目次 第3章−第2節


第2節 計算の基礎となる取引

 課税売上割合の計算は、国内において行った資産の譲渡等の対価の額を基礎とします。

 資産の譲渡等とは、「事業として対価を得て行う資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供」をいいます(消法2丸数字1八)。すなわち、取引の相手方に資産を譲渡するなど何らかの給付をし、その見返りとして対価を受け取る行為が資産の譲渡等です。

 国内において行った資産の譲渡等は、課否判定としては、課税・免税・非課税のいずれかとなるものです。

 資産の譲渡等以外の取引から生じる収入を、一般に不課税収入といい、たとえば、保険金収入、損害賠償金収入、寄附金収入などがこれにあたります。

 これらは、課税標準額の計算の基礎とならない点では非課税と同じ取扱いとなりますが、課税売上割合の計算にあたっては、非課税資産の譲渡等の対価の額と厳格に区分する必要があります。


 国内において行った資産の譲渡等は、課税売上割合を正確に算定するため、課税売上高、免税売上高、非課税売上高のそれぞれの金額を正確に集計する必要があります。これらの区分について、よく見られる誤りに、次のようなものがあります。

(1)  銀行預金の受取利息、使用人に対する貸付金の利息を非課税売上げに計上していない。
(2)  受取配当金を非課税売上げに計上している。
(3)  雑収入に計上された売上げが内容にかかわらず不課税とされている。
(4)  課税仕入れとするべき費用を課税売上げから控除している。
(5)  仕入対価の返還等とするべき仕入先メーカーからの販売促進費の受取を非課税売上げとしている。
(6)  輸出証明等の保存がないのに免税売上げとしている。
(7)  輸出業者からの下請け業務であり自己が輸出していないのに免税売上げとしている。
(8)  株券等の譲渡について、その譲渡対価の5%相当額ではなく譲渡利益の金額を非課税売上げとしている。
(9)  土地の譲渡について、その譲渡対価の額ではなく譲渡利益の金額を非課税売上げとしている。
(10)  社宅の家賃収入を非課税売上げに計上していない。



1 資産の譲渡等


 「資産の譲渡等」の範囲を明らかにすることは、「資産の譲渡等」以外の取引から生じる収入、すなわち、課税売上割合の計算に算入していけない金額を明らかにすることです。

 資産の譲渡等とは、「事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供」をいいます(消法2丸数字1八)。

 法人はその種類を問わず事業者となり(消法2丸数字1四)、法人が行う取引は営利を目的として行ったかどうかにかかわらず、そのすべてが事業として行った取引となります(消基通5−1−1(注2))。

 したがって、事業性の判断は、個人が行う取引に限った論点となり、法人については、資産の譲渡等に該当するかどうかの判定は、「対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供」であるかどうかを見ることになります。


(1)資産とは

 資産とは、取引の対象となる一切の資産をいい、棚卸資産又は固定資産のような有形資産のほか、権利その他の無形資産が含まれます(消基通5−1−3)。

 すなわち、資産とは、売買や貸付けが可能なすべての財産です。


(2)譲渡とは

 譲渡とは、有償、無償を問わず、資産の同一性を保持しつつ、その所有権が他に移転することをいいます(消基通5−2−1)。したがって、資産の販売や売却のほか、資産の交換や贈与、現物出資等も譲渡の一形態と位置づけられています。

資産の譲渡 対価の額
売買取引 一般的な資産の譲渡 売買代金




収用 国や地方公共団体が土地等を強制的に取得 対価補償金の額
代物弁済 借入金を返済する代わりに商品等を引き渡す 借入金の額
負担付贈与 残ローンを返済する条件で車などを贈与 残ローンの額
現物出資 金銭以外(土地や建物、有価証券等)による出資 受け取る株式の時価
交換 物と物とを交換 受け入れた資産の時価

 また、資産の譲渡はその原因を問いません。たとえば、他の者の債務の保証を履行するために行う資産の譲渡や強制換価手続により換価された場合であっても、自己の保有する資産を他に移転した場合は、資産の譲渡に該当することになります(消基通5−2−2)。


