税期間に販売した商品の瑕疵が発見され、当課税期間の売上高を超える多額の対価の返還等を行いました。課税売上割合の計算はどうなりますか。
Answer課税売上割合の計算に用いる金額は、対価の返還等の金額を控除した「残額」と規定されているため(消令48丸数字1)、対価の返還等の金額の合計額がその課税期間の資産の譲渡等の対価の額の合計額を超える場合には、売上高を0として課税売 上割合を計算することになります。
 ところで、課税売上割合は、一般に、分子を課税資産の譲渡等の対価の額、分母を資産の譲渡等の対価の額とする分数式で説明されますが、法令の規定ぶりは、「除する」という割り算ではなく、「占める割合」とされており(消法30丸数字6、消令48丸数字1)、この分数式は割り算ではありません。したがって、売上げが発生しない場合、又は対価の返還等の金額が売上高を上回ったことにより売上高が0となった場合であっても、「0で割ってはいけない」といった数学的な問題を考える必要はありません。
 売上高がないということは、上記の分数式に当てはめると、分子又は分母が0ということになります。この場合の課税売上割合を考えてみましょう。
 分子が0ということは、「課税資産の譲渡等の対価の額がない」ということなので、資産の譲渡等の対価の額の合計額のうちに、課税資産の譲渡等の対価の額の合計額の「占める割合」は、0%ということになります。
 分母が0で、分子に数値があるということは、課税資産の譲渡等及び非課税資産の譲渡等の対価の額の合計額を超える非課税資産の譲渡等に係る対価の返還等がある場合が想定されます。
 たとえば、次のような場合です。
課税売上高    100
非課税売上高  200
非課税値引き額 300
→ 資産の譲渡等の対価の額   (分母) 100+200−300=0
→ 課税資産の譲渡等の対価の額(分子) 100
 そうすると、この課税期間においては、全体の売上高がなく、課税売上げだけが生じている、という少し奇妙な感じになります。しかし、非課税売上高はないわけですから、100という課税売上高が全体に「占める割合」は、100%ということになります。


(8)課税売上割合の端数処理
Question課税売上割合の端数処理は四捨五入ですか。
Answer前問のとおり、課税売上割合は割り算ではないため、割り切れない場合の端数処理をどうするかという考え方はなじみません。
 ただし、便宜上、割り算として計算し、任意の位以下の数値を切り捨てることは認められています(消基通11−5−6)。
 しかし、四捨五入や切上げは認められません。

 

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