目次 はじめに


はじめに

 新信託法によって信託宣言(自己信託)が認められることになりました。旧信託法では自己信託を認めると信託財産は倒産隔離されることから、執行免脱など悪用されるのではないかといわれ、「委託者=受託者」となることはできないとするのが通説でした。ところが、自己信託は、欧米では広く認められ利用されている信託の制度でもあることから、今回の改正で認められることになりました。

 自己信託とは、委託者が自ら受託者となる信託であり、委託者が自己の財産を他人のために管理処分する旨宣言(信託宣言=Declaration of Trust)することによって信託を設定することをいいます。


 信託法第3条第3号で「特定の者(委託者)が一定の目的に従い自己の有する一定の財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為を自らすべき旨の意思表示を公正証書その他の書面又は電磁的記録で当該目的、当該財産の特定に必要な事項その他の法務省令で定める事項を記載し又は記録したものによってする方法」と定められました。

 つまり、自己が所有する一定の財産を、「これから信託財産として、その他の固有財産とは別に扱います」と宣言することによって信託を設定することになるわけで、自己の財産を第三者に信託するのではなく自分に信託することになり、「委託者=受託者」と少し我が国ではなじまないスキームが誕生することになりました。

 自己信託の設定が望まれたのは、海外とのバランス上の問題が多く、資産流動化において特別目的会社をケイマン諸島に設立しなくとも、自己信託を活用すれば日本国内でも可能となりました。また、銀行等が自己の貸付債権を証券化するのに、信託銀行に貸付債権を信託し受益権を売却していましたが、自己信託が認められれば、わざわざ信託銀行を介さずとも、銀行自ら自社の貸付債権を信託して受益権を販売できるようになります。

 さらには、法人が新規事業に乗り出す場合でも、子会社を設立して、出資を募るより、その事業部門そのままを自己信託して資金調達を図ることができるなどメリットが大きくなりました。

 一方、デメリットとしては、当初から懸念の強かった声として、債務者が執行免脱により委託者(兼受託者)の債権者の弊害となるのではないかという恐れがありました。このため新信託法では、自己信託については弊害防止のために規定を設け、公正証書によらなければ自己信託は成立せず、また、悪質な場合には委託者の債権者が詐害行為取消権の行使を要さずに、信託財産に強制執行を行うことが認められました。

 さらに、公益確保のため裁判所が信託の終了を命じることができるなどの措置が講じられました。その周知期間として、新信託法施行後1年間は適用されず凍結されます(新信託法附則2)。その間、自己信託の制度悪用防止や税務上の取扱いについて必要な措置が施されるべきことが決議されています。

 

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