目次 第1章


第1章 医療法人制度の体系

1.概要 1-1


 医療法人についてはその形態から上記のように区分することができますが、実際にはほとんどの医療法人が持分の定めのある医療法人社団であり、医療法人財団、特別医療法人及び特定医療法人が若干あるという状況です。なお、社会医療法人は今後予定されている形態です。


(1) 医療法人社団

 一定の目的の構成員(社員)の集合をもって構成されるものであり、根本規則は定款になります。


(2) 医療法人財団

 一定目的のために提供された財産を設立者の意思に従って運営されるものであり、根本規則は寄附行為になります。


 医療法人社団と医療法人財団について運営形態は別として、税務上の相違としては出資に対する課税関係が主な点となります。

 財団の場合には、個人または法人が設立に必要な財産を法人に無償で寄附することにより設立された医療法人であり、提供者に持分たる権利はなく、解散時における残余財産は理事会でその処分方法を決定し、都道府県知事の認可を受けて処分します。すなわち、法人設立時及び財団への変更時には、基本的にはみなし贈与税が課税されることになります。

 これに対して社団の場合には、出資者は原則として出資持分に応じた出資持分を有します。従って、社員の退会時または法人の解散時には出資持分に応じての払戻し、または残余財産の分配を受けることができます。この点で株式会社に類似する法人ともいえますが、配当禁止という点で他の医療法人と同様の制約を受けており、このため税法上も同族会社の留保金課税の適用がない点が特徴です。

 医療法人社団はこのように出資持分に応じた金額を社員退社時に返還することが原則なので、財政的には安定的ではない性質があるといえます。このため後述の出資額限度法人制度がありますが、これに関してもみなし贈与課税の問題が残されています。


(3) 特定医療法人・特別医療法人・社会医療法人

 [1]  特定医療法人

 租税特別措置法第67条の2の規定による国税庁長官の承認を受けたものであり、持分の定めはなく同族支配について厳格な規制が行われていますが、メリットとして法人税等における軽減税率が適用されています(税率:一律22%)。ただし、下記のとおり差額ベッド料を徴収できる病床数の制限等一定の制約があるため、税額は減少しますが移行後の法人利益が減少する可能性があり、専門家の判断を要する点にご留意下さい。

 [2]  特別医療法人

 特別医療法人についても特定医療法人とほぼ同様の要件で認められる法人の形態ですが、特定医療法人と異なり医療法によって認められているものです。このため、特定医療法人かつ特別医療法人という場合も生じます。また税負担の面では優遇措置はありませんが、唯一収益事業を行うことが認められています。

 なお、実際に特別医療法人が行うことができる収益事業は13事業に限定されていますが、下記の通り幅広い事業内容です。

   農業、林業、漁業、製造業、情報通信業、運輸業、卸売・小売業、不動産業(土地建物売買業を除く)、飲食業・宿泊業、医療・福祉、教育・学習支援業、複合サービス事業、サービス業

 [3]  社会医療法人

 社会医療法人とは第5次医療法の改正により平成19年4月1日より創設されることになった新しい医療法人の形態です。

 社会医療法人については、2014年度をもって廃止される特別医療法人に代わり、形骸化しつつある医療法人の公益性を重視し、かつ医療法人の運営に伴う資金調達面を考慮したものとして主に以下のような制度が創設されました。

A 特別医療法人と同様に収益事業を行うことができる。
B 社債の発行が可能
C 外部監査の徹底

 注目すべきは社債の発行ができる点です。近年医療法人における社債として医療機関債が制度化されていましたが、これについては民法上の消費貸借契約に基づく証拠債権という位置づけであり、結果として金融関係者からの多額の資金調達の手法としては不向きでした。これに対して社会医療法人における社債は通常の有価証券という扱いになり、一般投資家が容易に投資ができるような制度となると思われます。ただし反面、通常の有価証券という扱いから証券取引法の対象ともなり監査が重要視されると思われます。

 社会医療法人は自治体病院の受け皿として期待されますが、公募債の資金は運営が行き詰った医療機関の買収資金に充てられることも考えられそうです。

 特別医療法人については平成19年4月1日以降も5年間の経過措置が行われ、その間に社会医療法人への移行を行うよう指導されることが予定されています。5年経過後は特別医療法人が存在しなくなるため、一般の医療法人社団もしくは医療法人財団となります。なお、特定医療法人については、医療法ではなく租税特別措置法の規定であるため影響を受けることはありませんが、公益性・非営利性が強い法人であり、社会医療法人の認可を受ける場合が多くなるものと考えられます。


(4) 出資額限度法人

 出資額限度法人は、持分の定めのある医療法人について、解散及び社員の退会時における出資の払戻しについて、出資額を限度とすることを定款で定めた法人です。医療法人については剰余金の分配が禁止されているため、事業遂行上生じた剰余金は内部留保されていきます。長年運営している医療法人については内部留保された剰余金が多額になり、出資の払戻し請求が起きた場合、法人の運営を圧迫するほどの払戻し金額になることもあります。

