目次 Q9


Q9 「処分権主義」について説明して下さい。

 「処分権主義」とは、訴訟手続の開始やその審判範囲の特定、さらには訴訟の終結などについて、訴訟当事者の自律的な判断による決定権限とその自己責任を認め、裁判所はその決定に拘束されるという原則を言います。

 処分権主義 処分権主義とは、訴訟手続の開始やその審判範囲の特定、さらには訴訟の終結などについて、訴訟当事者の自律的な判断による決定権限とその自己責任を認め、裁判所はその決定に拘束されるという原則を言います。
 民事訴訟においてこうした処分権主義が認められるのは、民事訴訟が私法上の権利や法律関係をめぐる争いの解決をめざすものだからです。私法上の権利や法律関係については、実体法上、私的自治の原則が妥当し、当事者の自由な処分に委ねられています。

 そこで、これらをめぐる争いが生じた場合に民事訴訟手続を利用して解決するか否かについて、また利用するにしてもどの限度で利用するのかという点について、さらには何らかの理由によりもはや裁判所の判決による紛争解決を求める必要がなくなったとき、訴訟手続を終結させることについて、当事者の自由な意思による決定権限を認めたのです。

 処分権主義のあらわれ 訴訟は、当事者が裁判所に訴えを提起して初めて開始されます。例えば、貸した金を返さない者がいるからといって、裁判所が突然裁判を始めることはありません。貸した人は、話し合いで解決しようと考えているかもしれませんし、もうあきらめようと思っているかもしれないからです。これは、訴訟手続の開始についての処分権主義の“あらわれ”です。

 次に、貸した人が訴訟を提起するにしても、貸した金のうち今いくら返して欲しいのかはっきりさせる必要があります。貸した金を全額返して欲しいのか、一部をとりあえず返して欲しいのか、全額だとしても利息分はどうするのか等、何を求めるのかはっきりさせなければなりません。この当事者が求める審判対象のことを訴訟物と言います。訴訟物の特定は、処分権主義により当事者に委ねられています。
 そして、このことに対応して、裁判所は当事者の申し立てていない事項について、あるいは申立事項を超えて裁判をすることが許されません(民訴法第246条)。例えば、貸した人が貸金の一部しか請求していないのに、全額の支払いを命ずる判決をすることは許されないのです。

 さらに、いったん訴訟を開始した当事者も、やはり話し合いで解決したいから裁判はやめにしたいと思うかもしれません。そのようなとき、貸した人は自分の意思で訴訟を終了させることができます。これが訴訟の終結における処分権主義のあらわれです。

 

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