目次 I-1


 I 退職年金制度の移行と会計処理


 1 退職給付制度間の移行等


1 退職給付制度間の移行


Question
 最近、新聞等で退職給付制度改革のニュースをよくみかけます。そのなかで退職給付制度間の移行という言葉がでてきます。その内容について説明してください。



Answer

(1) 退職給付制度間の移行とは

 退職給付制度には、退職金の原資を外部に積み立てる外部拠出型退職給付制度と、引当金により原資を企業内に積み立てる内部積立退職一時金制度があります。外部拠出型退職給付制度としては、広く普及している厚生年金基金制度、税制適格退職年金制度のほか、新しく制定された規約型確定給付企業年金制度、基金型確定給付企業年金制度などがあります。

 また、外部拠出型退職給付制度には、給付額があらかじめ確定している確定給付型退職給付制度と、企業の拠出額があらかじめ確定していて運用結果次第で受給者の将来の受給額が変動する確定拠出型退職給付制度があります。

 確定給付企業年金法(平成13年法律第50号、平成14年4月1日施行)及び確定拠出年金法(平成13年法律第88号、平成13年10月1日施行)の制定により、確定給付型退職給付制度間での移行や、確定給付型退職給付制度から確定拠出型退職給付制度への移行が可能になりました。従業員又は受給者、待期者の将来勤務に係る退職給付債務や過去勤務に係る退職給付債務を、現行の退職給付制度から他の退職給付制度に年金資産とともに移すことを退職給付制度間の移行といいます。


(2) 「退職給付制度間の移行等に関する会計処理」の公表

 上記(1)の実務に対応するために、企業会計基準委員会(ASB)より「退職給付制度間の移行等に関する会計処理」(平成14年1月31日付、企業会計基準適用指針第1号)が公表されました。

 平成12年4月1日以後の開始事業年度から適用された「退職給付に係る会計基準」(平成10年6月16日付、企業会計審議会)は、企業の財政状態に大きな影響を与えました。この基準の適用以後、市場金利の下落による割引率の引下げが退職給付債務の膨張をまねき、結果的に、市場金利変動リスクを企業が負うことになりました。このような背景により、退職給付制度全体の見直しを行う企業が多く出てきています。この見直しの一つの手段として退職給付制度間の移行があります。

 退職給付制度間の移行は、従業員あるいは受給者、待期者の受給権に大きな影響を及ぼしますので、その権利の保護に対する十分な配慮が必要です。また、移行に伴う会計への影響も大きいため、会計面への影響についても慎重な検討が必要です。


(3) 退職給付制度間の移行又は退職給付制度の改訂の会計処理の概要

(1) 確定給付型の退職給付制度を他の確定給付型の退職給付制度に移行した場合

 原則として移行前後の退職給付制度を一体のものとみなし、移行前の退職給付制度は退職給付制度の終了として処理しません。

(2) 確定給付型退職給付制度が終了する場合

 終了の時点で、終了した部分に係る退職給付債務と、その減少分相当額の支払等の額との差額を、損益として認識します。未認識数理計算上の差異の未処理額等の遅延処理項目については、終了した部分に相当する金額を損益に計上します。

(3) 退職給付債務の増額又は減額

 退職給付債務の増額又は減額とは、退職給付制度間の移行又は制度の改訂による退職給付債務の支払等を伴わない増加部分又は減少部分をいい、退職給付会計基準での過去勤務債務に該当します。


(4) 退職給付制度間の移行の会計処理上の重要なポイント

 退職給付制度間の移行の会計処理上の重要なポイントは、次のとおりです。

(1) 移行前の退職給付制度の全部又は一部が終了するのか、又は継続処理を行うのか

(2) 終了の時点、又は測定の時点はいつか

(3) 退職給付債務のうち終了する部分と継続する部分の測定

 

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