(3)貸付けとは

 資産の貸付けとは、資産を他者に貸し付けたり使用させたりすることであり、資産に係る権利の設定その他他の者に資産を使用させる一切の行為が含まれます(消法2丸数字2、消令1丸数字3)。

 「資産に係る権利の設定」とは、たとえば、土地に係る地上権若しくは地役権、特許権等の工業所有権に係る実施権若しくは使用権又は著作物に係る出版権の設定をいいます(消基通5−4−1)。

 また、「資産を使用させる一切の行為」とは、たとえば、次のものをいいます(消基通5−4−2)。

 (1)  特許権等の工業所有権並びにこれらの権利に係る出願権及び実施権(工業所有権等)の使用、提供又は伝授
 (2)  著作物の複製、上演、放送、展示、上映、翻訳、編曲、脚色、映画化その他著作物を利用させる行為
 (3)  工業所有権等の目的になっていないが、生産その他業務に関し繰り返し使用し得るまでに形成された創作(特別の原料、処方、機械、器具、工程によるなど独自の考案又は方法についての方式、これに準ずる秘けつ、秘伝その他特別に技術的価値を有する知識及び意匠等をいう。)の使用、提供又は伝授


(4)役務の提供とは

 役務の提供とは、土木工事、修繕、運送、保管、印刷、広告、仲介、興行、宿泊、飲食、技術援助、情報の提供、便益、出演、著述その他のサ−ビスを提供することをいい、弁護士、公認会計士、税理士、作家、スポ−ツ選手、映画監督、棋士等によるその専門的知識、技能等に基づく役務の提供もこれに含まれます(消基通5−5−1)。


(5)対価を得てとは

 「対価を得て」とは、資産の譲渡、貸付け、役務の提供に対して反対給付を受けることをいいます。

 消費税は、事業者の売上げを通して消費者の担税力を測定するものですから、消費する側の拠出のあるもの、すなわち対価の支払を受けるものであることが、課税の要件となります。

 金銭以外の物その他の経済的利益を受け入れた場合も、対価を得て行う取引となります。

 消費税は、資産の譲渡、貸付け、役務の提供とその反対給付である対価とが交換される取引を課税の対象としています。



2 資産の譲渡等の対価の額


(1)対価の額

 資産の譲渡等の対価の額は、「対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額であり、課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税額及び当該消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額に相当する額を含まないもの」とされています。

 したがって、譲渡等をした資産等の時価にかかわりなく、当事者間で授受することとした金銭の額であり、金銭以外の物や権利を取得した場合には、その取得した物や権利の取得時の時価となります(消令45丸数字1、消基通10−1−1)。


(2)みなし譲渡の対価の額

 法人が自社の役員に対して資産を贈与した場合、個人事業者が事業用資産を家事のために消費し又は使用した場合には、対価を得て行う資産の譲渡とみなされ、その資産の時価を譲渡の対価として認識します(消法4丸数字4、28丸数字2)。これをみなし譲渡といいます。

 課税資産についてみなし譲渡の対象となる取引を行った場合には、その資産の時価を課税標準額の計算の基礎とすると同時に、課税売上割合の計算において、その資産の時価(税抜処理後)を課税売上高に算入します。

 みなし譲渡に係る資産が非課税資産である場合には、課税売上割合の計算において、その資産の時価が非課税売上高に算入されます(消法28丸数字1丸数字2)。

 なお、みなし譲渡をした資産が棚卸資産である場合には、その棚卸資産の販売価額の50%相当額又は課税仕入れ等の金額に相当する金額のいずれか大きい金額を売上高とすることができます(消基通10−1−18)。


(3)低額譲渡の対価の額

 低額譲渡とは、法人が自社の役員に対し、資産を時価の50%未満の金額で譲渡することをいいます(消基通10−1−2)。法人が自社の役員とする取引が低額譲渡に該当する場合には、その譲渡の現実の対価の額ではなく、その低額譲渡を行った資産の時価を売上高として、課税標準額又は課税売上割合を計算します。

