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 14 生前贈与か名義預金か(暦年贈与の注意点)

Question 被相続人は、生前に相続税の節税を目的として、継続的に孫に対して贈与税の非課税枠の範囲内で贈与をしていました。ただし、これは被相続人が主体となって孫名義の通帳・印鑑を管理して資金移動を行っています。

 生前贈与が成立し、名義人に帰属するものとなりますか。それとも被相続人に帰属するものとして相続財産(名義財産)に該当しますか。

■双方の主張
課税庁: 生前贈与が行われていても、被相続人が孫名義の預金をなお管理及び運用していたと認められることから贈与が成立していたとはいえず、被相続人に帰属するものである。
納税者: 被相続人が生前に孫へ贈与したものであるから、被相続人に帰属することはない。


Answer 名義性財産が名義人のものであるというためには、生前贈与が有効に成立し、かつ、名義人が預貯金の管理及び運用を自ら行っていることが必要である。

 したがって、祖父母から孫名義の預金へ資金を移動したとしても、管理及び運用が被相続人のままであっては、被相続人に帰属するものとして相続財産に該当する。


【解 説】

 贈与税は、受贈者が、その年の1月1日から12月31日までの間に贈与を受けた財産の価額を合計して計算をすることから、「暦年贈与」と呼ばれている。

 親から子へ、祖父母から孫へなど、主には相続税の節税を目的として毎年継続して贈与が行われるケースがある(そこでは、贈与税の基礎控除*を下回る金額で贈与を行ったり、基礎控除を少し上回る金額であえて贈与税の申告を行ったりするケースがある)。そのような贈与を継続的に行う場合、受贈者名義の預金口座に入金したり、定期預金証書を作成する場合が多いが、これらを贈与者が開設し、管理している場合には贈与とは認められず、名義預金(相続財産)として扱われることとなる。

 名古屋地裁平成2年3月30日判決〔税務訴訟資料第176号450頁〕は、親から子へ贈与された定期預金について、贈与が成立して名義人に帰属するものであるか、被相続人に帰属するものであるかが争われた事例である。

 本件においては、被相続人が子供名義を使って預金の積立てをしていたものの、管理及び運用をしていたのは被相続人であったため、被相続人の財産であって名義人の財産ではないとされている。

▼事例――納税者敗訴
判決:名古屋地裁平成2年3月30日〔税務訴訟資料第176号450頁〕


 本件は、課税庁が、相続人名義となっている預貯金の一部を相続財産と認定して相続税の更正処分を行ったのに対し、相続人が、当該預貯金は名義人固有の財産であるとして更正処分の取消しを求めた事案である。

事案の概要
・本件の被相続人は、昭和58年11月7日に死亡した。
・原告ら4名は、本件相続の共同相続人である。
被相続人は、昭和50年12月27日から同57年12月6日までの間、普通預金から引き出した自らの資金を原告ら名義の定期預金とし、その後、この定期預金は、書替えなどの経過を経た上、相続開始時における原告ら名義の定期預金(以下、「本件定期預金」という)となっている。
被相続人は、本件定期預金の通帳をすべて自宅のタンス内に保管し、自らが銀行印として用いるのと同じ姓の印鑑を用い、そのため、子の婚姻後も、本件定期預金の名義にはいずれも旧姓をそのまま用い、被相続人の自宅所在地を住所として届け出、銀行担当者に対する通帳及び印鑑の交付等も自身が行っていた。
昭和57年8月21日、子供名義の定期預金の一部が解約され、そのうち金400万円が同子供の自宅の新築資金として用いられたが、その払戻手続も、すべて被相続人が行った。

当事者の主張
 納税者は、本件定期預金については、すべて被相続人が、原告らに対する贈与契約の履行として、生前に自己名義の預金口座から振替出金して預け入れる方法ないしは直接現金で入金する方法により積み立てたものであるから、本件定期預金が相続財産に含まれることはないと主張した。
 これに対し課税庁は、本件定期預金は、すべて被相続人の預金からの振替出金等により預け入れられたものであること、財産の管理及び運営をすべて被相続人が行っていたことなどから、相続開始時において被相続人に帰属する財産であると主張した。

判 断
 判決は、被相続人は、相続税の課税を回避するため、原告ら名義を使って本件定期預金の積立てを開始し、贈与税がかからないよう、その非課税限度額内で預金を続けたが、その管理・運営及び払戻しについては、すべて自らの判断で行っていたものであり、一方、原告らはその名義が使用されたほかは本件定期預金の形成・管理・運営又は使用に関与することはなかったのであって、かかる場合、本件定期預金は被相続人の財産であって、原告らの財産ではないと判示している。
 また、東京地裁平成26年4月25日判決〔TAINS・Z888-1854〕も贈与の成否が争われた事例である。
 本件においては、被相続人が、相続税対策として、贈与税の非課税限度額内で親族名義の預入れを行っていたものの、名義人に証書等を交付せず、被相続人が預貯金の管理及び運用を行っていたことから、当該預貯金を贈与したと認めることはできず、被相続人の相続財産に帰属するものとされている。


◆実務上のポイント

 贈与は、諾成契約であるため、口頭でも成立するが、書面によらない場合は、贈与であることを証明することが難しい。

 親や祖父母から、子や孫へ相続対策のために贈与が行われるケースは多いが、被相続人が主体となって預金口座の名義を変更したり、預金口座に金銭を振り込んだりという事実だけでは、贈与があったものとはみなされないところに留意が必要である。

 生前贈与が成立したとするためには、以下の点を確認しておく必要がある。

 (1)  贈与契約書を作成しておく。贈与者と受贈者の間で贈与事実の認識があった証拠を示すことができる。
 (2)  資金移動の証拠を残しておく。通帳間の移動でお金の動きを残しておくことができる。
 (3)  受贈者が通帳・印鑑を管理及び運用しておく。受贈者が自由に資金を使える状態でなければならない。


* 贈与税の基礎控除額は、平成13年改正で110万円となり、改正前は60万円であった。

 

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