目次 I-22


22 代行返上に係る経過措置の適用


Question
 平成16年3月決算の会社の財務諸表に、代行返上に係る経過措置を適用した旨の注記をみかけました。この代行返上の経過措置とはどのような内容のものですか。



Answer

(1) 代行返上に係る経過措置の背景

 代行返上に係る経過措置とは、将来分返上認可を受けた日をもって、代行部分に係る退職給付債務及び年金資産が消滅したとみなす会計処理です。

 平成13年6月15日に確定給付企業年金法が施行されたことにより、代行部分を国へ返上することが可能になったため、日本公認会計士協会は、平成13年12月10日付けの「退職給付会計に関する実務指針(中間報告)の改正について」(会計制度委員会報告第13号)において、代行部分の返上に係る会計処理方法を公表しました。確定給付企業年金法に基づく代行部分の返上は、その公布日から2年6か月以内の政令で定める日から施行されることとなったため、その間、代行部分の国への返還は認められません。

 会計制度委員会報告第13号に示された原則処理方法では、代行部分の消滅処理時点を過去分の返還日としていますので、政令施行日まで、代行返上という事実を会計上認識することができません。そこで、一定の条件を満たす場合には、過去分の「返還の日」に代えて将来分支給義務免除の日において、代行部分に係る退職給付債務及び年金資産が消滅したとみなして会計処理をする経過措置が設けられたわけです。

 その後、「確定給付企業年金法の一部の施行に伴う関係政令の整備に関する政令等」(平成15年5月30日公布)が施行されたことにより、平成15年9月1日以降は代行部分の国への返還が可能になりました。

 本来ならば、平成15年9月1日以降は経過措置を適用する余地はないのですが、平成15年9月1日を境に経過措置を適用できる企業とできない企業を区分するのは、経過措置適用を予定していた企業に対する影響が大きいため、経過措置の適用を平成16年3月31日まで延期しています。


(2) 代行返上に係る経過措置の会計処理

 代行返上に関する代議員会の議決が行われ、平成16年3月31日までに厚生労働大臣により代行部分に係る将来分返上に関する認可を受けた場合には、代行部分に係る返還相当額(最低責任準備金)に見合う年金資産が十分にあることを条件にして、退職給付債務と年金資産が消滅したものとして、会計処理することができます。

 この場合の留意点は、最低責任準備金に見合う十分な年金資産があるかどうかです。将来分返上に関する認可を受けた時点での最低責任準備金相当額を消滅処理しますので、この消滅処理により年金資産が不足する場合には、消滅処理ができません。また、経過措置適用後において、年金資産が不足する事態が生じた場合は、年金資産の積増しもしくは退職給付引当金の引当てが必要になります。

 特に、加算部分をもたない代行型の厚生年金基金の場合は、注意する必要があります。

 そこで、十分な年金資産とはどの程度かという点ですが、退職給付会計に関する実務指針はこれについて触れられていません。年金資産が時価変動リスクを有する資産で構成されているのであれば、過去の運用実績を考慮して、マイナスの運用実績があった場合でも、過去分返還の日までに、最低責任準備金を上回るほどの残高があることが必要であると考えられます。


(参考)
・会計制度委員会報告第13号「退職給付会計に関する実務指針(中間報告)」(平成15年9月2日最終改正)

 

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