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 11 原資が被相続人のものであるか否か(資金源は何か)

Question 相続人名義で預金、投資信託、株式がありますが、その資金源(元手)がどこからでたのかわかりません。これら金融商品の購入日に近い日時に、近い金額で被相続人の預金口座から出金があります。

 この場合、相続人名義の金融商品は、被相続人が購入原資を拠出したものとなりますか。

■双方の主張
課税庁: 同日あるいは近い日時に、同額あるいは近い金額の出金及び購入がある場合には、引き出された金銭を元手に金融商品が購入されたことが推測される。
納税者: 被相続人の預金からの出金の事実と証券会社等における有価証券の購入の事実があっても、当該預金を原資として金融商品が購入されたものとは限らない。


Answer 預貯金等の原資が何かわからない場合、資金の出捐者が誰であるのかを特定することができない場合には、推測で相続財産と認めることはできない。

 ただし、その名義性預金の購入日と同日あるいは近い日時に、同額あるいは近い金額で被相続人の預金口座から出金がある場合には、引き出された金銭を他に使用したことが立証されない限り、その出金により原資が形成されたことが考えられる。


【解 説】

1 「原資が被相続人のものである」とは

 名義預金の帰属の判断は、財産の購入原資の出捐者、その財産の管理及び運用の状況、贈与事実の有無、その財産から生ずる利益の帰属者などを総合考慮して判断するものとされている。

 そのうち、財産の購入原資の出捐者は誰かという点である。

 例えば、2月1日に被相続人の預金口座から100万円の出金があり、同日に相続人名義で100万円の投資信託が購入されている場合、その投資信託の原資は被相続人の資金とみなされるであろうか。

 これが、同日ではなく、3日後であったり、1週間後、半年後であったらどうであろうか。

 そこでは、有価証券の資金源が名義人自身のものであることが証明できれば、原則として、被相続人に帰属する財産となることはない。例えばその預金が、名義人の給与収入や国民年金から構成されている、名義人を受取人とする満期保険金が振り込まれている、名義人が行った土地譲渡にかかる代金が振り込まれているといった場合には資金源が名義人のものであるといえる。

 しかし、何十年も前に作成された定期預金が何をもとに作成されたものであるのか特定することが難しいケースが多い。


2 原資が被相続人のものであるとされた事例

 名義預金の判断においては、資金の出捐者が誰であるのかを特定することができない場合には相続財産に該当すると認めることはできないものと解されている(平成25年12月10日裁決〔TAINS・J93-4-11〕)。

 一方、同日あるいはこれに近接した日時に、同額あるいは近似した金額の出金及び購入の各事実が認められる場合には、引き出された金銭を他に使用したことが立証されない限り、この出金で公社債等を購入したものと推認するのが経験則に照らし相当と解されている(大阪地裁平成2年5月22日判決〔税務訴訟資料第176号873頁〕)。

▼事例――納税者敗訴
判決:大阪地裁平成2年5月22日〔税務訴訟資料第176号873頁〕


 本件は、課税庁が、被相続人の親族名義となっている預貯金等の一部を相続財産と認定して相続税の更正処分を行ったのに対し、相続人が当該預貯金等は名義人固有の財産であるとして更正処分の取消しを求めた事案である。

