目次 Q2


Question
 債権の評価と取立不能見込額
 債権の評価と取立不能見込額について会社計算規則はどのように規定しているのでしょうか。

Answer
ポイント (1) 前問でも述べたように債権の評価に関して、会社計算規則は通則的な規定を置いているにとどまります。
(2) したがって、より具体的な内容については一般に公正妥当と認められる企業会計の基準その他の企業会計の慣行を斟酌することになります。
(3) 斟酌する対象としては、金融商品会計基準があります。


 債権の評価

 債権の評価に関する会社計算規則の規定を金融商品会計基準と比較して示しますと次のとおりです。

  会社計算規則 金融商品会計基準
評価の原則 ・取得原価(計規5丸数字1
・取立不能見込額の控除(計規5丸数字4
・取得価額から貸倒見積高に基づいて算定された貸倒引当金を控除した金額(金融商品会計基準14)
・償却原価法に基づいて算定された価額から貸倒見積高に基づいて算定された貸倒引当金を控除した金額(金融商品会計基準14但書)(注)
容認規定 ・取得価額が債権金額と異なる場合の適正な価格(計規5丸数字5  
(注)  債権を債権金額より低い価額または高い価額で取得した場合において、取得価額と債権金額との差額の性格が金利の調整と認められるときは償却原価法が強制されます。


 取立不能見込額の算定

 取立不能のおそれのある債権については、事業年度の末日において取り立てることができないと見込まれる額を控除しなければならないとされています(計規5丸数字4)。しかし、取立不能見込額の算定に関する具体的な指示はありませんので、企業会計の慣行を斟酌して、金融商品会計基準における貸倒見積高算定方法を適用することになります。それによると、債権を債務者の財政状態および経営成績等によって、「一般債権」、「貸倒懸念債権」、「破産更生債権等」の3区分に分類し(金融商品会計基準27)、その区分に応じて貸倒見積高を算定することになります(金融商品会計基準28)。

区 分 定  義 貸倒見積高の算定方法
一般債権  経営状態に重大な問題が生じていない債務者に対する債権  債権全体または同種・同類の債権ごとに、債権の状況に応じて求めた過去の貸倒実績率等合理的な基準により貸倒見積高を算定する(金融商品会計基準28(1))。
貸倒懸念
債権
 経営破綻の状態には至っていないが、債務の弁済に重大な問題が生じているか、または生じる可能性の高い債務者に対する債権  債権の状況に応じて、次のいずれかの方法により貸倒見積高を算定する。ただし、同一の債権については、債務者の財政状態及び経営成績の状況等が変化しない限り、同一の方法を継続して適用する(金融商品会計基準28(2))。
  (1) 債権額から担保の処分見込額及び保証による回収見込額を減額し、その残額について債務者の財政状態及び経営成績を考慮して貸倒見積高を算定する方法
(2) 債権の元本の回収及び利息の受取りに係るキャッシュ・フローを合理的に見積もることができる債権については、債権の元本及び利息について元本の回収及び利息の受取りが見込まれるときから当期末までの期間にわたり当初の約定利子率で割り引いた金額の総額と債権の帳簿価額との差額を貸倒見積高とする方法
破産更生
債権等
 経営破綻または実質的に経営破綻に陥っている債務者に対する債権  債権額から担保の処分見込額及び保証による回収見込額を減額し、その残額を貸倒見積高とする(金融商品会計基準28(3))。


 貸倒引当金の表示方法

 会社計算規則においては、各資産に係る引当金の表示方法として以下のように規定されています(計規78、103二)。

表示方法 説   明 根拠条文
間接控除
資産項目別表示
 当該各資産の項目に対する控除項目として、貸倒引当金その他当該引当金の設定目的を示す名称を付した項目をもって表示する方法 計規78丸数字1
直接控除
資産項目別注記
 当該各資産の金額から直接控除し、その控除残高を当該各資産の金額として表示した上で、資産項目別の引当金の金額を注記する方法 計規78丸数字2
計規103ニ
間接控除
一括表示
 流動資産、有形固定資産、無形固定資産、投資その他の資産または繰延資産の区分に応じ、これらの資産に対する控除項目として一括して表示する方法 計規78丸数字1但書
直接控除
一括注記
 当該各資産の金額から直接控除し、その控除残高を当該各資産の金額として表示した上で、流動資産等の区分ごとに一括した引当金の金額を注記する方法 計規78丸数字2
計規103ニ

 実務的には、間接控除・一括表示の方法によることが多いようです。この場合、次のように表示されます。

 流動資産
現金預金
売掛金
  未収入金
貸付金

   貸倒引当金

    ×××
    ×××
    ×××
    ×××
    ×××
   △ ××


コラム
■会社計算規則と会社法施行規則の改正
 企業会計基準委員会から企業結合に関する会計基準が公表されたことや近時の関係法令の改正などを踏まえて、会社計算規則と会社法施行規則が改正され、平成21年4月1日から施行されています。その主な内容を簡単にまとめてみました。
会社計算規則の改正
項 目 内  容
企業結合会計基準等の公表に伴う改正
組織再編等におけるのれん、特別勘定および株主資本等に係る規定の改正
募集株式の発行および新株予約権の行使等に伴う資本金等増加限度額ならびに設立時の株主資本等に係る規定の改正
財務諸表規則等の改正に伴う整備 最近の財務諸表規則等の改正に対応するための会社計算規則の関連規定の整備

会社法施行規則の改正
項 目 内  容
株式に関する規律の改正 種類株式の内容として定款で定めるべき事項に係る規律の明確化など
株主総会参考書類に係る規律の改正 株主総会参考書類に記載すべき事項につき、取締役が提案する議案についての一般的な事項として提案理由を加えることなど
事業報告に係る規律の改正 事業報告の内容とすべき事項について、その条文構成の合理化を図るなど



コラム
■国際会計基準の動向
 IFRS(国際財務報告基準)については、平成21年6月の金融庁企業会計審議会の中間報告において、近い将来の国内適用が現実的なものとなりました。
 適用の対象となるのは開示が必要な上場企業の連結財務諸表であり、中小企業への影響はきわめて限定的といえます。その理由は、上場企業のような詳細な開示を求められないことと、IFRSにおける利益の考え方が確定決算主義による現行の法人税課税方式とは馴染まないことが挙げられます。また、適用する場合には中小企業にとって大きな負担となることにも配慮が必要といえます。
 もっとも、国際会計基準審議会が平成21年7月に中小企業向けのIFRSを公表したことは注目されます。完全版IFRSを簡素化して中小企業に関連性のない項目は省略するとともに、要求される開示の数を大幅に削減したものです。中小企業であっても海外進出企業は進出先の国において、また、上場を指向する企業は将来の適用に備えて対応を求められる可能性がありますので、情報収集は怠らないようにしたいものです。

 

目次 次ページ