目次 序章


序 章

ルール社会と税理士

 平成13年5月25日に「税理士法の一部を改正する法律」が成立し、平成14年4月1日から施行されることになりました。

 今回の改正の背景に、税法や税務自体の複雑化といった事情があることは言うまでもありませんが、それとは別に、情報開示と自己責任の社会への移行、ルール社会の到来といった時代の変化があることを見逃してはなりません。一連の行政改革・司法改革によって事前規制から事後監督へ、行政裁量から法の支配へと、世の中は変わりつつあります。このような社会では、開示された情報をもとに、ルールである法に従い、自己責任において物事を判断し処理していくことが要求されます。紛争が生じた場合には、やはり訴訟において法に従って解決していくことになります。

 このような時代の変化に対応して、税理士は、これまで以上に自己の拠りどころであるルール、すなわち税法・税務に精通することが求められます。税務署とのネゴのみによって業務を遂行できた時代は終わりつつあります。また、紛争が生じた場合に備えて、納税者の利益や自己防衛のために、訴訟の視点をもって日常業務を遂行していくことがますます重要になります。

 一昔前は、「お上」に逆らうことへの抵抗感から、国を相手取る税務訴訟は非常に件数が少ないものでした。しかし最近、納得できないことには断固として戦う「ものを言う」納税者が増えてきています。これは何も税務訴訟に限られません。税理士に対して、損害賠償を請求する訴訟もますます増えているのが現状です。

 来るべきルール社会ひいては訴訟社会において、納税者の利益を最大限に図るためにも、また専門家としての自己防衛のためにも、税理士が訴訟の視点を持つことはもはや必須事項であるといっても過言ではありません。


補佐人になることのメリット

 税理士が補佐人となり裁判所において陳述することの最大のメリットは、訴訟の場においても納税者の利益を守ることができるという点にあります。納税者からも、補佐人として最後まで面倒をみてくれる税理士は、非常に高く評価されるはずです。

 しかし、補佐人として訴訟の現場に身を置くメリットは、実はそれだけにとどまるものではありません。来るべきルール社会・訴訟社会では、訴訟という段階に至らない日常業務においてでさえも、訴訟の視点が要求されます。この訴訟の視点について一言で説明するならば、立証の重要性ということになります。

 補佐人として税務訴訟等に携わると、訴訟において証拠がいかに大切かということが身に沁みてわかるはずです。それどころか、証拠が全てであると言ってもよいでしょう。立証できない主張はほとんど意味を持ちません。特に現在の税務訴訟では、通常の民事訴訟よりも、原告たる納税者に要求される証明の程度は高いのではないかというのが実感です。

 このような訴訟の視点は、税理士の日常業務の遂行を変化させるでしょう。おのずと税法の要件事実をおさえ、立証の視点をもって、物事を判断し処理していくようになるはずです。これは、いざ訴訟になったときに勝敗の決め手となる証拠を日々固めていくことを意味します。気がつけば、それがそのまま税理士職業賠償責任を追及されないための予防策になっています。

 税理士補佐人制度は、一部の特殊な税理士のものではありません。まさに、時代が税理士一般に求める税法の専門家たる姿がそこに現れているのです。

 

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