 なお、棚卸資産については、販売価額の50%以上の金額であっても、その金額がその棚卸資産の課税仕入れ等の金額に満たない場合には、低額譲渡となります。



3 内外判定


 消費税は、資産の譲渡等を国内取引と国外取引とに区分します。

 課税売上割合は、国内において行った資産の譲渡等の対価の額を基礎に算定します。

 その資産の譲渡等が、国内において行われたものであるかどうかは、資産の種類ごと、役務の提供ごとに定められています。そして、いずれによってもその判断が困難である場合には、資産の譲渡等を行う者、すなわち売り手側の所在地を最終的な判断の基準としています。

 なお、輸出は、輸出の許可を受けて国内から国外へ貨物を送り出すことをいい、輸出の許可を受ける時には貨物は国内に所在することから、国内取引の一形態と認識されます。


(1)資産の譲渡又は貸付けの内外判定

 資産の譲渡又は資産の貸付けについては、その譲渡又は貸付けを行った時にその資産が所在していた場所により、内外判定を行います(消法4丸数字3一)。

譲渡又は貸付けの時に資産が所在していた場所 国内……国内取引
国外……国外取引

 不動産以外の資産は、その所在場所が移転するため、譲渡又は貸付けの時はいつか、ということがポイントになります。

(1)譲渡の場合

 譲渡については、原則として、その資産を引き渡した時が譲渡の時となることから、譲渡資産を引き渡した場所で判断します。

 譲渡をする者、譲渡を受ける者がともに国内の事業者であっても、国外に所在する資産の譲渡をした場合には、国外取引となります(消基通5−7−10)。

 また、事業者が国外において購入した資産を国内に搬入することなく他へ譲渡した場合には、その経理処理の如何を問わず、国外取引となります(消基通5−7−1)。

(2)貸付けの場合

 資産の貸付けについても、貸付資産を引き渡した場所で判断します。貸し付けた資産の所在場所が引渡しの後に移動した場合においても、その判定は変わりません。ただし、契約において貸付資産の使用場所が定められている場合にはその定めにより、また、契約に定めた使用場所を合意変更した場合にはその変更の前後に分けて契約内容により、判断します(消基通5−7−12)。

(3)特殊な資産の譲渡又は貸付け

 次の資産については、その譲渡又は貸付けの時における資産の所在場所を明確に判断することが困難である等の理由から、それぞれ、個別にその判定場所が定められています(消令6丸数字1、消基通5−7−2〜9、5−7−11)。

資産の種類 判定場所
船舶 登録する船舶 登録機関の所在地
(譲渡者が非居住者である日本船舶の譲渡等一定の場合には国外取引)
登録のない船舶 譲渡又は貸付けに係る事務所等の所在地
航空機 登録する航空機 登録機関の所在地
登録のない航空機 譲渡又は貸付けに係る事務所等の所在地
鉱業権 鉱業権に係る鉱区の所在地
租鉱権 租鉱権に係る租鉱区の所在地
採石権その他土石を採掘、採取する権利 採石権等に係る採石場の所在地
特許権、実用新案権、意匠権、商標権、回路配置利用権、育成者権(これらの権利を利用する権利を含む。) これらの権利の登録をした機関の所在地(同一の権利について複数の国において登録をしている場合には、譲渡又は貸付けを行う者の住所地)
著作権(出版権及び著作隣接権その他これに準ずる権利を含む。)、特別の技術による生産方式(いわゆるノウハウ)及びこれに準ずるもの 譲渡又は貸付けを行う者の住所地
法令や行政指導による登録等に基づく営業権、漁業権、入漁権 権利に係る事業を行う者の住所地
金融商品取引法第2条第1項に規定する有価証券(ゴルフ場利用株式等を除く。) 有価証券が所在していた場所
登録国債 登録国債の登録をした機関の所在地
合名会社、合資会社、合同会社の社員の持分、協同組合等の組合員又は会員の持分その他法人の出資者の持分 当該持分に係る法人の本店又は主たる事務所の所在地
貸付金、預金、売掛金その他の金銭債権(ゴルフ場利用の預託金銭債権を除く。) 金銭債権に係る債権者の譲渡に係る事務所等の所在地
ゴルフ場利用株式等、ゴルフ場利用の預託金銭債権 ゴルフ場その他の施設の所在地
船荷証券 その証券に表示されている荷揚地
上記以外の資産でその所在していた場所が明らかでないもの 譲渡又は貸付けを行う者の譲渡又は貸付けに係る事務所等の所在地
住所地とは、住所又は本店若しくは主たる事務所の所在地をいいます(消令6丸数字1一)。