事案の概要
・被相続人は昭和59年12月23日に死亡した。
・本件において帰属が争われている公社債等の購入の経緯は以下のとおりである。

  購入日付 購入の経緯
昭和57年3月19日 昭和57年3月19日に被相続人名義の甲銀行普通預金口座より393万円を出金し、同日、乙証券において、相続人A及び同B名義で利付国債をそれぞれ196万5,000円購入した。
昭和58年3月14日 上記相続人B名義で購入した利付国債を昭和58年3月11日に売却し、その譲渡代金197万3,960円と現金2万6,040円の合計200万円で、同月14日、乙証券において、相続人B名義で野村国債株式ファンド2を購入した。
昭和58年8月9日 昭和58年6月8日に被相続人名義の甲銀行普通預金口座より200万円を出金し、同日、乙証券において、訴外X名義で中期国債ファンドを購入した。同年7月29日、この中期国債ファンドを売却して、その譲渡代金のうち199万8,000円を乙証券の相続人C名義の口座に入金し、同年8月9日、C名義で山一新公社債株式200口を199万8,000円で購入した。
昭和58年11月2日 昭和58年11月1日に被相続人及び相続人Bの甲銀行普通預金口座よりそれぞれ150万円を出金し、同月2日、乙証券において、相続人D名義で第2回大和公共債株式300口を300万円で購入した。
昭和59年2月9日 昭和59年2月9日に被相続人及び訴外X名義の甲銀行普通預金口座よりそれぞれ100万円を出金し、同日、丙証券において、訴外Y名義で、第2回セレクトニューメディア200口を200万円で購入した。
昭和59年6月8日 昭和59年3月30日に被相続人名義の甲銀行普通預金口座より1,250万円を出金し、そのうち250万円で、同日、乙証券において、相続人E名義で中期国債ファンドを購入した。また、同年5月7日、甲銀行の被相続人名義の普通預金口座より250万円を出金し、同日、乙証券において、相続人F名義で中期国債ファンドを250万円で購入した。
同月6月8日、この中期国債ファンドのうち、相続人F分250万円と、相続人E分211万6,899円を売却し、これに被相続人名義の中期国債ファンドの売却代金250万円を合わせて、合計711万6,899円で、乙証券において、訴外Z名義で日商岩井の株式2万7,000株を購入した。
昭和59年9月7日 昭和59年9月7日に被相続人名義の甲銀行普通預金口座より200万円、同店の相続人B及び同A名義の各普通預金口座よりそれぞれ100万円を出金し、同日、乙証券において、中期国債ファンドを相続人G名義で280万円、相続人A名義で120万円をそれぞれ購入した。

当事者の主張
 納税者は、銀行等からの出金の事実と、証券会社における公社債等の購入の事実は認められても、引き出された金銭で、公社債等を購入したことまでは認められないと主張した。
 これに対し課税庁は、上記イ〜トのうち相続財産に含まれる本件公社債等は次のとおりであると主張した。
 イ  昭和57年3月19日、相続人A名義で購入した利付国債196万5,000円
 ロ  昭和58年3月14日、相続人B名義で購入した野村国債株式ファンド2のうち、利付国債の売却代金を充てた197万3,960円
 ハ  昭和58年8月9日、相続人C名義で購入した山一新公社債株式200口(199万8,000円)
 ニ  昭和58年11月2日、甲銀行の被相続人名義の口座より出金し、相続人D名義で購入した第2回大和公共債株式300万円のうちの150万円
 ホ  昭和59年2月9日、訴外Y名義で購入した第2回セレクトニューメディア200口のうち、被相続人の資金をもって購入した100口(100万円)
 ヘ  昭和59年6月8日、訴外Z名義で購入した日商岩井の株式2万7,000株(711万6,899円)
 ト  昭和59年9月7日、甲銀行の被相続人名義の口座より出金し、相続人G及び同A名義で購入した中期国債ファンドのうちの200万円

判 断
 判決は、同日あるいはこれに近接した日時に、同額あるいは近似した金額の出金及び購入の各事実が認められる場合には、引き出された金銭を他に使用したことが立証されない限り、この出金で公社債等を購入したものと推認するのが経験則に照らし相当であるところ、原告*において、引き出された金銭を他に使用したことの主張立証は何らなされていないから、原告の主張は失当であると判断している。


◆実務上のポイント

 親族名義の預金で名義性の判断を行う場合、資金源が何であるのか、納税者においてある程度は説明できるようにしておく必要がある。

 なお、名義性が疑われるケースは、(1)名義性財産の形成された日と近い日に被相続人の口座から近似の金額の出金がある場合や、(2)被相続人に土地の売却収入など多額の収入があり、その資金が名義性財産に化体されているといった場合である。

 また、名義預金とならないケースは、他の親族から相続により取得したものである場合などが挙げられる。


 裁判例の中では納税者を「原告」、課税庁を「被告」、裁決事例の中では納税者を「審査請求人(請求人)」、課税庁を「原処分庁」ということがある。

 

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