目次 第3章 第1節 1−(1)


1.解散事業年度の税務

(1) 事業年度

 前述のとおり、改正前は、解散の日を境に通常所得課税と清算所得課税とで課税方式が異なっていた。そのため解散の日までの期間と解散後の期間で事業年度を区切るみなし事業年度が設けられていた。

 改正後は、解散した後も原則として課税方式は変更されないが、解散後の法人の存在目的が清算のための事務処理のみとなるため、法人としての性質は解散前後で大きく変わることとなる。また、解散前後で原則として課税方式を一致させつつも、例えば、圧縮記帳の適用等、解散後には適用できないものがある。

 従って、みなし事業年度を設け、解散前後で事業年度を区切る等の措置は従来同様必要となる。なお、ここでは解説の都合上、解散の日の属する事業年度(以下「解散事業年度」という)のみならず、残余財産確定の日の属する事業年度(以下「清算最後事業年度」という)まで併せて解説することとする。

 具体的には以下のとおりとなる。


A 解散時のみなし事業年度

 法人において、課税所得は納税額を把握するための1つの指標であり、その課税単位である事業年度の把握は、必要不可欠である。

 法人が解散した場合には、解散の日の属する事業年度開始の日から解散の日までの期間及び解散の日の翌日からその事業年度終了の日までの期間がそれぞれみなし事業年度となる(法人税法14条1項1号)。また、株式会社の場合には、解散後の清算中の事業年度(以下「清算事業年度」という)については、定款で定めた事業年度にかかわらず、会社法494条1項に規定する清算事務年度となるため、清算事業年度については、解散の日の翌日から清算事務年度終了の日までの期間、つまり解散の日の翌日から1年間となる(法人税基本通達1―2―9)。

 なお、ここでいう「解散の日」とは、株主総会その他これに準ずる総会等において解散の日と定めた日、解散の日を定めなかったときは解散決議の日、また解散事由の発生により解散した場合には当該事由発生の日をいう(法人税基本通達1―2―4)。

 この間、特別清算手続の場合には、特別清算の申立て及び開始命令を受けることとなるが、これらの手続は、みなし事業年度においては影響を及ぼさない。


B 残余財産確定時のみなし事業年度

 清算中の法人(以下「清算法人」という)は、最終的に残余財産を分配して清算事務を終了し、清算結了をむかえることとなるが、その法人の残余財産が事業年度の途中で確定した場合には、その事業年度開始の日から残余財産確定の日までの期間を清算最後事業年度としてみなし事業年度を設けることとなる(法人税法14条1項21号)。

 ここでいう「残余財産確定の日」とは、特段明文化されていない。ただし、残余財産は、全ての資産を換価し、債務を弁済することによって確定するため、一般的にはこれら全てが完了した日を「残余財産確定の日」とすることとなり、清算人が状況に応じて判断して定めることになると考えられる。

 なお、金融機関に利息が発生する口座を有している場合は、預金利息がその口座の解約の日まで発生することとなる。この預金を基に残余財産を分配することとなるため、おそらく預金口座の解約の日は、残余財産分配の日以後になると考えられる。

 仮に残余財産が少額の場合には、残余財産確定の日前に当該口座を解約し、現金として手元に保管することにより残余財産を確定されることもできるが、残余財産が多額となる場合には、多額の現金を手元に保管することも困難であり、現実的ではない。従って、残余財産は預金利息の金額が明らかにならなければ確定せず、口座の解約は残余財産分配後となるというタイミングの矛盾が生じることとなる。

 この場合には、あらかじめ残余財産分配の日及び預金口座の解約の日を決め、金融機関にその日までの預金利息を計算してもらうことにより残余財産を事前に確定させる方法や、利息の発生しない決済性預金口座に預金全額を移し、預金利息の発生による残余財産への影響を防ぐ方法等が有用であると考えられる。


C 継続した場合のみなし事業年度

 清算法人が、その後の情勢の変化等により解散前の状況に戻り、再度事業を行うこと(継続)が稀にある。その場合もみなし事業年度を設けることとなる。

 具体的には、その事業年度開始の日から継続の日の前日までの期間及び継続の日の翌日からその事業年度終了の日までの期間をそれぞれみなし事業年度とすることとなる(法人税法14条1項22号)。

 ここでいう「継続の日」とは、株主総会その他これに準ずる総会等において継続の日と定めた日、継続の日を定めなかったときは継続決議の日をいうこととなる(法人税基本通達1―2―4)。

 

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