第9章 |
第9章 税務調査 |
医療機関の税務調査については、一般の会社、個人事業主と大きく相違するものではありません。このため、以下では医療機関特有のポイントに絞って解説します。
医療機関の売上(医業収入)の大部分を占める社会保険収入は、原則として70%が国保及び社会保険事務所に対する診療報酬請求(「レセプト」という)となり、残りの30%が窓口収入(患者から直接もらう現金収入)となります。 (1) レセプトの収入計上基準(未収金の計上基準) レセプトの発生から入金までの流れを以下に記載します。
(2) 未収計上方法 この流れから、税務調査対策で問題となるのは査定減の処理であり、決算時に未収入金をいくら計上するべきかの問題です。この点は、原則として当初のレセプト請求額で未収計上し、減額となった部分についても含めて計上することが必要です。 減額となっても決算時点では再請求できる可能性があるためであり、誤解の多い点ですので留意下さい。 (3) その他社会保険診療以外の収入 市町村の健康診断、労災保険、自賠責保険等の収入が別個あります。この点では、特に市町村及び自賠責保険について留意が必要です。 市町村からの受託業務については多数の項目があり、その請求入金のタイミングも長期になるものがあります。また、自賠責保険については請求後6ヶ月以上経過するものも多数あり、未収の計上漏れとして指摘されることが多い項目です。決算時点で請求管理簿のチェックを実施することが望まれます。 (4) その他の注意事項
(5) チェック時の主要な留意点 ・レセプト点数×10円=現金分を含む社会保険収入総額 ・現金収入割合=原則30%、生活保護等の場合は0% ・医事システムで現金入金すべき金額は明示される(日計表等)
(1) 医療法人化した場合の留意点 医療法人化する場合、個人事業で使用していた財産の引継ぎの問題で否認を受けることがあります。 法人成りの場合、税務上も医療法上も財産価値のあるもののみ引き継げることになっていますので、前払費用など個人事業のうちに、できる限り損金経理しておく必要があります。 なお、診療所を賃貸している場合は敷金・保証金のうち、契約期間経過等により返済されない金額(敷引き等)は注意が必要です。この費用は同一事業に供与されているにもかかわらず、個人事業で解約、法人で新規契約しないかぎり個人所得でも法人所得でも損金にならないことになります。 また、個人事業の最終年度必要経費で事業税の損金算入ができることに留意下さい。法人税務調査で指摘された時点では、すでに更正請求(1年以内)できない場合が多く、会計事務所の責任問題となる場合があります。 (2) 業者からの贈与 最近は少なくなってきてはいますが、医療業界は他の業界と比較しリベート、贈与などが多い業界です。特に多額の設備が絡む場合は医療機器、パソコン等の贈与がある場合があります。2〜3年前には透析関連機器に関し、附属設備の工事を業者が無料で実施していたことがあり、透析材料業者と透析実施病院が集中的に調査を受けたことがあります。 設備提供業者と材料の供給業者の整合性が取れていれば、材料仕入価格に反映されているものとして否認を受けるか否かは微妙であるものと考えられますが、このような場合は役員へのパソコン等備品の贈与もあり、個人的使用として否認された事例があります。医療機器、備品については定期的に棚卸しをし、業者提供資産についてはその無償提供の合理性について説明できるようにしておく必要があります。 (3) 役員報酬 親族役員の報酬・給与について近年税務調査で指摘されることが増加しています。親族の業務内容、勤務形態、他の同レベル職員の給与その他合理性を説明する必要があります。特に医療機関の場合は、親族関係者において業務に直接関連する看護師等の資格の有無が報酬の多寡の目安となることが多いです。合理的な説明ができるよう事前相談しておくことが望まれます。
(1) 家事関連費 個人診療所の場合は、個人の家計費と事業の費用とに曖昧な項目が多く発生するものです。水道光熱費、電話代、清掃費等多数の共通費があり、合理的な按分基準を事前に定めておくことが望まれます。 (2) 交際費 法人と異なり交際費の金額制限が個人事業の場合ありません。このため、医師会役員の先生などでは高額の所得が発生しても、交際費を多額に使うという理由で法人化しない方もいらっしゃいます。 しかし、税務調査においては、個人の交際費においても無制限に認められるものではなく、事業との直接的な関連性が要求されるものです。在宅診療のための病院への営業活動、今後の事業拡大を目指した業界関連者との情報入手活動など目的は多岐となりますが、根拠を明確にする必要があります。
医療機関では収入額の大部分を占める社会保険診療報酬に関し、消費税及び事業税は両者とも非課税となっており問題ないですが、その他の項目は課税・非課税が入り混じり、かつ金額的にも少額なため申告計算を誤るケースが多いようです。 なお、事業税については都道府県により取扱いが多少異なる点にご留意下さい。東京都の場合では労災保険(消費税非課税、事業税課税)、職員関係、駐車場料職員負担金、院内託児料(消費税課税、事業税実費負担であれば非課税)等にご留意下さい。 |