(2)役務の提供の内外判定

(1)原則

 役務の提供については、その役務の提供を行った場所により、内外判定を行います(消法4丸数字3二)。

役務の提供を行った場所 国内……国内取引
国外……国外取引

(2)特殊な役務の提供

 その役務の提供が、次に該当する場合には、それぞれ次に掲げる場所により判定します(消令6丸数字2)。

役務の提供の種類 判定場所
国際輸送 旅客の出発地又は到着地、貨物の発送地又は到着地
国際通信 発信地又は受信地
国際郵便 差出地又は配達地
保険 保険事業を営む者(代理店を除く。)の保険の契約の締結に係る事務所等の所在地
情報の提供 情報の提供を行う者の情報の提供に係る事務所等の所在地
設計 設計を行う者の設計に係る事務所等の所在地
専門的な科学技術に関する知識を必要とする調査、企画、立案、助言、監督又は検査に係る役務の提供で生産設備等の建設又は製造に関するもの 建設等に必要な資材の大部分が調達される場所
上記以外で国内及び国外の地域にわたって行われる役務の提供その他の役務の提供が行われた場所が明らかでないもの 役務の提供を行う者の役務の提供に係る事務所等の所在地


(3)利子を対価とする金銭の貸付け

 金銭の貸付けや預金又は貯金の預入れ等は、その貸付け等を行う者のその貸付け等に係る事務所等の所在地が国内にあるかどうかにより判定を行います(消令6丸数字3)。


(1)資産の譲渡等の対価以外の収入の具体例
Question資産の譲渡等以外の収入には、たとえばどのようなものがありますか。
Answer課税売上割合の計算は、国内において行った資産の譲渡等の対価の額を計算の基礎とします。したがって、資産の譲渡等以外の取引から生じた収入は、課税売上割合の計算には影響しません。
 資産の譲渡等以外の取引から生じた収入とは、資産の譲渡、貸付け、役務の提供を行わない場合に受ける収入であり、たとえば次のようなものがあります。
資産の譲渡等以外の収入の例
保険金又は共済金 保険事故の発生に伴い受けるもの(消基通5−2−4)
損害賠償金 心身又は資産につき加えられた損害の発生に伴い受けるもの(ただし、その実質が資産の譲渡等の対価に該当すると認められるものを除く)(消基通5−2−5)
容器等の保証金等 容器等込みで資産を引き渡す際に収受し、空の容器等を返却したときは返還することとされている保証金等(消基通5−2−6)
建物等の賃貸借契約の解除に伴う立退料 建物等の賃借人が契約の解除に伴い賃貸人から賃貸借の権利が消滅することに対する補償、営業上の損失又は移転等に要する実費補償などに伴い授受されるもの(消基通5−2−7)
剰余金の配当、利益の配当、剰余金の分配 株主又は出資者たる地位に基づき、出資に対する配当又は分配として受けるもの(消基通5−2−8)
自己株式の取得と処分 資本等取引である(証券市場での買入れを除く。)(消基通5−2−9)
収用に係る補償金のうち対価補償金以外のもの その補償金の収受により権利者の権利が消滅した場合、その権利を取得する者から支払われるものではない(消基通5−2−10)
自社使用等 自己の広告宣伝又は試験研究等のためにする商品、原材料等の資産の消費又は使用(消基通5−2−12)
資産の廃棄、盗難、滅失 棚卸資産又は棚卸資産以外の資産の事業用資産の廃棄、盗難又は滅失(消基通5−2−13)
寄附金、祝金、見舞金等 寄附金等として受領した金銭が実質的に資産の譲渡等の対価を構成すべきものと認められるときを除く(消基通5−2−14)
補助金、奨励金、助成金等 国又は地方公共団体等から受ける特定の政策目的の実現を図るための給付金(消基通5−2−15)
下請先に対する原材料等の支給 無償支給及び外注先等に対する原材料等の有償支給のうちその支給に係る原材料等を自己の資産として管理するもの(消基通5−2−16)


