目次 I-25


25 将来分支給義務免除の認可時点で、退職給付債務が減少する理由



 退職給付会計では、発生主義により退職給付債務を認識すると聞いています。厚生年金基金制度の代行返上処理において、将来分支給義務免除があった場合、通常、退職給付債務が減少しますが、どうしてですか。



Answer

(1) 退職給付債務の減少

 退職給付債務の計算は、通常、期間定額基準で計算され、退職時の退職金支給予想額を予想在職期間にわたって毎期一定額を配分し、割引現価価値により各会計年度に勤務費用として配分します。各会計年度に配分された勤務費用は、利息費用により年々利息が付加され、退職時には、退職金支給予想額と同額が累積されます。

 退職給付債務の計算は、ある時点における各従業員の入社時点から測定時点までの勤務費用と利息費用の合計額をすべての従業員について計算し、その合計額が企業の退職給付債務となります。

 将来分支給義務免除により、個人の過去勤務に係る部分として当該基金から支給される退職給付額は、その時点で固定されます。その固定された退職給付額がその個人の予想在職期間にわたって、各期間に期間定額基準により按分されます。この結果、将来分支給義務免除により、各在職期間に配分される勤務費用の額が将来分支給義務免除前より減少する結果となります。

 将来分支給義務免除の時点の退職給付債務は、その時点以前の勤務費用と利息費用の累積額ですから、結果的に将来分支給義務免除により退職給付債務が減少することになります。したがって、平均在職期間が長期の企業ほど、減少額は大きくなります。

 この場合、将来分支給義務免除以降にも過去分に係る勤務費用が配分されることになりますが、将来分支給義務免除から過去分返還の日まで、長期にはならないため、特に問題はないと考えられます。


(2) 代行返上における将来分支給義務免除とはなにか

 厚生年金は、総報酬額に所定の掛金率を乗じて厚生年金保険料を算定しています。また、年金給付額の計算は、厚生年金保険料の累積払込額により計算されます。厚生年金の給付額は個人の累積払込額に一定の乗率を掛けて算定されます。

 将来分支給義務免除が認可された時点で、認可時以降の累積払込額に対する厚生年金給付の負担は国の管轄となり、厚生年金基金の負担からはずれます。

 代行返上における将来分支給義務免除とは、給付金の基礎となる累積払込額が基金から国に移るため、将来分支給義務免除の日以前の払込額に対する厚生年金の給付義務は、基金から国へ移ることを意味します。


(3) なぜ、巨額の代行返上益が発生するのか

 収支相等の原則による厚生年金の財政計算と、発生主義による厚生年金基金の退職給付計算とは計算方法が異なるために単純には比較できません。しかし、退職給付債務は市場金利の著しい下落により割引率が下がり、退職給付債務が巨額になっているのは紛れもない事実です。市場金利の下落によって割引率が下がったことにより、退職給付会計上の代行部分の退職給付債務が巨額になり、財政計算上の予定利率が保有資産の長期的期待収益率やリスクとの関係に留意しつつ、掛金負担能力も考慮に入れて決定されるため、比較的安定的な最低責任準備金との差額が生じたことが、代行返上益が巨額になった理由といえます。

 

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