目次 II-5


5 厚生年金基金制度から確定拠出年金制度への移行


Question
 当社は厚生年金基金制度を採用しています。このたび、確定拠出年金制度への移行を検討しています。移行に当たっての留意点を説明してください。



Answer

(1) 企業型年金への移行

 厚生年金基金は、加算部分と代行部分により構成されています。代行部分は国の厚生年金の代行部分ですから、他の退職年金制度への移行はできません。移行の対象となるのは加算部分のみとなります。

(1) 過去期間分を含めて加算部分の一部を移行する場合

 厚生年金基金は、規約の改訂により、年金給付等積立金の一部を、確定拠出年金法の企業型年金(以下、「企業型年金」といいます。)の個人別管理資産に充てる場合には、当該積立金を当該企業型年金の資産管理機関に移換することができます。(厚生年金保険法144の3(1)、厚生年金基金令41の4)

 移換のための規約を定める場合には、当該企業型年金を実施する設立事業所の事業主の全部及び加入員のうち、当該年金給付等積立金の移換に係る加入員(以下、「移換加入員」といいます。)となるべき者の2分の1以上の同意並びに加入員のうち移換加入員となるべき者以外の者の2分の1以上の同意を得なければなりません。(厚生年金保険法144の3(2))

 さらに、移換する場合に、企業型年金が実施される設立事業所が2以上であるときは、移換加入員となるべき者の同意は、各設立事業所について2分の1以上の同意を得る必要があります。(厚生年金保険法144の3(4))

 なお、厚生年金基金は、プラスアルファ部分(加算部分+基本部分の厚み上乗せ部分)の給付水準が代行部分の1.3倍以上あることを要件とするため、加算部分のすべてを給付減額することはできません。(「厚生年金基金設立認可基準3(7)」厚生省年金局通知)

(2) 厚生年金基金を解散して移行する場合

 厚生年金基金の解散は、代議員会の決議あるいは基金の事業の継続の不能を理由として、厚生労働大臣の認可により認められます。(厚生年金保険法145) この場合、解散認可時において、基金の積立金の額が最低責任準備金を下らないことが必要です。解散した場合、代行部分は、厚生年金基金連合会(平成16年10月1日以降は「企業年金連合会」と改称されます。)が最低責任準備金の納付を受けて代行年金の支給義務を基金から引き継ぎます。プラスアルファ部分は解散により年金給付がなくなります。解散基金の残余財産は、解散基金加入員に分配されますが、この分配金を厚生年金基金連合会に交付することにより代行加算年金として年金を受け取ることができます。また、プラスアルアファ部分を企業型年金に移行するために、残余財産を企業型年金の資産管理機関に移換することができます。(厚生年金保険法144の3(4)、厚生年金基金令41の5)

 ところで、厚生年金基金制度では、税制適格退職年金から厚生年金基金制度に移行する場合に認められた閉鎖型適格退職年金制度のように、過去期間分のみを対象とする制度が認められていないので、厚生年金基金制度の加算部分の将来期間部分のみを確定拠出年金制度に移行する場合には、結果的に厚生年金基金を解散することになります。

 なお、平成16年度の年金制度改正で、積立金が最低責任準備金を下回る基金でも、不足金の分割納付により解散を認める特例措置が創設されました。分割納付期間は、原則として5年以内で、やむを得ない理由がある場合は10年以内となります。この特例措置は、平成17年4月1日から起算して3年以内に限り申請できます。(国民年金法等の一部を改正する法律33、34)


(2) 年金資産の移換

 移換限度額は、(1)移換元の制度で規定する移換可能額と、(2)移換先の企業型年金で規定する移換限度額とのいずれか低い方の金額となります。

(1) 移換元の制度で規定する移換可能額

 厚生年金基金制度から企業型年金へ年金資産を移換する場合、積立不足がない状態であること、すなわちフルファンディングであることが必要です。積立不足がある場合は、規約変更による給付水準の減額、又は一括拠出あるいは両者の組合せによる積立不足解消が必要になります(厚生年金基金令41の6)。

 移換は、加入員の年金給付又は一時金を減額することにより、当該加入員の個人別管理資産に充当することになります(厚生年金基金令41の4(1))。この場合の移換可能額は、(イ)減額を行う前後の最低積立基準額の差額と(同(4))、(ロ)規約変更日における年金資産(移換加入者に係る移換相当額の合計額を除きます。)の額から、最低積立基準額かあるいは数理債務のいずれか高い額を控除した額(同(6))のいずれか低い方の金額となります。最低積立基準額とは、その時点で基金を解散したと仮定した場合の積立基準額、すなわち非継続基準の積立基準額です。数理債務とは、給付原価から標準掛金収入現価を控除した金額です。

(2) 企業型年金で規定する移換限度額

 企業型年金での移換限度額は、各従業員について、1人当たりの拠出限度額に従事期間に基づく拠出可能期間を乗じて計算した金額に所定の計算による利回り額を加えた金額となります。

 なお、移換先である企業型年金の移換限度額は、平成16年度の年金制度改正で移換限度額が撤廃されました。(平成16年10月1日施行)ただし、上記(1)の移換元の制度で規定する移換可能額の規定は、改正されずに存続します。(国民年金法等の一部を改正する法律38、確拠年金法54(1))


(3) 総合型厚生年金基金又は連合型厚生年金基金からの移行

 総合型厚生年金基金又は連合型厚生年金基金に加入している一部の設立事業所が、その資産の一部を企業型年金に移行することは、基金に積立不足がない場合に可能です。通常、このような基金は、積立不足の状態にありますから、脱退時に不足金を充足する必要があり、他の加入事業所に負担がかかります。したがって、このような基金からの移行は、実務上困難です。通常は、脱退負担金を伴う脱退を行った後、新規に確定拠出年金制度を導入するということになります。

 

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