(2)「サービス付き高齢者向け住宅整備事業補助金」等
Question「サービス付き高齢者向け住宅整備事業補助金」「住宅エコポイント」は、課税売上割合の計算上、どのように取り扱いますか。
Answerサービス付き高齢者向け住宅整備事業は、高齢者世帯や要介護者等の増加に対応し、高齢者が安心して生活することができる住まいと住環境を整備することにより、その居住の安定確保を図ることを目的とする事業です。「サービス付き高齢者向け住宅」として国土交通省が定める要件に該当し、登録をした事業については、その住宅の建築費又は改修費の一部を補助する「サービス付き高齢者向け住宅整備事業補助金」が交付されます。この補助金は、法人税の所得の金額の計算上、原則として益金の額に算入されますが、圧縮記帳の対象となり、課税の繰延べを行うことができます(エコカー補助金も同様の取扱いとなります。)。
 他方、住宅エコポイント制度とは、地球温暖化対策の推進及び経済の活性化を図ることを目的として、エコ住宅を新築した者やエコリフォームをした者に対して一定のエコポイントを発行し、エコポイト1ポイントあたり1円に換算して、商品券や様々な商品と交換したり、追加工事の費用に充当したりすることができる制度です。住宅エコポイントは、国庫補助金等には該当しないので、法人税の所得の金額の計算において益金の額に算入され、圧縮記帳の対象となりません。
 このように、法人税においては、「サービス付き高齢者向け住宅整備事業補助金」と「住宅エコポイント」とはその取扱いが異なりますが、消費税においては、いずれも課税対象外の収入であり、課税関係は生じません。したがって、課税売上割合の計算上、補助金、エコポイントに相当する額を売上高に算入することはありません。また、圧縮記帳に係る圧縮損の計上も、課税対象外となります。
(住宅エコポイントが発行される工事の着工、着手の期限は平成23年7月31日で終了しています。この制度に代えて復興住宅エコポイント制度が創設されています。)


(3)収用に係る補償金
Question土地を収用された場合の対価補償金、建物に係る移転補償金等の額は、課税売上割合を計算する売上高に算入しますか。
Answer「資産の譲渡」とは、資産につきその同一性を保持しつつ他人に移転することをいい、単に資産が消滅したという場合はこれに含まれないものと解されています。
 土地収用法等に基づく資産の収用は、原権利者の資産の所有権その他の権利はいったん消滅し、起業者(収用をする者)がその権利を原始取得するものと解されます。したがって、その資産につきその同一性を保持しつつ他人に移転することとみることはできず、収用は、本来、「資産の譲渡」には当たらないということになります。しかし、起業者がその権利を取得し、その資産をそのまま使用するという実態に着目すれば、実質的には資産の譲渡と変わらないことから、消費税法施行令第2条第2項は、原権利者が収用の目的となった資産の所有権その他の権利を取得する者から、その収用によって消滅する権利の対価として対価補償金を取得した場合には、「対価を得て資産の譲渡」を行ったものとして取り扱うことを定めています。
 したがって、土地を収用されその対価として補償金を受け取る行為は課税の対象となり、その対価補償金の額が非課税売上高となります。
 土地の収用にあたって、その土地の上にある建物の移転を要請され、その建物の移転に係る移転補償金が支払われることがあります。この移転補償金を受け取り、実際には建物を移転せず取り壊した場合、収用される側にとっては、資産がなくなって補償金を受け取ったわけですから、その建物に係る移転補償金は土地の収用に係る対価補償金と何ら変わるものではありません。しかし、建物に係る移転補償金は、収用によって権利が消滅したことの対価ではありません。建物は、所有者において取り壊され、収用されることはなかったわけですから、消費税法施行令第2条第2項に定める「資産の譲渡」にあたらず、課税の対象となりません(消基通5−2−10)
 したがって、建物に係る移転補償金は不課税の収入とし、土地に係る対価補償金は非課税売上げとしてその課税期間の課税売上割合の計算に算入することになります。
課税の対象とならない補償金
(1)  事業について減少することとなる収益又は生ずることとなる損失の補てんに充てるものとして交付を受ける補償金
(2)  休廃業等により生ずる事業上の費用の補てん又は収用等による譲渡の目的となった資産以外の資産について実現した損失の補てんに充てるものとして交付を受ける補償金
(3)  資産の移転に要する費用の補てんに充てるものとして交付を受ける補償金
(4)  その他対価補償金たる実質を有しない補償金
(注)  公有水面埋立法の規定に基づき公有水面の埋立てによる漁業権又は入漁権の消滅若しくはこれらの価値の減少に伴う補償金は、補償金を支払う者はこれらの権利を取得せず、資産の移転がないことから、資産の譲渡等の対価に該当しない。
 なお、法人税においては、建物の移転補償金であっても、その建物を取り壊したときは、その移転補償金をその建物の対価補償金とみなす取扱いがあります(措置法通達64(2)−8)が、これは、所得の金額の計算にあたり、法所定の特例の適用範囲を定めるものであって、そのことが消費税の課税対象の範囲を定める規定の解釈に影響することはありません(札幌地裁平成17年11月24日判決)。


