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1 自己信託の問題点

(1)債権者詐害の問題

 上述しましたように、まず、委託者兼受託者の債権者から逃れるための自己信託の制度を悪用した債務者による財産隠し、執行免脱行為など債権者詐害の問題があります。委託者と受託者が同一であることから、人間に例えれば、右の手に持っている物を左の手に持ち代えるだけで、債務者から逃れられるという制度そのものに危険性があるのです。そこで、新信託法では、それに対しての防止策が盛り込まれました。


(2)分別管理の問題

 受託者は、自己固有財産と信託財産を明確に区分し、分別管理をしなければなりません。信託財産の倒産隔離機能の確保や、受託者の忠実義務の履行を担保する観点からも重要ですが、自己信託は、委託者と受託者が同一であるため、自己の財産と信託の財産との厳密な分別管理が困難ではないかと危具されています。

 例えば、取引相手から見れば、この資産はその委託者兼受託者の固有財産に属するのか信託財産になるのかは分かりにくいのではないかということです。土地や建物など通常登記を要するものでも、登記簿上は「○×株式会社所有」というのが分かっても、それが信託財産なのかどうかは、自己信託の場合、他に登記方法が無いことから第三者には見えない不安定な要素となります。


(3)自己信託の認知の問題

 公正証書によって自己信託を宣言しても、第三者には知るところでない場合が多いということです。例えば、ある人が公正証書遺言を行っても、法定相続人ですら、聞くまではわからず、毎日公証人役場に行って確かめるという人は、まずいません。同様に、自己信託は委託者の単独行為であり、特定の相手も存在しないため、一般には分かりにくいとされています。


(4)受託者の義務懈怠の問題

 委託者から信託を受けた財産を、受託者は受益者のために管理・処分することになりますが、委託者と受託者が同一であることから、受託者個有勘定の方が、ややもすれば優先されて、受託者の義務履行が完全に行われないのではないのかという問題が依然として残ります。

 

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