目次 第3章 第1節 1−(2)


1.解散事業年度の税務

(2) 課税方式

 企業グループを対象とした法制度や会計制度が定着しつつある中、税制においても法人の組織形態の多様化に対応するとともに、課税の中立性や公平性を確保する観点から、平成22年度税制改正により、資本に関する取引等に係る税制の見直しが行われた。それにより、従来の残余財産に対して課税するいわゆる清算所得課税から、各事業年度の所得に対する課税である通常所得課税へと改正された。すなわち、その事業年度の益金の額から損金の額を控除した金額が課税標準となり、一部の取扱いを除き、原則として通常の事業年度における課税所得計算と変わらないこととなった。

 従来の清算所得課税は、残余財産の価額から、解散時の資本金等の額と利益積立金額等を控除する財産法による所得金額を基に算定されていた。ここでいう残余財産の価額とは、残余財産確定時の時価純資産価額ということができ、また、解散時の資本金等の額及び利益積立金額等とは、解散時の簿価純資産価額ということができると考える。従って、残余財産の価額から、解散時の資本金等の額と利益積立金額等を控除して計算する清算所得の金額は、清算期間中における清算事務等から生じた損益及び資産を処分等した際の譲渡損益からなるということができ、理論上は、従来から通常所得課税による所得金額と原則として一致していたと考えられる。

 これまで清算所得課税がとられてきた背景には、そもそも法人は、解散後において原則として事業を行うことはなく、清算する場合の残余財産の処分手続との関連性があったと考えられる。

 また、清算所得課税は、解散前の事業年度と異なり、税務調整項目としては、寄附金、受取配当金及び還付税金のみで、交際費や役員給与について全額控除することとなっていた。これは、清算事業年度においては、事業を行うこと自体が想定されていないことから、そもそも交際費等の事業と関係ある支出自体が発生しにくいことや、株主及び債権者が清算事務について監視していることから、このような支出は規制する必要がなく、制限を設けていなかったと考えられる。

 このように清算については、従来事業の継続不能が建前としてあったことから清算所得課税を適用して課税していたが、近年の解散は、法人の設立等が活発になっているなか、事業の継続不能ではなく、黒字会社の清算や、形式上解散手続をとりつつ、事業譲渡等により他の法人において同一事業をそのまま継続して行うことも考えられる。このような場合には、実際には事業を継続しているにもかかわらず、清算所得課税では経済実態にあっていない課税関係になっていることがあった。

 その結果、資本に関する取引等に係る課税の見直しの一環として、そのようなことを防止する観点から、清算所得課税から通常所得課税に改正されたと考えられる。

 

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