(4)商品を引き取らせた場合の損害賠償金
Question事故により損害を受けた商品を引き取らせて受け取った損害賠償金は、不課税の収入としてよろしいですか。
Answer損害賠償金が不課税の収入となるかどうかは、その内容を確認して判断することとなります。
 たとえば、損害を受けた商品(課税資産)を引き取らせた上で損害賠償金を受け取った場合において、その商品がそのまま又は軽微な修理で使用できるものであるときは、損害賠償の名目であっても、実質的には資産の譲渡等を行ったものとなり、受領した損害賠償金は、課税資産の譲渡等の対価となります(消基通5−2−5)
 したがって、その損害賠償金の額は課税標準額の計算の基礎となり、課税売上割合の計算においても、課税資産の譲渡等の対価の額に算入することとなります。
 なお、引き取らせた商品が、そのまま又は軽微な修理で使用できるものではなく、廃棄されるべきものである場合には、その商品の引取りは損害賠償の一環として廃棄物の処理をさせるものであるため、その損害賠償金は対価性のない収入となります。
 また、商品を引き取らせることなく損害賠償金を受領した場合には、資産の譲渡がありませんから、商品の損傷の程度にかかわらず、対価性のない収入となります。


(5)特許権の無断使用による損害賠償金
Question当社は、日本で登録した特許権を有していますが、これを国内の企業に無断で使用され、裁判を経て、その無断使用による遺失利益を補てんする損害賠償金を受け取りました。
 この損害賠償金は、国内における資産の譲渡等の対価となりますか。
Answer日本のみで登録された特許権は、その譲渡又は貸付けは国内で行われたものとなります。この判定に、その取引の当事者の本店がどこにあるかは関係ありません。
 ところで、約束していた資産の譲渡や貸付けが行われなかった場合には、その取引の消滅に伴う遺失利益を賠償するため、損害賠償金が支払われるものと思われます。これは、資産の譲渡や貸付けが行われなかったことを原因として授受するものであることから、資産の譲渡等の対価ではありません。ただし、損害賠償金という名目であっても、資産の譲渡や貸付けの事実に基づくものである場合には、資産の譲渡等の対価となります。
 貴社は、有する特許権を無断使用され、その無断使用によって失われた利益を補てんするものとして、損害賠償金を受け取っています。そうすると、自ら望んだわけではありませんが、結果として、特許権を他者に使用させ、その使用料に見合う金銭を受け取ったことになります。
 したがって、その損害賠償金が実質的に特許権の使用料と考えられる場合には、資産の譲渡等の対価となります。

 

目次