目次 Q10


Q10 「訴訟物」について説明して下さい。

 「訴訟物」とは、訴訟における審判対象のことです。訴訟上の請求とも言います。
 訴訟物は審判の対象ですから、訴訟手続の始めから明確に特定されていなければなりません。訴訟物の特定は、実体法上の権利を基準にしてなされます。

 訴訟物(訴訟上の請求) 訴訟物(訴訟上の請求)とは、訴訟における審判対象のことです。訴訟物は、一定の権利主張、すなわち権利・義務または法律関係の存否の主張です。例えば、100万円を貸したところ返してもらえないので訴えたという場合の訴訟物は、原告から被告に対する100万円の給付請求権(消費貸借契約に基づく貸金返還請求権)です。

 訴訟物の特定の必要性 訴訟物は、訴訟における審判の対象ですから、訴訟手続の始めから明確に特定されていなければなりません。対象が明確にされていなければ、裁判所は何について審理・判決する必要があるのかわかりませんし、被告も防御のしようがないからです。

 もう少し具体的に説明すると、裁判所は訴えが適法である限り、請求の全部について裁判しなければなりませんし(民訴法第258条第1項)、請求として主張されたものと異なる権利関係について判決することはできません(民訴法第246条)。被告にとっては、審判の対象が特定されないまま審理が開始されても、何についてどのような攻撃防御を展開すべきか明らかでなく、不意打ちの危険にさらされることになります。
 また、訴訟物は重複訴訟の禁止の範囲(民訴法第142条)や、既判力の客観的範囲(民訴法第114条第1項)などの問題において重要な基準となりますし、管轄裁判所の決定や訴状に貼る印紙額(裁判所の手数料)の決定にあたっても、訴訟物の決定が前提となります。

 訴訟物の特定基準 そこで、訴訟物を特定する必要があるわけですが、訴訟物の特定については、実体法上の個々の権利を基準にすべきだとするのが実務です(旧訴訟物理論)。先の例では、単に原告から被告に対する100万円の給付請求権というだけでなく、消費貸借契約に基づく貸金返還請求権と主張することによって、訴訟物が特定されることになります。

 

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