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2 自己信託への規制

(1)公正証書等による信託設定

 信託宣言により信託を設定するには、確定日付のある公正証書等によらなければならないことから、以下のイ、ロによって信託の発生の効力の発生日を明確にすることで、詐害行為に少しでも対抗できる措置が講じられました。(新信託法4(3))

 公正証書または公証人の認証を受けた書面もしくは電磁的記録(公正証書等)によってされる場合には、その公正証書等の作成

 公正証書等以外の書面又は電磁的記録によってされる場合には、受益者となるべき者として指定された第三者(その第三者が二人以上ある場合にあっては、その一人)に対する確定日付のある証書によるその信託がされた旨およびその内容の通知


(2)強制執行等の簡易化

 本来、信託財産に対しては、強制執行、仮差押え、仮処分もしくは担保権の実行もしくは競売または国税滞納処分をすることができないとされています。しかし、自己信託の場合には、債務者である委託者が自らの資産を信託宣言して債権者から自己の財産を守ろうとする場合も考えられることから、自己信託については、債権者詐害行為への防止として、簡単な手続で債権者は信託財産に対して強制執行等を行うことができるようになっています。(新信託法23)

 つまり、債務者である委託者がその債権者を害することを知って自己信託をしたときは、信託財産責任負担債務に係る債権を有する債権者のほか、その受託者である委託者に対する債権で信託前に生じたものを有する者は、信託財産に属する財産に対し、強制執行、仮差押え、仮処分もしくは担保権の実行もしくは競売または国税滞納処分をすることができるとしています。

 ただし、受益者が現にいる場合においては、その受益者の全部または一部が、受益者としての指定を受けたことを知った時または受益権を譲り受けた時において債権者を害すべき事実を知らなかったときは、この限りでないとされています。


(3)裁判所による信託終了命令

 債務者等が、強制執行などを免れる目的で自己信託を利用し、公益の確保のために終了が必要と認められる場合には、裁判所は、法務大臣または委託者、受益者、信託債権者その他の利害関係人の申立てにより信託の終了を命ずることができるとされています。


(4)信託業法の見直し

 信託法の改正により信託業法も改正されました。金融審議会で「信託法改正に伴う信託業法の見直しについて」では、信託宣言であっても受益者保護の姿勢には変化がなく、信託業法の規制の対象範囲も、自己信託といえども、現行の通常の信託と同様に考えるべきで、規制の対象となるかどうかは「不特定多数の受益者を予定しているかどうか」という判断基準で規制対象かどうかを判断するとしています。

 とは言っても、自己信託では他の信託に比べて、自己勘定と信託勘定の分別管理の問題に加え、信託財産の二重譲渡や、外部からの信託宣言の内容の確認や検証がないことから、新信託業法(第50条の2)では、自己信託に関して次のように規定しています。

 受益権を多数の者(50人以上)が取得することができる場合には、受益者の保護のため支障を生ずることがないと認められる場合を除き、内閣総理大臣の登録を受けなければならず、登録を通じてその内容を詳細に開示するとともに、自己信託登録簿は公衆縦覧に供せられる。

 上記の登録を受けた者が自己信託を行うときは、政令で定める第三者により、当該信託財産に属する財産の状況その他の当該財産に関する事項を調査させなければならない。

 内閣府令で定めるところにより、兼業を営むことについて、自己信託に係る事務を適正かつ確実に行うことにつき支障を及ぼすことのないことが求められる。

 

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