 出資額限度法人はこのような事態の対応策としての医療法人社団の一形態であり、それ自体は以前から行われてきましたが、実際の税務については明文化されておらず曖昧なままでした。しかし平成16年において出資の払戻し及び相続時における贈与税の課税関係が明文化されました。出資の払戻しに関する課税関係は以下のようになります。

社員の退会時

 ア  退社した社員

 払戻額が出資額を超えない限り課税関係は生じません。

 イ  医療法人
   
 医療法人については、出資金の減少という資本取引に該当するため課税関係は生じません。

 ウ  残存社員

 他の社員についてはみなし贈与課税が発生します。社員が退社し出資額のみの払戻しを受けた時点において、その社員の出資に対する剰余金部分が残りの社員の出資額を増額させることが確定しますので、この時点においてみなし贈与課税が行われるわけです。ただし、次のいずれにも該当しない場合にはみなし贈与課税が行われません。

   当該出資額限度法人に係る出資、社員及び役員が、その親族、使用人など相互に特殊な関係をもつ特定の同族グループによって占められていること

   当該出資額限度法人において社員(退社社員を含む)、役員(理事、監事)またはこれらの親族等に対し特別な利益を与えると認められる者であること

   具体的には以下の3つの要件のいずれにも該当しない場合には、上記A、Bの要件を満たさないことになり、みなし贈与課税は行われません。

   出資者の3人及びその者と法人税法施行令第4条第1項または第2項に定める特殊の関係を有する出資者の出資金額の合計額が、出資総額の50%を超えていること

   社員の3人及びその者と法人税法施行令第4条第1項に定める特殊の関係を有する社員の数が総社員の50%を超えていること

   役員のそれぞれに占める親族関係を有する者及びこれらと租税特別措置法施行令第39条の25第1項第2号イからハまでに掲げる特殊な関係がある者の数の割合が3分の1以下であることが定款で定められていないこと

 上記のうち、社員に占める同族割合50%の基準は親族関係者等を含む上位3グループの合計値で算定されますので、実際上この50%基準を満たすことは特定・特別医療法人に近いハードルの高い条件となります。このため近年は出資限度額法人として設立または移行する法人は少ないものと思われます。

 なお、平成19年4月より、医療法人の非営利性の強化の一環として、新規医療法人社団設立時に出資限度額法人設定が強制されることが決定しています。


2.MS法人 1-2

(1) MS法人の概要

 MS(メディカルサービス)法人という名称は俗称であり、単なる病院、診療所に土地や建物の賃貸、医療材料の仕入販売、経理業務等の代行などを実施する会社のことを意味します。

 大多数のMS法人は、関係する病院、診療所の法人税、所得税、相続税等の節税を目的として設立されています。また、医療法人は特別医療法人等の例外を除き、原則として賃貸業務等の収益事業を実施できないこと、及び医療法人の配当禁止の規定があるため、MS法人(通常は有限会社または株式会社)を設立し、運営しているのが実態です。

 なお、配当禁止の結果、医療法人の出資持分の評価が多額となり、相続時に相当の負担となることが少なからず発生しています。また、実務的にも材料、医療機器などは卸業者への売値と医療機関への売値に大幅な差異があることも多く、卸業者であるMS法人を経由することによりグループ全体としての利益が発生することがある点に留意して下さい。


(2) 税務上の留意点

 税務上、注意すべき点は「独立した法人としての実態」があるかにつきます。いわゆるペーパーカンパニー形式など実態がない場合は否認の可能性がありますので、以下の項目について事前に検討する必要があります。

 [1]  取引における差益の合理性(経済取引として成立するものかの観点)
 [2]  実務を行うべき人員が確保されているか?
 [3]  契約書等により、共通費の費用負担方法及び取引のルールが明確か?
 [4]  多額の取引の場合、医療法人の理事会等により承認されているか?
 [5]  MS法人の役員構成


(3) 会社法について

 平成18年5月より旧商法が会社法として施行されており、取締役等の組織に関して緩和された要件となっております。MS法人の場合、簡単な組織で十分ですので取締役1名(監査役なし)のみの設定が改正により可能となっています。


3.今後の医療法人制度の変革と税務上の対応 1-3

 平成19年4月施行予定の医療法人についての構造改革の原案が決定されました。その構造とは以下の通りです。

 [1] 医療法人(以下、「一般の医療法人」という)
    ⇒ 出資額限度法人へ移行

 [2] 特定・特別医療法人(公益性、非営利性の高い医療法人)
    ⇒ 社会医療法人(認定医療法人)へ移行

 今までの一般の医療法人社団についても出資額限度法人に限定されること、及び特別医療法人は社会医療法人へ転換を要求されることが予定されています。大幅な改正であり、国会の審議等注意深く確認することが必要と思われます。

 なお、この改正に伴う税法の改正は、通常医療法の制度が先に決まり、その後に税制改正とつながるため現状では明確になりません。

 

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